蒼の国-錯覚の灯火- |
|
周瑜が倫周を受け止めて、しばしの時が平穏に過ぎていた。
近頃は次の出陣が近いのか大分慌ただしい日々が続いていた。
まあ、俺の役目もようやく落ち着いたことだし、この際は、こちらでいい女でも見つけてー、
倫に捧げた青春を取り戻そうぜ!遼二はそんなことをお気軽に考えながら仕事に向かった。
雨期を告げる雷雲が遠くに聞こえ始めたその季節。
「公瑾を見なかったか?」
孫策亡き後、呉国を継いだときの主君、孫権は出陣を前に至急頼みたい用事があるとかで
周瑜を探していた。
時刻は夕闇が降りた頃だったのでまだ休むには早いだろうと思い、孫権は周瑜の室を
訪ねることにした。
室に着いて声を掛けたが、返事はない。
只、灯りが煌々と漏れていたのできっと居るのだろうと、中へ入って行ったが
人の気配はしないようだった。
「公瑾?居らぬのか?」
まだ、返事はない。
きっと何処かへ用を足しに行っているのだろうと思い、孫権は少々の場で待つことにした。
ふっと、見ると庭から続く小道の先の小部屋の方から微かな灯りが見えた。
普段、書物やらちょっとした小物が置いてあるはずの部屋である。
ああ、なんだ。 調べ物か・・・
孫権はくすっと微笑むとその方へ足を運んだ。
「公瑾、いるのだろう?」
と明るく言いかけて、孫権は はっと口を押さえた。
薄明りの漏れるその部屋の中からは密やかな甘い香りがあふれ出て、、、。
孫権は又微笑んだ。
なんだ、公瑾の奴、今日はお楽しみかあ。まだこんな早い時分だっていうのに。
ふふふと笑って
「じゃあ邪魔しちゃ悪いよなあ。」
そう呟くとそっと、その場を後にした。
その場を後にしようとしたその瞬間、、
孫権の耳に意外な声が飛び込んできた。
「公、瑾・・・」
孫権は一瞬立ち尽くした。
それは女の声ではなかったから・・・
公瑾はそんな趣味があるのか?まさか、今は戦場じゃないのだし。
まあ、珍しいことではないし それならそれでと思い、帰ろうとしたが何となく不可解に思えて
そっと小部屋の中を覗いた。
ゆらゆらと、小さく揺れる灯りの中に、周瑜の姿が映し出される。
その手の中に見えたものは・・・白く、細い背中。
女のものと見紛うような、けれど・・
「公・・瑾・・・」
甘く囁くその声は明らかに女のそれとは違っているようで。
ふっと、周瑜の腕の中の影が向きを変えて、こちらを向いた。
その瞬間。
孫権は凍りついた。
これは、、、!!いったい、どうして、、、!?
孫権の顔からみるみる表情が消えていった。普段は穏やかなその瞳が表情を無くし
次第に冷たくなっていく。
その光景は孫権にとって、あまりに衝撃だったのである。
|
 |
|
|