蒼の国-蒼い闇の夜に- |
|
あれは私が致したのでございます、倫周さんをお連れして、、、殿のご命令で、、、
殿のご命令で、、、、
風が速い。誰も何もしゃべらずに。しばらくは沈黙が蒼い闇を包み込んで。
「2人にしてくれ、、、」
静かに孫策は言った。ぼうっと空を見つめながら、その瞳も又何も映してなどいないようで。
「でも、、、」
心配そうな周瑜を他所に孫策は倫周の側へ歩み寄るとぼうっとその脇に腰を下ろした。
「もう何もしねえよ、、、」
力なくそう言った姿も哀れに感じられて。
周瑜は言われたとおり 周泰と陸遜と共にその場を後にした。
皆が出て行った静かな蒼い闇の中で・・・
孫策の頬にすうーっと一筋の涙が伝わった。
何も考えられずにその場から動くことも出来ずに、孫策は傍らに眠る倫周に目をやった。
どす黒い痣がところどころに浮かび上がって目に痛い。額には陸遜が巻いた手当ての布から
もう鮮血が滲み出てきていて・・・
酷い傷、、、こんなになるまで殴りつけた、、、俺がこの手で、、、
「うっ・・・うっ・・・う・・ん・・・」
ようやくと戻って来た感情に孫策が涙で真っ赤に瞳を染めていたとき、その気配を感じてか
傍らの倫周がうっすらと瞳を開いた。
「孫・・策さま・・・」
消え入りそうなくらいの小さな声で発せられたその言葉に真っ赤に潤んだ瞳を向けると孫策も
又 僅かながらの小さな声で呟くように言った。
「悪かった、、、」
孫策を見上げる倫周の首が静かに横に振られて、その瞳にも又涙が滲み出していた。
「すみません、、、俺、俺が殿を、、、」
そう言って必死に向こうを向いた、ぼろぼろと涙が溢れ出て冷たい枕を濡らしていった。
ふいに孫策の手が涙に濡れた頬に回されて、倫周は驚いたように孫策を見つめた。
僅かに血のりがついた手はそのまま倫周の細い首筋に回されて、、、
そっと襟を開いた。
肩から腕にかけて傷と痣が先程の激情を物語るように孫策の目に残酷に映り込んだ。
「痛むか・・・?」
感情の無い声でそう言ったけれど、、、
その直後、信じられないような行為に倫周は驚きの表情を隠せなかった。
あ・・?・・・・え・・・・・・・・?
その酷い傷をなぞるように、どす黒い痣の痕を這うように孫策の手が動かされて、、、
「嫌か・・・?」
静かにそう訊いた、その声は僅かに漏れ出す吐息と共に熱く憂いを帯びていて、、、
「あ・・っ・・・!」
たくさんの痛々しい傷と痣の中で、そこだけは白く綺麗に残っていた僅かな白い胸元の、
薄桃色の花びらに熱い唇が触れられて、、、
「そ・・孫策さま・・っ・・・・」
驚きと信じ難い出来事にとっさに身体が跳ね上がるようになったけれど、、、
「嫌なのか?なあ倫周、、、俺じゃ嫌なのかよ、、、っ、、」
ち、違う・・・そうじゃないけれど・・・でも・・・・っ・・・
何も言葉にならずに倫周は只、只、首を横に振った、突然の出来事にわけが解らずに只 呆然となって。
いきなり意識を掻き乱されて。予期もしないうちに高みへ運ばれて。
「あ、あぁ・・っ・・・」
小さく漏れ出したその声に孫策の心も又 乱されて・・・
蘇る。あの日の光景が・・・
父親の腕の中で淫らに揺れていたあの亜麻色の髪が、目の前に同じように揺れていて・・・
湧き上がってくるどうしようもない感情が次第に乱暴に孫策の意識を動かして。
あれは私が致したのでございます、倫周さんをお連れして、、、殿のご命令で、、、
孫策の頭の中に色々な光景が巡り巡っては消えて、意識を掻き乱す。見たくないのに考えたくは
ないのに次々と色々な光景が浮かび上がっては心が掻き毟られそうになって、そんな気持ちを
追いやるかのように乱暴に指が動く。目の前の細い身体を力一杯奪いとるように抱き締めて・・・
嫌、、もうやめて、辛い、、、傷が、、身体が痛くて熱くて、ああ孫策さまもうやめて、、、
「嫌・・・っ・・やめてください・・もう許して・・・」
傷を覆っていた白い布が解けてそれさえも真っ赤に血に染まっているのに止まらない孫策の
激しいまでの抱擁に倫周の傷付いた身体は限界に達していた。辛い気持ちを訴えても到底
耳に届かない程に孫策は倫周の身体にのめり込んでいるようで何を言っても聞き入れられない
激しさの中で倫周の考えることはひとつしかなかった。
助けて、誰か、、っ、、辛いよ、痛いよ、、、助けて誰か、、、助けて、、、
「帝斗、、、っ、、、助けて帝斗ぉ、、、」
一頻り、激情の波がぴたりと止まって・・・
「倫周、、、?誰だ、、、帝斗?
帝斗って誰だ、、、お前の何だ、、っ、、、帝斗ってお前の何なんだよっ、、!?」
「ひぃ、、、あ、、、ぁ、、」
何がそんなに衝撃だったのか、自身にも解らないまま孫策は倫周の細い首筋を押さえつけては
力を込めていた。
何だよ、、、お前は親父のことが好きなんだろ?だからああして親父の腕の中で乱れていたんだろ?
それなのに、それなのに、帝斗って何だよ?誰のこと言ってるんだよ、、、?
お前はそいつとも出来てるっていうのか?お前は、お前はっ、、、親父のもんだろうがっ、、、!
「何なんだよぉ、、、一体何だってんだっ!?いい加減にしろよ、なあ倫周っ、、、」
傷の痛みと突然の激しい抱擁に既に意識が遠くなりつつあった倫周の細い身体をつかんでは
がくがくと揺り続けた。
「なあ、言えよっ、、言えよ倫周っ、帝斗って誰だよ!?言えったらっ、、、!」
激しい力が倫周を責め立てて。
お前は帝斗って奴ともこんなことしてんのか?こんなふうに淫らな声出して、、、そいつの腕の中でも
狂ってんのかよ、、っ、、、それなのに親父にも抱かれて、、、あんな声出して、、、
あんな、あんな声っ、、、
「や、やめて・・・もうやめてぇ・・・」
必死に懇願する目の前の細い身体が壊れるまで抱いた、、、
どうしてもやめられなくて、どうしても許せなくて、親父に抱かれながら恐らくは帝斗という奴にも
身体を与えているこいつが許せなくて、汚くて、こんな汚いもの壊してしまいたくて俺は全てを
破壊するようにこいつを抱いた、、、傷に疼く細い身体をもっともっと苛めるように、ともすれば
殺してしまってもいいと、そう思った、、、
|
 |
|
|