蒼の国-戸惑う二人-
瞼が明るい。何だかとても眩しくて。

あれは誰? 泣き出しそうな瞳が見える。 霞んでるけど。

あれは・・・

「倫・・!」

ぼんやりと霞む瞼がまぶしくて遼二は意識が戻ったのを感じた。

目の前には倫周が心配そうな顔をしてこちらを見つめていた。

「遼二!気が付いたか!」



ああ、やっぱり倫だった。

「倫・・!」

遼二は動こうとして体中に激痛が走るのを感じた。

「ばか!まだだめだ!動くなよ、、、」

心配そうにこちらを見つめる瞳。倫周は綺麗な瞳をくしゃっと顰めると少し辛そうな声で言った。

「ごめん遼、、、俺のせいでお前にこんな、、、大丈夫か?」

口数は少なかったが、その心中は全て伝わってくるような気がした。

少しやつれたような白い顔がじっと遼二を見つめる。

「倫、お前、少し痩せたな・・」

遼二はそう言いながら笑ってみせた。そんな笑顔につられて倫周も一緒に微笑んだが又すぐに

顔が曇ってしまう。そして心配そうな表情で見つめてくる。

「んな、顔すんな。もう大丈夫だってよ。」

辛そうに自分を見下ろす様子に遼二は微笑ってそう言った。

だがやはりまだ体は辛そうだった。あれだけの矢を受けたのだからいくら不死でも

回復までには時間が入った。たまらず倫周は遼二に縋りついて。

「心配したんだ、遼二、、死なないってわかってても、、、心蔵がもぎとられるみたいで、怖かった、、

自分の身体が裂けそうになって、辛かった、、、もう、あんなこと、するな、、、」

少し身体を震わせながら切なそうにそう言うと、白い頬に つぅーっと涙が伝わった。

遼二の布団でそれを拭いながらその手は以前よりも少し細くなったように見えて。

遼二は倫周の肩に手をまわすと、

「何泣いてんだ、ばかだな、これ位前にもあったろ?ほらほら、しょうがねえなあ。」

そう言いながら笑った。

「痛てっ、ばか、あんまり笑わせんなよ、俺は病人なんだぞ!」

「ごめん、、、そうだったな。」

倫周もようやくと微笑んで。

ふっと、2人の視線が重なった。

遼二が倫周を見つめて。

倫周が遼二を見つめて。

「よかった、気が付いて」

まだ切なそうな瞳を向けたまま軽く微笑んでよこしたその存在に・・・

無意識に遼二の手が倫周の腕をつかんで。

そっと側に引き寄せた。 お互いの顔もはっきりと見えない程の近い位置まで。



時間が、遅くなるような感覚が2人をおそう。



いつまでそうしていたのだろう、本当はほんの一瞬のことなのに。

2人にはものすごく時間が長く感じられて。震えながら・・・

頬が触れた。

心臓がぎゅっとつかまれたように苦しくて。どうしようもなくて。想いはきっと同じ。

軽く、、、唇が合わさる、お互いを探すように。

鼓動が、高鳴る。

ぐっ、と遼二の手に力が込められて。

耐え切れずに2人は求め合った。お互いの唇を。強く合わせて。

「・・んっ・・・ぁあ・・・」

遼二、遼・・遼・・・・・

ものすごく久し振りの感覚が倫周の心をぎゅうっとつかんだように狂おしいほどに切なくて。

「遼・・・りょ・・・・・」

湧きあがる高まりに押し流されそうになって・・・



「悪い、、、」

遼二はくい、と顔を反らすと低い声でひとことそう言った。

倫周は首を強く横に振って。

「いいんだ、、」

そう言うとゆっくりとぎこちないような仕草で遼二の布団の上に顔をずらした。



倫周のやわらかな髪が遼二の頬に触れる、長い茶色の細い髪。

その昔、当たり前のように撫でていたその髪。

「もう行け、、、」

顔を背けたままで静かに遼二は言った。

