蒼の国-未来永劫- |
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まだ遠い春の陽が瞬間に舞い降りたような穏やかな日、周瑜は外へ出たいと倫周を誘った。
「なあ、倫周、今日は暖かだから久し振りに外の景色が見たいのだ。外の綺麗な空気を吸ったら
何かよくなれるような気がして」
そう言った瞳はとても穏やかだった。衰弱するに伴ってしばらく辛そうだった表情が今日は
不思議とやわらかな表情に見えて。
倫周はその望みを聞いた。
ひとりで周瑜を抱えるのはたいへんだろうと遼二もついて来た。
外は本当に穏やかな春の日差しが降り注いでいて。
「ああ、気持ちいいな。ほら見てみろ倫周、空があんなに高い。」
そう言って気持ちよさそうに空を見上げた。その瞳は限りなくやさしく穏やかでまるでこの世の
全ての苦しいことや悲しいことをのみこんでしまうかのように深い眼差しをしていた。
ゆっくりと草丘に腰を下ろすと周瑜は倫周に寄り掛かった。
「公瑾?大丈夫?辛いのか?」
心配そうに瞳を見開く倫周の顔を見上げると周瑜はやさしく微笑んだ。
「ん、大丈夫だよ、少し 疲れただけだ。」
そう言って深く息を吸い込むと遠くの地平線を見つめた。
時が、止まる。
一瞬にして、そこだけ音のない世界になってしまったように、全てが止まってしまうような、
全てがもっていかれてしまうような、気配が襲う。
そんな恐怖から逃れるように倫周の手がぎゅっと周瑜の肩をつかんだ瞬間。
ふいに音が戻ってきて、、、穏やかな声で周瑜は言った。それが最期の言葉になるなんて
思っていなかった、、、けれど、、、
「わたしが今日まで来れたのは、、伯符が亡くなってから、自分をしっかり持っていられたのは、、
お前がいたから、倫周、、お前と支えあってきたから、、
伯符がいなくなって、私は自分も失ってしまいそうだった、まるで身体の一部が
無くなってしまったような気がして、、、
哀しいとか淋しいとかそういった感情はなくて、只あの夜にお前を見たとき、
朱雀の剣で自分をずたずたに切り裂いたお前の姿を見たとき、私は自分をみたような気がしたんだ。
私もずっと切り裂かれたかったのだと、
伯符がいないこの世界にどうして平気でいられよう?
ああ、私も引き裂かれるのを待っていたんだと思った。
お前が自分の心のように思えて、受け止めずにはいられなかった、お前は私そのものだったんだ、
いま やっと伯符の側に行けると思うと幸せな気がする、伯符が私を待っていてくれる、
だからうれしいんだよ、、、
伯符はお前を愛した、その命の限り、、だからもうお前を還してやりたいんだ、伯符の元へ、、、」
そう言って遼二を見上げた。その瞳には涙が霞んでいて。
「あなたは伯符に似ている、、、だから、頼むよ、私がいなくなっても倫周を守ってやってくれ、、、
いつも伯符が私を守ってくれたように、ずっと、一緒に、、、」
そう言って周瑜は瞳を閉じた。静かに、静かに、その顔は幸せに満ちているといったふうで。
「いやあああ、、、っ、、、、」
又、時が止まる。音のない世界が襲う。
全てもっていかれてしまう、、、!
倫周は泣き崩れた。周瑜にしがみ付いて、涙が枯れるまで泣いた。
なあ、倫周、泣くな、だってわたしは幸せなんだから、わたしが幸せならお前も幸せなはずだろう?
だってお前はわたしなんだから、、、
「なあ、あいつお前に似てないか?若い頃のお前にそっくりだぜ!」 そうかあ?
伯符の声が聴こえる、あれは私達の会話だな、そういえばそんな事言ってたっけ、
伯符!もうすぐ会える、、、!
「あなたは伯符に似ている・・・だから頼むよ、倫周を守ってやってくれ、いつも伯符が私を守って
くれたように・・・」
「ずっと、一緒に、、、」
空を見上げながら遼二はそう言って倫周の肩を抱いた。
、、、え、、、?
倫周が遼二を見上げる。その瞳は真っ赤に腫れていて。
遼二はその瞼にそっと口つ゛けた、
その腫れを吸い取ってやるように、その瞳に早く微笑みが戻ってくるように、一杯の気持ちを込めて、
くちつ゛けた。
空が蒼い、孫策と周瑜がこちらを見て微笑んだ気がした。
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