蒼の国-月と太陽- |
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こんなわけで人気ロックバンドFairyは人々の記憶から消えたのであった。
思えば短いゴールデンだったなあと、潤は思うのであった。
そして”蒼の国”での新たな人生が幕を開けた。
不老不死の国などといっても見かけは自然のなだらかな丘に建つ閑静な街並みがおもちゃの
世界のようにぽつんと造られていてここに居る全員が同じマンションのような建物に住んでいた。
この新入りメンバーにも各々部屋が与えられ、まるで地上の生活と何ら変わりのない感じであった。
一同は高宮に連れられて此処で住む上のいろいろな説明を受ける日々が始まった。
そうして生活が落ち着いて来た頃、いよいよ仕事に入るための研修が行われた。
「さて、皆さん、これから初めての仕事に向かうわけですが初めに少々ご説明があります。
まず、この研修期間中は皆さん全員で一緒のところへ行って頂きますが、実務になると違います。
私達は人数が少ないものですから、通常の仕事は2〜3人で行動します。かなり大係りな仕事でも
人数は多くて10人程度です。それから、これからお仕事をして頂くにあたって大事な事をひとつ
申し上げます。仕事は史実と事実のかけ離れている時代へ行ってそれをある程度近付くように
修正するのが主なのですが、その中には革命期や戦争期に当ることも多くあります。
したがって武器の使用は許されております。やむをえない場合は使って頂いて結構です。又、
使わざるを得ないことも多いでしょう。ですがその後の地球環境に影響を及ぼすようなものは
禁止されています。例えば、核ですとか化学兵器の類です。皆さんは武術に長けている方が多いので
戦争期や革命期に行くことが多くなると思いますので。」
ええー!?では人を殺したりもするんですか?と潤や信一が訪ねた。
高宮は少し下を向いたように見えたが、すっと頭をあげてきっぱりと言った。
「そうです。それが私達の仕事、、、役目、ですから。」
そうなのだ。きっと、不老不死なんてそんなにいいことじゃない。誰しも憧れるけれど、それは空想の
世界であって実際じゃないから。だから憧れるんだ。決して手に入らないから、、、
僕達は今、その扉の前に立った、、、!
潤の瞳は登り来る朝陽のようにきらきらと輝いていた。
そうしてここでの生活にも慣れ、いろいろな時代へ行き、恋をした者もいて。あの飛行機事故から
どれくらい経ったのか。
久し振りにこの9人が揃って高宮に召集された。
遼二が倫周に何か話し掛けている。
「なあ、倫。今日久し振りに一杯やらないか?」
そう言うと、倫周も喜んでOKした。
「じゃあ、どこにするかなあ?そうだ、河辺で花火ってどうだ?」
と遼二の顔を伺った。
「お、いいねえ。花火なんて風流じゃん。」
遼二も乗り気みたいだ。
じゃあ、着替えたら行くから!と言って2人は別れた。
ここ”蒼の国”には地球上での自然現象がごく限られたものしか存在しない。
とはいっても時間は地上と何ら変わりなく、従って昼と夜は存在したが雨や嵐等の現象は無かった。
只、昼は穏やかに晴れ渡り、夜は月明かりが差すといったふうであった。なぜそんな現象だけが
残されているのかというと、高宮の話ではこの国の創設者たちが太陽と月を異様に好み、雨嵐を
意味嫌ったところからそう設定されたようなのだが詳しい所は定かでないとのことだった。
まあ体外の人間の都合だけで考えるならば晴れは好むが雨は嫌うといった趣向の問題であって
生きていく上で必要な物資が揃っているのであれば、そんな暮らしやすい環境は理想だろう。
だが欲を言ったら切がないのも又同じことで時には雨嵐も欲しくなる時がある。人間とはつくずく
矛盾の多い我がままな生物だと認識せざるを得ない。だが創設者たちはこの国の者たちに課せ
られた任務からするならばその位の我がままを叶えてやろうではないかということだったようで、
それ程”蒼の国”の任務は重要だったということか。だからわざとこの国の存在を地上から切離して
天国との間に位置させた。そんなことが遙か昔に出来たのならやはりこれら七色の国の創設者
とは神々なのだろうかと思われていた。この世に神が存在するかは別としてもそう考えるのが
自然であったろう。何時頃からかそんなふうに伝わっていた話であった。
神々がこれら七色の国に与えた最高の我がままを叶えるシステムがシュミレーションルームと
呼ばれるものだった。
地上とは切り離された特別な空間に存在する国に於いて季節や自然をあえて体験できるように
と独自に開発されたシステムで現在はそれだけだったが将来的には人間の感情面での欲望も
取り込めるようにと開発が進められている段階だと高宮は言っていた。
永遠の”不老不死”の世界で生きていけるように様々な工夫がされていた。
先程、遼二と倫周が言っていた「河辺で花火」というのはそのシチュエーションの事でこれをいわゆる
シュミレーションルームなる所で体感する事が出来るのである。例えば他には「花見酒」とインプット
すれば、朧月夜に桜が舞う場所に行けるのである。それがここでの癒しを与えてくれる場所で
皆各々に利用できるのであってもちろんFairyが集まって「コンサート会場」を指定すればそういう
雰囲気が味わえるのであった。
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