「う・・ん・・・・」

そう返事はしたものの倫周はまだ頭を持ち上げられずに。

「行けって。じゃねえと俺、何するか、わかんねえぜ、、、早く、行け、、、、」

遼二は少し厳しい声色でそう言うと体ごと ぐるりと背けてしまった。倫周はやっと遼二の胸元からは

起き上がったものの、まだ椅子から立ち上がれないでいた。

「都督が待ってる、、、早く行け、、」



「う、ん・・じゃあ、行くから・・・・」



扉を閉めて倫周は自分の室へ向かう途中、歩きながら涙が零れてきて。

何で泣くんだ、何で俺は、、、

心が何かにつかまれているように苦しくて、何かにすがり付いて大声で泣きたいような衝動にかられる。

身体が、裂かれてしまいそう、嫌だこんなの。嫌だ怖い、俺はどうかなってしまいそうで、

自分が怖い、、、!





いつものように室に帰ると、もう当りは闇が降りていた。室の扉から灯りが漏れて、その灯りが

時折揺れる。扉を開けるといつものように周瑜がそこにいた。

「お帰り、遼二の様子はどうだった?」

やさしい話し方、いつもの周瑜の。

「うん、気が付いて、元気そうだった」

「そうか、それならよかった。又 明日、一緒に様子を見に行こうな」

そう言いかけた周瑜の言葉がやさしくて、倫周の心はずきんと痛むような衝動に駆られた。



「公瑾・・・」



たんっ、と歩を踏み出すと突然に倫周は周瑜に抱きついた。きつく、きつく、無我夢中で。

周瑜がよろけてしまう位 きつく。

「抱いて!公瑾、、お願い、、、!」

夢中でしがみ付いてくる。

周瑜は突然のことに驚いたが、やがて全てを理解したかのように落ち着くとしっかりと倫周を抱き返した。

きついくらいに腕の中に包み込んで、ぎゅっと抱き締めた。

倫周の唇にキスをして。深く深く、くちづける。

周瑜は灯りを消すと、倫周を寝台に倒した。

襟元に手を掛けて、白い肩を露にして、桃色の花びらにくちづけて。

そうして無言のまま、周瑜は次々と着衣を解いていった。


倫周の身体を開いて、腕を持ち上げて自由を奪う。

ゆっくりと身体を重ねる。倫周を包み込むように。やさしく くちづけて、愛撫する。

次第に沸きあがった倫周の熱が伝わってくる。とぎれ、とぎれに声が聴こえて。



「公、瑾、、、もっと、お願い、、もっと、強く、抱いて、、、!もっと、もっと!もっとだよ、、お願い、、!」



「辛いぞ」そう言っても・・・「いいの、もっと、辛くして・・・!」

「苦しいぞ」そう言っても・・・「いい!もっと苦しくして・・・!いっそ・・・」

狂ってしまう位、抱いて・・・!お願い、公瑾お願いだから・・・



俺をどこにもやらないで!しっかりつかまえていて!ほんの少しも離さないで!もしも離れたら

狂ってしまう、、自分が自分でなくなりそうで、、怖いんだ!だから抱いて!ほんの少しでも

あなたを感じていないと俺は・・・

瞼をぎゅっと閉じたまま倫周の頬に涙が伝って、やがて激しい嗚咽に代わった。

意識を放り出したように泣いて。





周瑜は後ろから倫周を包み込むように横になっていた。

微かに寝息を感じながら 青い闇が2人を静かに包む。

先程の激しさがうそのように静かな時が流れていた。



倫周、苦しいのか?伯符が、お前を呼ぶのだろう?俺の元に戻って来いと、呼ぶのだろう?

私には解るんだ、伯符が呼ぶ声が聴こえる、お前の苦しさが伝わる、だっておまえは、、、

わたしなのだから、、、きっとおまえは、わたしなのだ、、、伯符がわたしを呼んでいる、、、

もうそばに来いと、、、そうだろう?伯符、、、