蒼の国-蒼月の狂華-
月の無い夜、あたりは闇に包まれていた。まるですべてのものを隠すように。

郭嘉の室はひっそりとしていて見張りは遠く表の門に就けてあるだけで室のまわりにはひと気は無かった。

倫周は言われた通りに訪れた。

松明も焚かれていない、蝋燭の薄暗い灯りだけの室に郭嘉が一人で待っていた。

倫周が戸口を開けて中へ入るとまだ遠い距離の2人は何も言わずに互いを見た。

無言のまま2人の距離が縮められ、郭嘉の冷たい指が倫周の頬に触れる。



「よく、来たな」

そう声を掛けながらじっと見つめていた冷ややかな瞳を閉じるとふわりと倫周を抱き締めた。

「郭嘉さま・・・」

「奉考でよい。」

そう言われて倫周は慌てて首を横に振った。とんでもありません、といった感じで。

郭嘉は倫周を後ろから抱き締めなおすとその腕に少し力を込めた。

静かに長い茶色の髪を持ち上げて白い首筋に唇を這わせる。

ゆっくりと襟を開いて細い肩に触れていく。

冷たい指が倫周の白い胸元に廻されて・・・



ああ、孫策・・・許してくれ。俺はあなたを裏切るのではない。

あなたと、あなたと過ごす未来の為に、この身体を捧げよう。

たとえ誰に抱かれても、たとえこの身体が引き裂かれても、俺はあなたのもの。

あなたの言葉、あなたの仕草、あなたの全てをここに感じる。

たとえこの身体が誰に抱かれても心はあなたにしか抱かれはしない、俺の心はあなただけのもの。

たとえこの身体が裂かれたとしても心はあなたにしか裂かれない、俺の命の最後の血のひとしずくまで、

俺はあなたのものだ。あなただけの。だから、許して。

今は、許して・・・!



倫周の頬にひとしずく、涙がつたう。怯えた表情、切なそうな表情が・・・郭嘉の心に火を点けて・・・



「怖いのか、、、?」

必死で首を横に振った。押さえきれなくなった涙が溢れて、細い肩は僅かに震えて。

「郭嘉さま・・・っ・・・」

くるり、と振り返ると倫周は思い切り郭嘉の胸に飛び込んで、その白い頬を埋めた。

先程開かれた襟から細い肩が竦むように露になっていて・・・

戸惑うように開かれた口元からは熱い吐息が漏れ出していて、たまらずに郭嘉はその綺麗な形の唇を

奪うようにくちつ゛けた。

「あ・・ぁ・・郭嘉さま・・・」

震えながらも自分を求める、そんな姿が愛しくて、冷たくすれば壊れてしまいそうなそんな表情があまりにも切なくて。

郭嘉の心をわしつ゛かみにする。

郭嘉の心を掻き乱す。

大丈夫、お前はわたしのものだ・・・怖がらなくてもいい、お前は今宵からこの郭嘉奉考のものなのだから・・・!



「ん・・っ・・郭嘉さま・・郭嘉さま・・っ・・・」

一生懸命に縋りつきながらも身体は本能で逃れようとしている、そんな様子が愛しくて・・・

「初めて、なのか?大丈夫・・怖くなどないから、安心して私に寄り掛かっていればいい。」

こくこくと懸命に頷く、ぎゅうっと縋りついてくる細い腕が本当に可愛く感じられて、郭嘉はひとたび

本来の目的を忘れ、目の前の細い身体を抱き締めていた。



こんなに震えて・・・可愛い・・・こいつがこんな表情をするなんて・・・

美しい、この身体が初めて受け入れるもの、それが私なのだ・・・



そう思ったら何だかとてもやさしい気持ちになるようでゆっくりと固い蕾を押し開くように愛していった。

「んっ・・・郭嘉さ・・ま・・・ぁああっ・・・」

突然に強い力で自分を跳ね除けた、驚愕のような表情で真っ直ぐに見つめてくる大きな瞳に

郭嘉は心臓をもぎ取られるような思いに駆られた。

「大丈夫、怖くないから・・・平気だ、皆していることなんだよ?怖くないから、そう、しっかりと

私につかまっておいで。」

やわらかな声でそう囁く、その瞳はまるでやさしく細められていて。

そんな様子に安心したような表情を浮かべたがやはり身体は本能で逃れたいというように震えていて、

瞳を瞑って郭嘉を受け入れようとする必死の想いが痛い程伝わってくるけれど。



「ひ・・・っ・・ぁぁああ・・っ・・っ・・」



細い肩にまわされた郭嘉の腕を再び押し退けようとした、その手ががくがくと震えて止まらない。

そうしてしまったことに対する罪悪感のようなものを映し出して美しい顔は驚愕の表情を浮かべていた。

ご・・・ごめん・・なさ・・い・・・

「ごめんなさい・・郭嘉さま・・・ごめ・・・・」

既に身体中にまわった震えを抑えるようにしながら白い頬を涙で一杯に濡らしていた。

「好きなのに・・・郭嘉さまが好きなのに・・どうして・・・・・うれしいの・・・に・・」

そう言って又ぼろぼろと涙を流す、腕の中の美しい者がどうしようもなく愛しくなって郭嘉は心臓が

ちくりと痛むような気がした。

「平気、怖くなんかないよ。何も怖いことなんかないのだから。私を信じて何も考えずにしっかり

つかまっておいで。 ね?本当に大丈夫だから。」

そう言って頬の涙を吸い取るようにやさしくくちつ゛けた。

しゃくりあげるように泣いていた大きな瞳が郭嘉を見つめて・・・



「あぁ・・郭嘉さま・・・」



恐怖を押しとどめるように、震える腕でしっかりとその肩に手を回すと倫周は必死で郭嘉にしがみ付いた。



「・・っは・・・っ・・・ぁあ、っ・・・!」



一瞬、衝撃の表情を映し出した瞳が僅かに憂いを湛える頃、、、

ゆっくりと揺らされて、、、

「大丈夫、もう怖くないだろう?」

あぁ、郭嘉さま・・・・



最後の至福を迎える瞬間に。

遠くに遼二の気配を感じる、ビルと京がその脇を駆け抜ける、遠くなる意識の中で倫周はそれを

感じていた。