蒼の国-再会- |
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曹操の右腕として氷の心を持つ男と讃えられた郭嘉奉考を討ち取ったことでこのとき出陣した
魏軍の大半を壊滅状態に追い込んだ帝斗らは久し振りに呉国の孫策の下へ向かっていた。
郭嘉らの軍を迎え討つ為に呉より出陣していた甘寧や呂蒙などの隊と合流した一同は久し振りの
再会と勝利に喜びを分かち合った。
そうして一同が孫策の館に戻って来たのはあの弓隊を眼下に見下ろした丘で別れて以来、
僅かに4ヶ月振りのことであった。
先に合流した甘寧らから孫堅が亡くなったことを知らされた帝斗らは非常に驚きその死を哀しんだ。
自分たちが呉に入国した頃からの孫堅の人柄や温かく迎え入れてくれたことなどを思い浮かべると
やはり涙せずにはいられなかった。中でも倫周にとってそれは格段に不幸なことに違いなく
その温かな胸を思い出しては涙が止まらなかった。
結局倫周は館に帰り着くまで大きな瞳を真っ赤に腫らしながら過ごした。
そして止め処なかった涙が枯れる頃、夢にまでみた唯一人の人との再会はもう目前に迫っていた。
孫堅が初めて帝斗らを迎えた館の大広間で ときの若き君主、孫策伯符は待っていた。
大きな回廊に囲まれた座段の上に据え置かれた立派な椅子に腰掛けて、君主の衣装が
眩いばかりに輝いていた。
一同は孫策の前に並び跪くと丁寧に礼をした。
「殿、只今戻りました。長きに渡りご心配とご無礼をおかけ致しましたこと、心より恐縮に存じます。」
そう言って帝斗が挨拶の言葉を述べた。
「うむ、苦労をかけたな。だが皆無事で何よりだったぜ。」
孫策の労いの言葉に一同が深々と礼をし 一斉に頭を上げた時、孫策の瞳は唯一人を捉えた。
唯一人、孫策とて同じように夢にまで見たこの瞬間に、すべての時が止まったようにお互いの瞳が
重なり合って、触れた。
孫策は立ち上がり一瞬その場に立ち尽くすと、次の瞬間何かにとりつかれたように立派な階段を駆け下りた。
孫策の腕が引き寄せられるように唯一人の腕を取って・・・
「倫周っ・・・」
会いたかった、どんなにかこの瞬間を待ち望んできたことか。どんなにかこの細い茶色の髪を
抱き締めたいと思ったことか・・・本当に、無事に・・・
「よく戻った・・っ・・・」
若き君主の瞳には涙が滲んで、誰に憚ることなくきつくきつく抱き締めた。
あの日風の速い丘の上で抱き締めた、そのときの切ない気持ちが蘇ってくるようで孫策は懇親の思いを込めて
倫周を抱き締めた。
もう二度と、二度とお前を放さないっ、、、何があっても今度は絶対に放さないからなっ、、、!
孫策の温かい頬が倫周の白い頬に重なって熱い涙までもが一筋伝わった、夢に見た大きな胸に
抱き締められて倫周は次第にその感覚を取り戻していった。
あまりにも待ち焦がれていたせいか最初に抱き締められたときは何が起こっているのか感覚が無く、
自分を抱き締める強い力に呆然としていた、それらが次第に鮮明に記憶の中に入り込まれて来た時、
倫周は怒涛の如く溢れ出る想いを目の前の大きな胸にすべて預けた。
「孫策・・?孫策さま・・・孫策さまぁっ・・!」
大きな瞳から涙が溢れ出て、倫周も又 誰に憚ることなく泣きじゃくりその大きな胸に飛び込んだ。
そんな様子を皆が温かい目で見守っていた。皆にとっても孫策にとってこの倫周がどれ程大切な
存在であるかはもう公認となっていた。抱き合う2人の再会にそっと涙する者もいたほどであった。
孫策と同じくらいこの倫周の帰りを待ち望んでいた者がもう一人いた。すぐ側から2人の様子に
温かい瞳を向けながら穏やかに微笑む、周瑜も又倫周の帰りを心待ちにしていた。
「お帰り、待っていたよ。」
穏やかに微笑んだ瞳がそう言ったようで倫周は孫策の逞しい腕越しに温かい周瑜の視線を
感じては又涙が零れた。
「ようしっ、今宵は祝宴だ!皆の者、これよりすぐ準備にかかってくれ!」
明るい若き君主の掛け声に呉軍の館は久し振りに活気に沸きあがった。
その夜、盛大に催された勝利と帰還の祝宴でFairyは久し振りで演奏を披露した。
そんな様子を遠めに見ながら孫策は帝斗と一緒の卓を囲んでいた。
