罪と罰の夜
「何すんだよっ!あっち行けよっ・・・俺にこんなことしていいのはっ・・絢だけだっ!」

破れたシャツを一生懸命纏おうとしながら木蓮は叫んだ。 洸一はしばらく蒼ざめていたが

木蓮のそのひと言で折角戻りつつあった理性が又失われそうになった。



「こんなことしていいのは絢だけって、、一体いつからそんなことしてんだ!?

こんなことがいいことだなんて思ってんのか!?高校へも行かず毎日絢葉さんに抱かれてるっていうのか?

君は、、何考えてる、、、絢葉さんも絢葉さんだっ、こんな子供に、、、」

「絢の悪口を言うなっ!お前なんかに何がわかるってんだよっ!?偉そうなこと言うなっ!」

「なっ、、、」

売り言葉に買い言葉だった。

とっさに洸一は頭に血が登ったようになり又木蓮の細い身体ににじり寄った。



「じゃあ君はこんなことが好きだっていうのか!?こんなふうにして男に抱かれて、、、

そんなの普通じゃないんだっ、もっとちゃんと周りを見ろよっ!」

「うるさいっ!放せよっ!俺に触るなっ・・・」



木蓮は洸一の手から逃れると自覚の無いままとんでもない挑発の言葉を口にした。

無論、木蓮にはそんなつもりは微塵も無かったのだが不用意に発せられたその言葉は

折角取り戻した洸一の理性を狂わせるに十分過ぎた。

木蓮は自身でも気付かぬところで地獄をつくりだしてしまったのである。



「ふ・・んっ、綺麗事なんか言ったって結局はあんただって今俺に襲いかかったじゃんか?

そんな奴に俺たちのことをどうこう言う資格なんかねえよっ!あんただって十分スケベじゃんか、

俺のこと犯るつもりだったんだろ?ふっ・・・締まらねえの・・・ふふっ・・・

だからヤなんだ、頭良さそうな奴らって!」

そう言って可笑しそうに笑うと置いてあった缶ジュースを口にした、

口にするつもりだったが、、、





「・・・うっ、ぐっ・・・・」



色白の肌が蒼みを帯びて黒っぽい血の塊のようなものが白い肌の下から透けて見える。

洸一は木蓮の細い首筋をものすごい力でつかむとそのまま壁に押し付けて動けないよう追い詰めた。

木蓮の不用意なひと言が取り戻しつつあった洸一の理性を打ち砕いてしまったのだった。

「随分なこと言ってくれるじゃないかよ、俺はホントっに君のこと心配して言ったのに。君だって

絢葉さんの手の中であんなに燃えてたじゃないか?

結局、誰だっていいんだろ?こうして抱いてくれれば誰だって。同じなんだろ?だったらっ、、、

俺が抱いてやるよ、お前なんか只の汚ねえ子供だってこと、教えてやるっ、、、!」



なっ・・・・・・・!?



「やっ・・嫌、いや・・いやああああっ・・・」



木蓮は声の限りに泣き叫んだが、声が掠れて、、、出ない、、!?

助けを呼びたいのに、声が出ない、、、っ、、、

洸一は激しく木蓮の衣服を引き剥がして、、、



「あっ・・絢・・絢・・絢あっ・・・」

木蓮から漏れるのはもうその言葉だけだった、ひたすらに絢葉を呼ぶ言葉だけだった。





時計はもう午前の2時を回っていた。青い闇の部屋には激情の痕が生々しく残されて。

木蓮は呆然としていた。初めて味わう強引な暴行にその細い身体も心も全てが脱殻のように

視線は定まらずに只 天上を見つめていた。

洸一はひとしきり木蓮を自分のものにすると瞬く間に取り戻された理性と普段の自分がその行動を

責め立てて、まるで心と身体が分離してしまったか、或いは自分が2人いるようで無意識に

涙が零れ落ちた。

「ごめっ、、ん、、ほんとに悪かった、、俺、酷いことしちまった、、、おい?大丈夫か、木蓮、、、」

すぐ側に横たわる細い肩を揺すってはみたけれど、木蓮の耳には何も届かないようだった。

只ぼうっとして空を見つめている。細い身体はあちこちが傷だらけで、、、



洸一はこのことを絢葉に何と言おうと考えていた。無論自分からわざわざ暴露するつもりなど

毛頭なかったが放っておいてもいずれ木蓮の口から伝わるだろう、それならば潔く自分から

言ってしまった方が、などと考えていたのであった。

とりあえず目の前の木蓮を介抱してやるのが先だと部屋の灯りを点けた、その瞬間。

あまりに酷い部屋の有様に一瞬息を呑んだ。

ああ俺はこんな酷いことをしちまったのかなどと思うと今度は怖くなって小さな震えがくるようだった。



ふと眼下に目をやれば、呆然と横たわる木蓮が眩しそうな顔をした。

「木蓮、、?大丈夫か、おい木、、蓮、、?」

何の返事もなしに重そうに身体を起こすと木蓮はふらふらと自分のベッドの方に歩いて行った。

どっさりと身を沈める音と共にしばらくして真っ暗なベッドルームからすすり泣く声が聴こえてきた。

その哀しそうな嗚咽に洸一はいてもたってもいられずにベッドルームの入り口まで行くと、

すすり泣きながらひたすらに繰り返される唯一つの言葉が聞こえてきた。



「絢・・うっ・・えっ・・絢、絢・・絢ぁ・・・・」



その言葉に目の前が真っ暗な闇で覆われると共に心がもぎ取られるような気がして、

洸一はどうしようもない不安に駆られた。

別にこのことが絢葉にばれてしまったらどうしようと思って怖くなったわけじゃない、

只それ程までに木蓮の心が絢葉を追い求める現実が洸一には何より痛かった。



そんなに絢葉さんが好きなのか、、、っ、、、



そう思うと辛くなりまるで広大な海原を背に波打ち際で足元を掬われるような感じがした。