蒼の国-業火- |
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「あの者たちは化け物ですっ、、このままでは我が国は彼らによって滅ぼされてしまうっ!
どうかご決断下さいっ、あの者たちをここに置いておくのはあまりにも危険過ぎます、、、
暗殺するか、そうでなければ呉より追放して二度とここへ近寄らせてはなりませぬっ、、、
殿っ、どうかご決断をっ、、、何卒、何卒ぉ、、、」
父の頃からの腹心であった老齢の軍師はじめ、皆の意見は粗同じであった。
泣きながらそう懇願を繰り返す臣下を前に孫策はじめ、周瑜らは困惑の表情を浮かべたまま
微動だに出来ずにいた。
いつもの大広間の孫策の玉座の前で。懇願を繰り返す臣下らを一瞬にして硬直させてしまったこと。
全員が真っ白な衣装に身を包み静かに帝斗ら蒼国の11人が孫策の前に姿を現した。
泣き叫んでいた声が一瞬にして水を打ったように静まり返り、帝斗を先頭にして歩く列に皆が
恐ろしげに道を開けたとき。
孫策の前に歩み寄ると蒼国の一同は跪き、丁寧に礼をした。
「粟津、、、?」
恐る恐るその名を呼んだ孫策の声も僅かに震えていた。
蒼白な呉の人々の雰囲気にそっと顔を上げると帝斗は信じられないようなことを言ってのけた。
「孫策さま。皆様がおっしゃられることは最もでございます。ですが我々は本当に
この国を発展させる為にここに赴いたのであって決してあなたさまに悪いことをもたらすつもりなど
無いのでございます。
呉とあなたのご繁栄の為に、そう思って我々に出来る限りのことを致したまでです。
ですがそう申し上げても信じていただけないのも最もだと思っております。
どうぞ落ち着いてお聞き下さい。私たちは人間ではありません。」
静まり返っていた場が更に音を無くしたように凍りついた後、誰かが発した悲鳴と共に広間は
騒然となった。
「静まれっ、、おいっ、静かにしろよっ!」
がたん、と席を立って真っ青な顔で孫策が怒鳴った。一歩一歩、踏みしめるように石段を降りると
「どういうことだ、、、粟津、、、人間じゃねえって、どういうことだよ、、、」
そう訊く声はがたがたと震えて、、、
孫策は側にいた周瑜にしがみ付くようにしながら帝斗らを見つめた。
「私たちは呉の発展を心から願っております、それだけは信じていただきたいっ、、、
人間でない、というのは語弊があるならば、言い直します。私たちは不死なのです。
つまりどんなに怪我を負ったとて死なないのです。私たちが存在するところはここより遙か東の国、
蒼国です。そして蒼国が存在するのは今より1800年後のことなのです。
私たちは1800年の時を経て遙か未来からやって来ました。
魏を後退させ、呉を発展させる為ここに赴きました。
これは我が神が示した運命だったのでございます。」
そう言うと腰に携えた剣を引き抜いて孫策を真っ直ぐに見つめた。
「呉の発展の為、我々の気持ちを信じていただく為、この白き衣を呉国の色に染めてあなたに
忠誠を誓いましょう。どうぞ信じていただけるならば少しの間我々をこのまま放置して下さい。
次に我々が目覚めるときは真の意味でこの国の人間になれるよう、そう願って止みません。」
帝斗がそう言ったのを合図に蒼国の一同が一斉に立ち上がった。皆それぞれに瞳を閉じて。
帝斗は一番端にいた潤に歩み寄ると勢いよくその胸を、手にした剣で貫いた。
真っ赤に鮮血が飛び散って、、、
「ひゃああああっ、、、」
耳を裂くような叫び声が大広間に響き渡ると共に腰を砕きながら臣下らは広間の隅々に逃げるように
散り散りになっていった。皆がたがたと震えて何も言葉にならず、その場は一瞬にして又水を
打ったように静まり返った。この様子に孫策と周瑜もさすがに言葉にならずに只、只、大きな瞳を
見開いては硬直するだけだった。
そんな周りの様子に身動ぎもせずに帝斗は潤の隣りにいた信一の胸を同じように貫いた。
鮮血が飛び散って、信一がどっさりと床に倒れこんで。