「なあ、粟津。俺は礼を言わなきゃならねえな。あいつを、倫周を無事に戻してくれて・・・
本当にありがとう、感謝している。」
頬を紅潮させてそう言った孫策に暗褐色の大きな瞳を細めると帝斗も同じようなお礼の言葉を返した。
「私の方こそ感謝しています。殿が、あなたがあの子を大切に想って下さったことはこれからも
忘れることはありませんよ。これで僕も安心することが出来たのですから、本当に感謝してます。」
「粟津・・・お前はあいつのことを愛してたんじゃないのか・・?俺は前からそれが気になって。」
そう言い掛けた孫策の言葉を止めるように帝斗は微笑んだ。
「愛していましたよ、ですがそれはもっと違った意味のものでしたから。私にとっては倫周初め
仲間は皆愛しい大切なものなのです。無論遼二や信一、剛や潤たち、そしてその他のメンバーも
皆一緒に大切なんですよ。」
くすくすと笑うように微笑まれた帝斗の笑みが何とも親しく感じられて、孫策も又、つられて微笑みを返した。
「この宴が終わったら直ぐに任務に戻しますのでどうぞ宜しくお願い致しますね。」
くすりと、微笑んで流し目を送られて孫策は益々頬が紅潮するのがわかった。
「な・・何だよぉ、その言い方・・粟津、てめえ・・・」
真っ赤になってそう言う孫策にくすくすと帝斗は微笑った。その顔はまるでそんなに照れなくたって
ちゃんと今宵から倫周を抱き締めていいんですよと言われているようで孫策はまるで締まりのない
表情をしていたが、今までよりも帝斗を知れたようでもあり、何だか心に引っ掛かっていたことが
取り払われたようで清清しい気分になれたのだった。
宴が終わって皆が自分の室へ引き上げる頃、帝斗の言った通り倫周が孫策の下に戻って来た。
久し振りの2人だけの夜。
やさしい青い闇に包まれて2人はお互いを見詰め合った。
「孫策さま・・・」
「う・・ん・・・、お帰り、よく無事で・・ご苦労だったな・・・・」
ぎこちない、当たり前の会話を交わして。けれど頬は紅く染まっていて、
青い闇の中でもそれはわかるようで、、、
そっと逞しい腕が伸ばされて、細い腕をつかむとぐいと側に引き寄せた。
綺麗な白い肌、茶色の細い髪、ほんの少し紅が差した頬、このすべては俺のものだ・・っ・・・
「何もっ、何もされなかったかっ?魏で、曹操のところでっ、この身体を誰かに触られたりしなかったかっ?
皆はお前の側にいてくれたか?拷問なんかは無かっただろうな・・・辛い思いはしたのか?
なあ、どうなんだよ?倫周っ・・・俺のっ・・・・」
細い体のあちこちを引っくり返しながら色んなところを確かめるように弄りながら、はらはらとした声で
孫策は訊いた。倫周の頭の中には魏での様々なことが巡っては無論、郭嘉のことも思い出したのではあったが
あえて何も告げることはしなかった。
「う・・ん・・・平気・・何も無かったよ。帝斗たちとずっと一緒だったし・・・拷問とかも無かった・・」
少しもじもじとした感じでそう言う倫周の言葉に孫策は大きな瞳を見開いてほっとしような表情をした。
「ほんとにっ?ああ、それならよかったぜ・・・もしも誰かに何かされたりしたらどうしようって思ってた。
お前は綺麗だから心配だったんだ。」
そう言うと今度は強く倫周を抱き締めて、叫んだ。魂の限り、熱い想いを、叫んだ。
「お前は俺のもんだっ、この身体も、この髪も、皆みんな、俺のもんだっ・・・
誰にも渡しはしないっ・・・この命の限り俺だけのもの・・・っ・・・
ああ、倫周・・っ・・・愛してる、お前だけ、お前だけだよ・・・」
久し振りの、力強い愛し方・・・あなたのこの逞しい腕が俺を抱えて天にまで連れて行ってくれそうなくらいの
力強い愛撫・・・ああ孫策っ・・・・
このときをどれ程夢に見たことか・・・こうしてあなたに抱えられて俺は夢の世界へ誘われて・・
ああ、その力強い愛をもっともっと注いで、その有無を言わさぬ程の激しいくちつ゛けを俺だけに与えてっ・・・
愛してる・・・孫策っ、あなただけ・・・俺はあなただけのもの・・・・
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