蒼の国-月蝕- |
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どれ位、時が経過したのか、月が高くなっていた。
体中を激痛と吐き気が襲う。 最悪の記憶の中で。
はっと、倫周は何かを思い出したように飛び起きた。
そうだ!もうすぐ周瑜が帰って来る!!
とっさに倫周は立ち上がろうとしたが、身体が動かない。
どうしようもない目眩、吐き気。そんなものに襲われながら死力を尽くして
ようやく蒼国の幕舎に辿り着いた。
この時間なら誰か、いるはず・・・ああ、誰でも いい・・!誰、か・・・
蒼国のメンバー達はその任務にもよるが体外は夜には自分達の幕舎に戻ってきていた。
中には倫周のように泊りがけで護衛に付くという者もいたが、蒼国の司令塔である帝斗や紫月は
戻っているはずだ。
幕舎の大広間に人影を見つけて 倫周はその場に倒れ込んだ。
「柊!?」
お、おい、柊!!
広間をつんざくような安曇の声に、倫周はやっとの思いで目を開けた。
「柊!?どっ、、、!?何があったんだ!?」
「お・・まえ、安曇・・・・」
倫周は安曇の腕の中に倒れ込むと
「紫・・月・・・は? 紫月・・・いる・・?」
その言葉に安曇は一瞬驚いた。
何故? 紫月さんを?
とっさには反応できずにぼうっとその場にしゃがみ込む、だが少しすると安曇は気を持ち直したのか
大声で叫び出した。
「だっ、、誰かっ、、、誰か来てっ!」
安曇の尋常ならない騒ぎを聴いてか、先に幕舎に帰っていた紫月が出てきた。
「何かあったのか?」
先日のこともあってか、冷ややかに発せられたその言葉の先に、変わり果てた倫周の姿を
映し出して紫月は蒼白となった。
「倫っ・・・・!?
どうしたんだっ・・倫・・・・・・?」
縺れるようにしながら紫月は倫周に駆け寄ると、ぼろぼろに汚れた細い身体を抱き起こした。
その瞬間。
安曇は信じられない光景を目の当たりにした。
倫周の腕が紫月の肩に回されて 唇が、紫月の唇を捉えて、軽く触れた・・・!
「倫? どうした倫・・・?」
突然の出来事に当の紫月も驚愕の表情を浮かべながらしばらくは身動ぎ出来ずにいた。
「倫っ、何があった!?おい!しっかりしろ!倫っ!」
「・・・っう・・・・・っ・・・ぁ・・あ・・紫月・・・・抱いて、俺を抱いて・・・・」
ぼろぼろと涙をこぼしながら倫周は必死の力で紫月にしがみつくと、その胸に顔を埋めた。
「紫月・・・抱いて、抱いて紫月・・助けて・・・お願い、」
そこまで言うと倫周は気を失った。安曇は事態をつかめないまま呆然とその場に
立ち尽くして。
紫月は倫周を抱き上げて寝所に寝かせると、湯を持ってきて体を拭いてやり、
傷の手当てを施した。安曇は何が何だか訳がわからなかったが、とりあえず紫月を手伝いながら
手当ても一通り済んだところで紫月がゆっくりと口を開いた。
「藤村君、悪いね。倫周の側に居てやってくれないか?すぐに戻るから・・・」
そう言うと自分の幕を開けて何処かへ出て行った。
安曇はまだ疑問が残っていたが、紫月の様子がこの前とはかなり違っていたので
とりあえず言われた通りに帰りを待つことにしたのだった。
一体どうしたというんだ、こんなになって。 柊、あんたは、、、
そんなことを考えながら安曇の頭の中には先日の狂気のような倫周の姿が思い起こされていた。
いかに自分がきっかけをつくってしまったとはいえ、まるで別人のような倫周の姿が
頭から離れずに、目の前の傷付いた様子が嫌な連想に輪をかけていくようで、安曇はぞっとする
自分の身体を両の腕で がくがくとしながら包み込んだ。
何でもいい、今はどうでもいいから、、、早く帰って来て下さい、、一之宮さん、、、
湧きあがる震えを抑えるかのように自らの両肩を抱き締めて。
しばらくして紫月が戻って来ると、その顔色は蒼白としていて その後ろからは帝斗が現れた。
紫月は帝斗を呼びに行ったのか?
安曇は先日のこともあってか、帝斗の顔をまともに見られない様子であったが、
そんな安曇を気使ってかすぐに帝斗から話し掛けた。
「やあ、ご苦労様。」
その言葉に安曇は一瞬ほっとした面持ちになった。
しかし、いくら事態がこういう緊急であってもやはりまだこの2人は油断ならないし、
どうしたものかと思いあぐねていたとき、
震える声で紫月が口を開いた。
「ごめん、帝斗・・・許してくれ!」
突然の言葉に帝斗も一瞬戸惑ったようであった。
「なっ、、、?一体、どうしたというんです?倫周は、、、!?
何があったんです?紫月さん、、、」
帝斗の顔も驚愕に揺れていて。
「こうなったのは俺のせいだ・・!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
帝斗も安曇も紫月が何を言っているのかすぐには理解できないでいた。
紫月はその大きな瞳にうっすらと涙を浮かべるとがっくりと肩を落とすようにして話し出した。
「みんな、俺のせいなんだ、、俺がきっと倫をここまで追い詰めた、、、!!
さっき、倫がここに来た時、こいつは酷い状態で、恐らくは誰かに暴行を受けたような、、、
身体中が痣だらけで、ここまでだってどうやって辿り着けたか不思議なくらいだった。」
「ですが倫周は周都督のところにいたのではないですか?なら、どうしてこんなことに!?
まさか周都督と何かあったのでは!?」
「いや、それは俺にもわからない、、、でもどうあれ、倫がこんな目にあうようになった原因を
つくったのは、、そう、俺だ、、、。」
紫月は深い悲しみと後悔の念でいっぱいになったような瞳を帝斗に向けると
ぼつり、ぼつりと話し始めた。
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