蒼の国-白花- |
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はらはら・・・白い花が舞う。
いつだったか、そう、そんなに昔じゃない・・・
あなたは此処で俺に言ったんだ・・・
俺にすべてを預けろって、俺がすべてを受け止めてやるって。
愛してくれるって言った。
なのに、それなのに・・・あなたは逝ってしまった。
俺をひとり置いて。
帰って来てよ孫策っ、俺はもう耐え切れないよ・・・寂しくて・・・
寂しくてもう心が千切れそうっ・・・・
どんなに嫌でも抱かれてしまうこの身体、抗えない・・・
どんなに望まなくても、身体が勝手に反応して、誰かに触れただけで熱くなる。
焼けるように焦がれるように、熱を増して身体の奥底から何かが湧きあがるようで。
嫌だこんなの・・・
俺はあなただけを想っていたいのに、俺はあなただけのものなのに
抗えない、身体が勝手に流されてしまう。
もう終わりにしたい。もうこんな身体、始末してしまいたい。あなたの側に行きたい。
でもだめなんだ・・・・
どんなに傷つけたって、この身体を切り刻んだって、俺は死なないっ・・・
死ねないんだ・・・
たとえこの朱雀の剣を使っても、死ねない。
俺には死ぬことも許されないっ・・・
倫周の室の前に周瑜が来ていた。このところ様子のおかしい倫周を気使って
見舞いに来たのだ。
「倫周?いないのか・・・」
そう声を掛けたが室の中は真っ暗で灯りも点いていなかった。
ふと風の渡る様子に中に入って見ると僅かに戸が開け放されている様子に
庭の方を覗いた周瑜の瞳に驚愕の光景が飛び込んできた。
そのあまりの様子に周瑜はその場に立ち尽くしてしまった。
「倫周・・・?何を・・・お前何をしているのだ・・」
そこには朱雀の剣を握りしめながら鮮血にまみれる倫周の姿があった。
恐る恐る引き寄せられるように周瑜が近寄ろうとすると
「来るなっ!」
舞い散る白花の中に倫周の声が響いた。
驚愕の表情を浮かべながらふらふらと歩み寄る周瑜に朱雀の剣を向けると
「来るなと言ってるだろうっ、それ以上近付いたら例えあなたでもっ、俺はっ・・・」
そう言って涙に汚れた顔を歪めた。
決意のある瞳、本気だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何も言葉にならずに周瑜はしばらくそのまま動くことも出来ずに只立ち尽くしていた。
が、何かを決意したように再び倫周に向かって歩を進めたとき。
「来るなと言ってるだろうっ!?」
構わずに、冷静に近付いてくる周瑜に辛そうな顔を歪めて倫周は叫んだ。
「来ないでっ・・・」
放っておいてくれよ、もうこれ以上構わないでくれよっ・・・あっちへ行って・・・
「これ以上苦しめないでくれよっ・・・」
「これ以上苦しむなっ・・・!」
声が重なった。
その瞬間、朱雀の剣に触れた周瑜の腕から鮮血が飛び散って、倫周は驚いて剣を落とした。
その剣が地面に落ちたとき。
鮮血にまみれた周瑜の腕が倫周の細い身体を抱き締めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・!?
周瑜さま・・・?
倫周は一瞬何が起こったか理解出来ずにいたが、はっと我に返ると、もうすべてを
投げ出すように叫び出した。
「放してっ!もう俺のことは放っておいてっ・・・好きにさせてよぉ・・・」
そう言って周瑜の腕の中で泣き崩れた。
周瑜はそんな倫周の身体を再び強い力で引き寄せるとその頭を抱え込むようにして言った。
「倫周っ、お前のすべてを私に預けろっ!お前のすべてを受け止めてやるっ・・・
辛いことがあるなら私にぶつければいい、哀しいのなら私の腕の中で泣けばいい、
すべてを受け止めてあげるから・・・安心して私にぶつけろ・・・
な、倫周。いつでも側にいてやる、どんなことでもこれからは2人で乗り越えていこう、
お前が辛いのなら私も辛い、お前が嬉のなら私も嬉しい。
私たちはずっと一緒だ。だから安心してすべてを私に預けておくれ?」
「周瑜・・さま・・・?」
だめ、出来ないそんなこと。俺には出来ないよ。
「だって、だめだよ。俺には孫策が・・・」
そう言いかけたとき。
「孫策もっ・・・」
「孫策も解ってくれる、私が相手なら許してくれる。だから安心して、大丈夫だから。
何も考えずに私だけを見ろ、な?倫周、もう苦しむ必要はないんだ。」
そう言う周瑜の瞳にも涙が滲んでいて
「伯符はいつでも私の中にいるっ・・・!」
倫周はすぐ側にある温かい胸に頬を摺り寄せた。
本当に・・・?
甘えていいの?
寄りかかってもいいの?
「ほら、私はいつでも側にいるぞ?さあ、孫策って呼んでみろ?」
孫・・さく・・・孫策・・・
「孫策、孫策っ、孫策っ・・・!」
何だ、倫周?俺はほら、ここだよ。いつでもお前の側にいる・・・
はらはら、白いが舞う。
あの日と同じこの花の下で。俺を包んでくれる。
無くならないで、もう二度と無くならないで・・・
俺を包んでくれる温かいもの・・・!
この様子を見つめていた蒼国のメンバーはそれぞれの思いを胸にしていた。
帝斗は黙ったままその場を後にしたが、その後ろ姿は心なしか寂しそうであった。
紫月も又無言のままその場を去って。
「敵わない・・・俺にはあんな愛し方は出来ない・・・!」
そう言って大きな瞳に涙を一杯に溜めた安曇の肩を、そっとやさしく蘇芳は包んだ。
「きっとそのうち、お前にも無理なく愛し、愛される、そんな人ができるよ。」
その短い言葉が温かくて、とても穏やかで、安曇の頬に一筋の涙が伝わった。
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