次第に床を埋め尽くしてゆく真っ赤な液体の上に顔を埋めるようにして信一の体から色が失われてゆく。
同じようにして帝斗は次々と自分の仲間を貫いていった。
そうして帝斗の剣が倫周の胸を捉えたとき、、、
「やめろおおおっ、、、もうやめてくれええぇっ、、、」
怒涛の如く叫び声が掠れて、、、
孫策は帝斗に駆け寄ると跪きながらその腰にしがみ付いた。
「粟津っ、もうやめてくれっ、、もうわかった、お前らの気持ちはもう十分わかったからっ、、、
やめてくれぇ、、殺さないでくれっ、、こいつは俺の、俺のっ、命なんだっ、、、、
連れてかないでくれよおぉっ、、、粟津ぅ、、、」
狂ったように懇願する孫策の頭の上で鈍い音が響いたと同時に真っ赤に染まった細い身体が
自分の肩越しに崩れ落ちるのを感じて。
「へ・・・?ふ・・・あ・・・?あ・・、あ・・・」
言葉にならない声が漏れ出し、自分の傍らに崩れ落ちてきた細い身体に恐る恐る手を伸ばすと
ふるふると首を振りながらまるで幼い子供のように孫策は震えた。
「で・・・何で・・・こ、んな、こんなことって・・・」
大きな瞳を一杯に見開いて涙で一杯にしながら帝斗を見上げると孫策は
降りた階段を駆け上がって玉座に携えてあった自らの剣を引き抜いた。
「何で殺したっ、、何で俺の倫周をっ、、、粟津っ、、許さねえっ、絶対にっ、、、!」
狂ったように、孫策は帝斗めがけて剣を振り下ろした。
倫周、倫しゅう、っ、倫っ、、、!
「うわああああっっ、、、!」
当り構わずに叫びながら振り回した剣が何かに突き当たって、自身の腕に軽い痺れが走った瞬間に、
孫策は はっと我に返った。
涙に歪んだ顔が剣を受け止めた先に恐る恐る向けられて、、、
そこには自分の振りかざした剣を受け止めた帝斗の剣が涙に滲んで映った。
少し繭を顰めてはいるものの、孫策の剣を受け止めて落ち着いた様子で帝斗が立っていた。
あの者たちは化け物ですっ、、、
そう叫ばれた臣下の言葉が胸に蘇る、平然とした様子の帝斗を目前にしながら
孫策は呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
もう言葉を発することをも出来ずに、、、
そんな様子に格別驚きもせずに帝斗は倫周の隣りにいた遼二の胸をも同じように貫き通して・・・
ばたばたと目の前で蒼国のメンバーが鮮血に染まって倒れ行くのを皆の者は
只呆然と見ているしかなかった。
誰も何も口にすることさえ出来ずに、その場を動くことさえ出来ずに、只、只、
黙って見ていただけで、、、
そうして9人の胸を貫いた帝斗は最後に残った紫月の前に立つと自らの剣を差し出して
静かに口を開いた。
「孫策さま、どうか私たちを信じて下さい。このまま少しの間放って置いていただけましたら
私たちは蘇ることが出来ます。どうぞこの身体を埋めたり燃やしたりせずに
時間をいただけますようにお願い申し上げます。
私たちは真、この国の発展を願って止まないのです。どうぞこの気持ちが
あなたに届きますように。」
そして静かに紫月を見つめるとそっと瞳を閉じて言った。
「紫月さん、どうぞあなたの手で。僕のこの胸はあなたの手で貫いて下さい。
そしてあなたの胸は僕が、、、
同時に逝きたい。頼みを聞いていただけませんか?
あなたを刺した後、一人で逝くのは辛いですから、、、」
そう言うと僅かに微笑んだ。
そんな帝斗の言葉に紫月は一瞬繭を顰めたが、直ぐにふと微笑むと
自身の腰に携えた剣を引き抜いて帝斗に渡した。
「いいぜ、なら一緒に逝こう・・・」
そう言うと帝斗と紫月はお互い同時に剣を振り上げて・・・
深く相手の胸元目指して突き刺した。
みるみると鮮血が溢れ出て・・・
刺さった剣を又お互い同時に引き抜くとどっさりとその場に崩れ落ちた。
帝斗は自らの鮮血で溢れる胸元を押さえながら必死の形相ですぐ側に崩れ落ちた
紫月の肢体に被さるようにしてがっくりと動かなくなった。
「紫、、月、、、、」
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