蒼の国-信- |
|
この白き衣を呉国の色に染めてあなたに忠誠を誓いましょう・・・
私たちを信じていただけるのならばどうぞこのまま少しの間 放って置いて下さい。
そうすれば私たちは蘇ることが出来るのです、今度蘇ったそのときは、真の意味でのこの国の人間に
なれるよう、願って止みません・・・
そう言われた帝斗の言葉が胸の中に木魂して、、、
「こいつらを、、見ろっ、、、自らの命を燃やし尽くして忠誠を誓ったこいつらの誇り高い姿をっ、、、
見ろっ、、皆の者っ、その瞳を見開いてよく見るんだっ、、、
この色を、我々の国の色に染まったこいつらの意思をっ、、よおくその瞳に焼き付けておけっ、、、」
そう言うと周瑜らに指示して帝斗たちの肢体を綺麗に広間に並べ、見事なまでの織物で包んでやった。
そして高々に剣を振り上げると皆を見渡して言った。
「今度彼らが目覚めたときはっ、彼らは我が国の者だっ、、、此処で生まれて此処で育った、
我々と一緒の呉の国の仲間だっ!他意のある者はいるかっ!?」
そう言うとぐるりと広間を見渡した。ぎろりと大きな瞳が見開かれて、その瞳の動く方向には
それぞれに無言のままふるふると首を横に振る姿が映っては消えて。
「ようしっ!ならば今日から俺はここでこいつらと寝食を共にする!こいつらが目覚めるまで俺も
ここに生活を移すぞっ!周瑜!お前も一緒にここに残れ、それから残った者は宴の準備だっ!
こいつらが目覚めたらでかい祝宴をやるんだ!わかったら準備にかかれぃっ!」
自らも真っ青になった、涙で汚れた顔をきっと、あげると孫策は広間いっぱいに響き渡る声で叫んだ。
悠然たるその叫びは誇らしく、何物をも真っ直ぐに捉えられるその姿は正に太陽の如くであった。
その姿は太陽の如く、後の史実にまでそう記された若き君主、孫策伯符の真っ直ぐな姿は
何者をも魅きつけて止まない誇り高い魅力で溢れていた。
孫策がその言葉を信じて帝斗らの肢体をそのままに放置した僅かに5日後に蒼国の一同は次々と
目を覚ましていった。立派な織物で包み込まれたその身体からは見事な程に綺麗に傷は消えていて・・・
孫策はずっとその場に付き添いながら半ば疲れた瞳を見開いて感嘆の声をあげた。
そうして孫策の指示通りにその晩は華やかな祝宴が開かれた。
「殿、私たちを信じて下さって感謝しています、本当に。ありがとうございます。」
いつかのようにFairyの演奏を聞きながら同じ卓を囲んで帝斗は言った。
呉の人々の中にはまだ帝斗らを見るとびくり、とする者もいたが蒼国のメンバーと組んで
仕事をしてきた者たちはもうすっかり元に戻った様子で再会を喜び合っていた。
今宵は演奏中のFairyのメンバーを除いて他の蒼国の面々は、帝斗と一緒に孫策と同じ卓に
付いていた。
たんっ、と杯を卓に置いて「おかわりぃ・・・」と言ったのは帝斗であった。
「何だよ?粟津、酔ってんのか?珍しいなあ、お前のそんな姿って想像出来ねえ・・・」
自分の隣りで頬を紅潮させて杯を握り締める帝斗に瞳をぱちくりとさせながら孫策は言った。
「ふぇ?ああ、大丈夫ですよぉ、そんなに心配なさらないだってちゃあんと今日から皆を任務に
戻しますからぁ、ねえ、殿ぉ・・・」
もうくっつきそうな瞳を細めて孫策を見つめると半ば絡むようにして帝斗は言った。
そんな帝斗の様子に蒼国の仲間は誰しもが驚いた様子で、すぐ隣りに座っていたビルが
杯を取り上げながら帝斗を止めに入った。
「おい帝斗、もうその辺にしとけよ、なあ?どうしたんだよ?珍しいこともあるもんだぜ、
こいつが こんなに酔っ払うなんてよ?」
もう卓に寄り掛かるように突っ伏せる体を支えながらビルは一同を見渡した。
「うう・・ん・・っ・・いいんだぁ、今日はうれしいんだから。何ってたって殿が僕らを信じて下さったんだからねえ、
こんなうれしいことはないだろう?」
そう言うと満面の笑みを浮かべて孫策を見つめた。
「ああ、そうだなあ。まあいいじゃねえか、今日はほら、潰れるまで呑めよ、なっ?」
少々たじたじとしながらもそう言うと孫策は豪快に笑い飛ばした、そうして帝斗の杯を老酒で満たしてやると、
卓に頬を押し付けた帝斗の顔がうれしそうに微笑んで小さく口元が動いた。
「よかった、あなたに愛されて本当に・・・あの子は・・・」
え・・・・・・・・?
聴こえるか聴こえないかの小さな声で呟かれたその言葉は何を意味していたのであろうか、
すっくと起き上がると帝斗は楽しそうに注がれた新しい杯を高々と掲げて口にした。
「かんぱ〜いっ!」
「ああ、だめだあ、完っ全に酔ってやがるぜ・・・」
呆れたようにビルは帝斗を見つめると皆に向かって肩をすぼめて見せた。
宵闇が深くなった頃、帝斗の言った通りその晩から各々の任務先に戻った蒼国の面々の、
例外なく倫周も又孫策の腕の中に戻って来た。
高くなった月が青々と降り注ぐ深い闇の中で、2人は互いを探るように抱き合った。
「倫周っ、よかった、お前が元に戻って・・本当にっ・・・あのときはどうなっちまうかと思ったけどよ、
お前がいなくなったら俺は生きていけねえっ・・・・二度と心配させるなよ・・・
俺が死ぬ最後の瞬間までお前は俺の側にいろよっ・・・どこにもいくなっ・・・!」
うん、行かない、何処へも行かないよ。ずっとあなたの側にいる・・・片時も離れない、
離れたくないっ・・・
「何処にもやらないで・・・ずっとあなたの側にいさせて・・・・」
心からの一杯の想いを告げて・・・お互いの心からの想い・・・
このとき無意識に発せられた短い言葉がそんなに遠くない将来に現実として
自分に降りかかってくるなどと、どうしてこのとき思うことが出来ただろう。
そんなことはついぞ想像し得ないまま、愛し合う2人はしばし 幸せの中にいた。
2人を初めて結んだときと同じ蒼い闇にやさしく包まれながら。
お前がいなくなったら俺は生きていけねえっ、俺が死ぬ最後の瞬間までお前は俺の側にいろよっ・・・
愛しているよ 倫周・・・
|
 |
|
|