蒼の国-蒼の国1-
遠くに遼二の声がする・・・潤の意識がぼーっとして。目の前が、明るい・・・?

おい潤!潤ッたら!おい、しっかりしろよ!

「潤!!」

そう呼ばれたようで、潤は はっと目が覚めた。



!!!?
 


「あ・・れ?遼二・・・さ・・ん???ここは・・・?」

目覚めると、皆がいる!!

助かったのか!?そんなわけ無い!

だが しかし、、、

皆、そこにいたのである。自分達の仲間だけ。

あとの人たちは?乗員と乗客、それに、、、

大体ここは何処だ!?



「遼二さん、皆さん、あれ?助かったんですか?僕達、、、?いや、ひょっとして此処って

天国!?ですかあ!!!?」

潤がすっとんきょうな声を出した。

当りは白い靄のようなものが立ち込めていて確かに天国、といった雰囲気である。

微かに人の声が聴こえたようで振り返ったその先に、靄の中から本当に人が現れた。

「何だよ、SFじゃねえんだからよー、、、」

気味悪そうに遼二が言ったが靄の中から現れたその人はごく普通の”人間”で

SFではないようであった。

「やあ、ようこそ。驚かせてしまいましたか?」

その”人”はやわらかく微笑んでそう言った。

物腰のやわらかく流れるような所作のその人は見た目は東洋人風であったが、

まるで少女漫画に出てくるような感じの中性的美男子であった。



「あのう、此処は何処ですか?僕達は一体?確か飛行機事故に遭って、それで・・・

あの、やはり此処は天国でしょうか?」

「まあ、それに近いでしょうか。正確にはちょっと違います。説明が要りまして、ね。

こちらへどうぞ。」



一同はわけがわからないままその”人”に導かれた先には、遙か頭上まで太い柱が

延びている大広間がまるで神話か何かの神殿のようにそびえ立っていた。

彼はそこで立ち止まり一同を振り返るとにこやかに微笑みながら自己紹介をした。



「はじめまして、皆さん、申し遅れましたが私、高宮東耀といいます。」

高宮東耀だあ?じゃ日本人か?

遼二が呟くと、すかさず潤が小声で

「また!遼二さんったら品の無い!」

と、こんなところに来てまでぷりぷりとして見せた。

そんな様子を微笑ましそうに見つめながら静かに高宮東耀氏は説明を始めた。

「此処は正確には”蒼の国”と申しまして、いわゆる冥界への入り口なんですよ。

一応冥界にも名簿がありましてね、此処は税関のようなものです。

皆さんが普通”天国”と思われている所は正式には”透の国”といいまして、

そこに行く前に税関に立ち寄って頂くと言う訳なんです。」

「じゃ、他の奴らは?もうその税関とやらを通ったのか?此処には俺達しかいないみてえだけど。」

遼二が聞くと、高宮はそれなんですが、、、と言って話を続けた。

「実は他の皆さんはもう”透の国”への入国手続きが済みましてね。此処に来て頂いたのは

あなた方だけなんですよ。この”蒼の国”は”透の国”いわゆる天国とは全く別の場所でして、

此処にはごく僅かの限られた人間しか居りません。此処がどういった所か、率直に言うと、

”不老不死の国”なんですよ。」

一同はお互いの顔を見合わせた。各々に不思議そうな顔をして。



”蒼の国”



一度その生命を終えた人間の中でごく僅かの選ばれた者の行き着くところ、神の国。

そこに招かれた者は不老不死となり与えられた宿命をこなして永遠に生き続けるとされる。

蒼の国とは地球上に7つ程存在する内の一つでここは東洋系の人々が集められた場所だという。

他の6つについては各々に名称が定められており、それらはすべて”色”の名前で構成されて

いるとのことだった。7つの色、つまり七色ある国のうちの此処は”蒼色”というわけらしい。

現在ここに存在する蒼の国の住人は10人足らずであるらしかった。



信じがたい話だが確かに飛行機事故にあったに関わらずこうして仲間だけが全員無事だという

現実に各々夢でも見ているのかと、なかなか実感がつかめないでいた。

そんな一同に高宮という人物は自分たちのことについて更に詳しく説明を始めた。

「私達はあなた方と同じように人間として死を向かえ、冥界を渡って天国へ行く前に

此処に呼ばれた、今のあなた方のように。

ここで私達が何をしているかと言いますと、いろいろと仕事がありましてね。

まず此処には老と死が存在しません。私達は人間として死を迎えた時のまま、歳をとりませんし

新たに死を迎えることも無いんです。

世界には古くからの歴史が語り継がれていますが、その実際と史実とがかけ離れて

伝わっている事が多々ありましてね、それをある程度修正するのが私達の仕事なんですが。

このところ時代が積み重なるに連れて人手が足りなくなりまして、それでこの”蒼の国”で

生ける者としての適正調査を致しましてあなた方においでいただいたというわけです。

そう言うと高宮は

「是非、あなた方にもご理解とご協力をお願いしたいところだが」

と付け加えた。



「ご協力ったってなあ、、、」

遼二がきょろきょろと皆の様子を見渡して言った。

「大体、何で俺たちなんだ?適正調査ってどんな適正なんだ?」

まあ相変わらず品の無い!とも思ったが遼二の言う事が最もなので潤も一緒にうなずいた。

高宮は落ち着いた感じで説明を付け足していった。

「あなた方は生前、他の人とは一種違った才能をお持ちでしてね。

まあ、多方面に渡ってなのですが、そういった事を調査させて頂いておりまして。

細かく言えば運動神経ですとか、人を統率できる力ですとか、音楽の才能もそのひとつですし、

あとは武術に優れているとか、感性ですとか、そういったものを総合してですね。

ですが此処にお呼びしたということはそれだけではないのです。ただ才能という意味だけでしたら

他にも もっと優れた人々はたくさん居りますから。

つまり私たちにもいえることですが、此処に呼ばれた、此処で生きていくということはある意味

運命だということです。運命があなた方を選んだのです。」

そう言われると何とも言いがたい不思議な感じがして一同は顔を見合わせていたが。

「もしもその運命を受け入れていただけるならば、此処に残っていただきます。ただ、、、

強制は致しません。なぜならば不老不死というのは決してたやすいものではないからです。

私たちには老いや死を自由にすることは出来ても記憶に関しては関与できないのです。

つまりこれからの気の遠くなるような永い時間の中で記憶だけは残ってしまうことになります。

楽しい記憶だけならいいのですが、もしも辛い記憶が多く蓄積されていったとしたらそれは

非常に辛いこととなります。人間であるときでさえ自殺をする者が耐えない現状の中で

私たちには死を選ぶことは不可能となるわけですから。そのことを踏まえてよくお考え下さい。

もしも天国行きを希望されるのでしたらそれはそれで結構です。」



一同は沈黙してしまった。たしかに不老不死なんて憧れるようないいものじゃ無いかも知れない。

あり得ないことだからこそ神格化されるのであって実際にあったとしたらそれはある意味の

地獄に値するのではないかと思えなくもなかったのである。



誰も皆、しばらくの時間が必要だった。ゆっくり考えて返事をするものと誰もがそう思っていた。