蒼の国-BOARDING-
搭乗機は新型のジャンボジェットで座席は何とファーストクラス!

先に席に着いていたメンバー達がはしゃいでいた。

がらーんと広いファーストクラスの室内は今時のご時世もあってかまるで貸切状態であった。

ふと目をやると広い座席シートの上にべたべたと絡み合う男同士のカップルが先に乗って座っていて・・・



「ああ、、、!」



またしても潤の頭がうな垂れた。

そうだった、、、まだいたんだった、変な奴らが。

広いシートにわざわざ2人くっついて座りまるで恋人同士のような仕草と会話、

何を隠そう、ボーカルの木杉信一とギターの清水剛である。

ボーカルの信一は外見は潤に似た面差しの、それでも歳は潤よりも上の21歳で、

只やはり歳よりも大分若く見えるせいでまだ学割が通りそうといった感じである。

大きな瞳と甘い声で女性はもちろん、ある種の男性ファンをも魅了するカリスマ・ボーカリストである。

ギターの剛は信一より2つ上の23歳でFairyの最年長者の、一応リーダーであった。

その腕はこの業界では大したもので、そんな彼を見込んで紫月がスカウトしたくらいだ。

剛も又結構な男前で、実家が呉服屋を営んでいるという又変わった環境のせいか見た目は古風な

純和風の粋男といったところである。

そんなわけでFairyはビジュアル系のバンドとしても人気が高かったのである。

まあ、それはそれとして、いいんだけれどこの好き放題の態度といったら、、、

「ああ、もう!ファンの子が見たら泣きますよー」

潤は頭が痛かった。

そんな潤を尻目にジャンボ機は悠々と高度を上げていき、折りしも貸切状態のファーストクラスの中は

潤以外あちこちで花盛りだった。



高度が落ち着いた頃、大気が不安定だとかで機内放送が入っていた。

ゆらゆらと飛行機が揺れ始めて信一がその甘い声で騒ぎ出した。

「わあ、俺揺れるのだめなんだー。怖いっ・・剛、助けて・・・!」

そう言う信一に剛が待ってました!とばかりに

「しょうがないなあ、信一はぁー、よっしゃ、もっとこっち来いや!」

とご機嫌な様子である。

この2人、普段からこんな調子であったが、果たしてどの位深い仲なのか、、、?

考えたくもない潤であった。

又も潤がぷりぷりしていると、それが可笑しいのか遼二がそれを煽る様に隣に座っていた倫周の顎を

持ち上げながら潤に声を掛けた。

「なあ、潤ちゃん、怒っちゃだめよー、人生は楽しまなきゃ!なあ。いつ死んじゃうかわかんねえんだからよー、

今のうちよ、今のうち!」

からかう様にそう言うと隣の倫周の顔をひょいと持ち上げて、唇にキスをして見せた。

倫周の方も突然だったので、一瞬、お前何やってんだ?という表情をしたが、格別怒りもしなかった。

この人はいつもこんな態度である。さっきだって自分があんなに注意してるのに聞いているんだか、

いないんだか、体外の事には無関心、といったふうで空気のような感じなのである。

反対に遼二の方は何にでも興味を示して時折うざったい!と思う潤であった。



「それにしても悪ふざけが過ぎますよ!遼二さん、乗務員さんに見られたらどうするんです?」

真っ赤になりながら小声でぷりぷりする潤に遼二は言った。

「お前なあ、その”遼二さん”っての止めてくれよなあ。お前も俺と同い歳なんだからよー、な、潤ちゃん!」

そう言われると潤はすました顔で反撃の言葉を返した。

「それではその”潤ちゃん”って言うのも止めてくださいよねえ。」

そんな会話を耳にしていた一同はぷうーっと噴出してしまった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?



うわあっ、、!



そんな和気あいあいとした雰囲気の中、突然機体が がくんと傾いて大きく揺れた。揺れた、というよりは

まるで何かに衝突したかのような衝撃に一同はさあーっと蒼ざめたが。

、、、!?

続いて後方から狂気のような叫び声と共に爆音が轟いて。

それでもがたがたとした揺れ以外は まだ前方座席の方へは様子が届かずに皆がそれぞれの顔を見合わせたり

して不安気な雰囲気が機内に漂っていた頃。

又しても今度は自分たちの下方向から聞こえた爆音に席を立ち上がる者もいて。

何だ!?一同に緊張が走ったが、窓の外を見た剛の声が裏返った。

「爆発だっ!右のエンジンが燃えてやがるっ!!!」

ええっ!!?

「まじかよ?おい!!?」

遼二が叫んだが次の瞬間には窓の外が真っ赤に染まり後部座席の方から更に爆音が響いた。

一瞬の内に真っ黒な噴煙で包まれて機内は真っ暗になった。

「冗談だろ!?おいっ!!大丈夫か?皆っ!」

遼二が皆を確認するように叫ぶと、

「遼二さんの馬鹿あー!!」

と潤の声が返ってきた。

「いつ死ぬかわかんない、なんて言うからですよー!!!このままじゃホントに死んじゃいますよー!!!」

「こんな時に何呑気な事言ってんだ!お前!おい!?大丈夫かあ、こっちつかまれ、、、!!?」



「うわああああああっっ」



誰の声も聞こえない。爆音が大きすぎて、瞬間の出来事であった。



その日、新型ジェット機、海上で爆発、炎上、原因調査中。というニュースが流れた。乗員乗客生存の可能性ゼロ。



可能性ゼロ、ではなくそれは結果だった。