蒼の国-哀しみの絆- |
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「やめて・・もう やめてっ・・・!」
必死に懇願する目の前の細い身体が壊れるまで抱いた、、、
どうしてもやめられなくて どうしても許せなくて 親父に抱かれながら恐らくは帝斗という奴にも
身体を与えているこいつが許せなくて
汚くて
こんな汚いもの壊してしまいたくて俺は全てを
破壊するようにこいつを抱いた、、、傷に疼く細い身体をもっともっと苛めるように、ともすれば
殺してしまってもいいと、そう思った、、、
「何をしてるんだ、、伯符、、、?」
聞き慣れた声にはっと後ろを振り返るとそこには周瑜が陸遜を連れて立っていた。
薬箱を手に倫周の様子見に来たのだ。もう朝が来ていた。
昨夜の激情をそのままに締め切られた戸口から僅かに差し込んだ朝の光に照らし出された
その光景は周瑜の目にも信じがたいものだった。
滲み出た血に体中のところどころを染めながら狂気のように傷付いた身体に覆い被さるその姿は
今までの孫策からは到底想像も出来ずに周瑜は戸惑った。
とっさに 陸遜は駆け寄ると孫策の前に立ちはだかるように倫周をかばって身を屈めた。
「あんまりですっ、、、あんまりです、孫策さまっ、、、酷すぎる、、、こんなことって、、、」
滲み出た血に染まった 一糸纏わぬその細い身体を孫策の手から守るように覆いかぶさって
陸遜はしばらくそうして泣いていた。
「いい・・んだよ・・・こんな奴どうなったって・・・いいんだっ・・・」
そう言って震えながら泣きじゃくる陸遜をぐいと強い力で払い飛ばすと再び倫周の傷付いた身体を
引き上げて叫んだ。
「親父だけじゃなかったんだ・・・こいつの相手は・・っ・・まだ他にもいたんだよっ・・・
なあそうだよなあっ?倫周っ・・・このっ・・・・」
そこまで言い掛けて、さすがに孫策は言葉をためらった。
汚い倫周を罵倒する その言葉を口にしてしまえばもうどうしようもなくなりそうで、
もう二度と誰をも信じられなくなりそうで。
孫策も又心に深く傷を負っていた。
初めての慟哭のような夜、その手に男を抱き締めて不本意ながら激しく燃えた自身の熱い感情が恐ろしくて。
「何でだよ・・・何でお前は・・倫周・・・
信じてたのに・・剣も的射も狩りさえも、あんなに上手くて、お前といると楽しくて。
なのに何でこんなことになっちまったんだよ・・? なあ教えてくれよ周瑜・・・俺が・・
俺が何したっていうんだよ・・・・?」
側にいた周瑜に縋るように寄り掛かった。
傷付いた心を受け止めて欲しくて、誰かにわかって欲しくて、それなのに・・・
泣きながら倫周を手当てしていた陸遜のやさしい心が伝わったのか、倫周が目を覚まして・・・
無意識に漏れ出したひとことで孫策の心は又しても引き千切れそうになった。
「帝斗、、、助けて帝斗、、、帝斗、、、」
がたん、と孫策は立ち上がって。その顔は真っ青に歪んで、温かく手を取ってくれていた周瑜の存在をも
蹴散らすようにしながら、何かに取り憑かれたように孫策は倫周に駆け寄ると手当てをしていた陸遜をも
蹴散らして傷付いた身体を引き上げた。
「帝斗って誰だよっ!?言えよっ倫周っ、言えったらっ、、!」
荒れ狂う孫策の狂気のような感情に周瑜も陸遜もさすがに言葉が出てこなくって。
何がそんなに辛いのか、何がそれ程までに孫策を追い詰めているのかがまるで解らなくて
周瑜と陸遜は互いの顔を見合わせては呆然と立ち尽くしていた。
それから孫策は殆んどの時を倫周の室で過ごした。毎日傷の手当てをし、毎日倫周をその手に抱いた。
毎日毎日、只、只同じ事を繰り返した。
傷が薄れる毎に、孫策の愛撫に慣れる毎に、倫周の身体は敏感になって。
触れるだけで熱くなる。
どんどん高まって止められなくなる。 2人で毎夜同じ波に呑まれて。
そんなことをすれば親父の気持ちがわかるとでも思ったのか、この腕の中であの日のように乱れる
あいつを見れば許せるとでも思ったのか、
わからない。
わからないまま何かにつき動かされるように来る日も来る日も俺は同じことを続けて、、、
あいつが求める。俺はそれを与えて。
2人で一緒の波に呑まれて。
どんどん高まっていって。
なのに最後の至福の瞬間に。
決まって俺が聞く言葉、決まってあいつが言う言葉。その言葉が俺を引き戻して。
冷めていく俺の感情、熱くなるあいつの感情。
いつもその繰り返し。
同じ言葉。
「ああ、帝斗・・・・!」
だから俺は訊いたんだ。
「帝斗って誰だ?お前はそいつが好きなのか?」
なのにぎょっとしたような表情で俺を見つめる。そして恐怖に震えはじめる。必死で俺にしがみ付いて
「あなただけ、、、好きな人は、あなただけ、だから許して、、、!」 と
懇願を繰り返す。まるで恐ろしいものから逃れたいとでもいうように。俺にしがみ付いて。
そして又高められ、同じ名を呼ぶ。帝斗と、、、無意識に 唯ひとつの名前を。
愛しているんじゃないのか?帝斗を。だからあれほどまでに追い求める、、なのに必死で逃れようとする。
お前は何をそんなに恐れているんだ? お前は何を必死に求めているんだ?
時折見せる、ぞっとするような冷たい瞳。その瞳は何を見ている?何を追いかけてる?
お前をそんなふうにしてしまったのは一体誰だ? 帝斗なのか?
どうしたら救ってやれる。どうしたらお前を解き放ってやれる?
あんまりにも辛そうで。あんまりにも痛々しくて。
手を差し伸べてやりたくなる。お前を楽にしてやりたくなる。
倫周 俺はお前を、、、
孫策は自分の側で小さく丸まって眠るその細い身体を抱き締めた。
まるで愛しいものを包み込むかの様に。
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