乱火 其の五
寄り掛かっている机にいつの間にか存在を増していた自身の性器の感覚を感じ取って緋爛はたまらずに

その場にしゃがみ込んでしまった。

「あっ・・・・・・・・痛っ・・・・・・・・・・・

痛い・・・・・・・・・・僕の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああっ・・・・・・」

それは欲望ゆえこの上なく興奮し腫れ上がってしまった身体の変調。

すぐには立ち上がることも儘ならずにその場にじっとしているより方法はなかった。



「あっ・・・・・・・・く・・・・・ぁっ・・・・・・・・・・・!」



痛みを気使うように掌で包んで指先が性器に触れれば既に潤みだしていた蜜の感触がゾクリと背筋を撫でた。

そのままうながされるように握り込み、揺り動かし、上下して・・・・

側にあったソファにもたれながら気が付けば絶頂を迎えていた。

沈み行く秋の早夜に包まれながら無情なる気持ちとこの上ない快感が交叉する。

とろりと掌に溢れ出た軋むような液体の感覚に再びゾクリと背筋をならしながらも緋爛の頭の中には

更なる要望が渦巻いてしまっていたのだった。



琉もこんなこと・・・・・するんだろうか?

そうしたらこんなふうに液が出るのだろう・・・・・・・・

あいつのはどんなんだろう・・・・・僕より大きいのだろうか?

そして・・・・・・・・・

あいつもこんなことをするのだろうか?

自分で弄って、自分で辱めて、自分で、、、、、、解放して、、、、、、

誰を思って?

何を考えながら?

それは僕であったりすることも、、、、、

一度くらいはあったのだろうか、、、、、、、



そんなことばかりが頭の中を掠めては朦朧となってゆく。

欲望のもたらす悦びと罪悪感の伴う苦しみに緋爛は翻弄され、若い心に限界が近付いていたその頃−−−





琉も又似たような想いに心を引き裂かれていたのである。

緋爛よりは幾分歳の長けた彼にとってそれらの想いは緋爛のそれとは又少し異なるものの、

その苦しみはといえばさして違いはないものであった。

いつの頃からか緋爛に魅かれ、それが恋だと気付いてからもうどれくらい経つだろう?

琉も又真剣な恋心に酷い罪悪感を抱え込んでいたのだった。

苦しかった。

いつも側で見ているだけの存在が。

手を伸ばせばすぐにも届くところが一番遠い場所にさえ感じられていたりもした。

そんな思いを打ち破ったあの夏の雨の日は琉にとっても信じ難く忘れられないものであったのだ。





自分から腕を取り上げ押し倒してしまった

気が付けばもう歯止めが効かなくなっていた





あのヒトの白い肌

高慢で我が侭な口ぶりで発せられる言葉を取り上げ塞いでしまいたい

そう、、、、、、

あのヒトから自由を奪って動けなくして無防備にして、、、、、、

特有の高慢な態度さえ愛しいと想うあのヒトの全てを壊してみたい

剥いで奪って泣かせてズタズタにして、、、、、、

全部自分のものにしてしまいたい、、、、、、っ





そんな欲望が込み上げれば琉の指先も又、自身の股間を慰めるようにうごめいて、、、、、

悶々とした想いを鎮めたいと願って外に出れば、無意識の内に向かった先は

秋の月が高く天を掠めるボート小屋であった。

同じような思いに風を求めてやって来た緋爛と出くわしたのは運命の決まりごとだった、と言って過言ではないだろう。

月明かりの中に互いの姿を捉え合う2人の瞳は深く墨色に揺れていて、それはまるですぐそこの川面に

美しく映れども手には入らぬ月影のようでもあり、叶わないものを望む心は何を云わずとも互いの心の内を

読み取ってしまうのだった。





触れたい

寄せ合いたい

その指を、手を、肌を、触れ合うときの力の強さでさえ感じ合ってしまいたい





緋爛は立ち尽くしたまま

琉の足は無意識に歩み寄る

互いに望んだものが触れ合う瞬間−−−−−

伸ばされた琉の指先が少し戸惑った緋爛の指先を絡み捕ったと同時に緋爛の唇から僅かな声が零れ出した。





「琉っ・・・・・・・・・!」

ぎゅっと瞳を瞑り俯いて震える。

「お前・・・・・・何してるんだ・・・・・・こ・・・んなところでっ・・・・・・」

「あなたこそっ、、、、こんな時間にお独りで危ないじゃないですか、、、、、、

あなたこそこんなところで何をなさって、、、」

「うっ・・・・・・・・・・・す、少し涼みに来ただけ・・・・・だっ・・・・・・何となく寝付けないから・・・」

普段の高慢さの欠片もない程にガクガクと震えるように肩を竦めては月光に照らされた唇が僅かに濡れていた。

涼風が掠める頬は心なしか紅に染まっているようで、そんな姿を目にした瞬間に琉は高が外れたように

自身の欲望が渦捲くのを感じた。





欲しい、、、、、、

この綺麗な頬の色を

濡れて誘うような唇を

自分に警戒するように震える細い肩先を

すべてを奪って自分だけのものにしてしまいたい、、、

めちゃめちゃにしてしまいたい程、、、、、あなたに触れてみたい、、、、

ずっと心の中で悶々とさせていた穢れた欲望を解放してしまいたい

ひと気のない真夜中に2人きり、、、、、誰も見ている者などない





そんな状況下で若い欲望を抑え込むのは到底無理に等しかったのだ。

気付けば琉は緋爛を小屋の壁板に押し付けるようにすっぽりと覆い被さっていた。