秘密の部屋 |
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先日のことが気になって洸一は絢葉のマンションを訪ねた。
いきなり行って何を言えばいいんだろうと何度もためらったが、やはりどうしてもあの日の木蓮の
涙が忘れられずに自然と足がマンションに向かってしまっていた。
絢葉の部屋の前まで来て深呼吸すると意を決してベルを鳴らしたのだが・・・
回線が切れてしまっているのか外から聞いていてもベルの鳴った様子はない。
おかしいなと思いそっとドアに手を掛けると・・・ノブはくるりと回って。
鍵は掛かっていなかった。
「絢葉さん、、?居るんですか?冬崎ですけど、、、」
声を掛けながら恐る恐る中に入って行ったが返事はない。
だがリビングの方から微かな話し声がするようで洸一は部屋の中に上がってみることにした。
リビングのドアを少し開けて中を窺うように身を乗り出そうとしたとき・・・
「あぁ・・絢・・・んっ・・・う・・んっ・・・」
疑いようの無い淫らな嬌声、それは木蓮のものに他ならなくて。
洸一は一瞬にしてその場に凍りついた。
「絢ぁ・・・あ・・・は・・ぁ・・・」
誰に憚ることのない思うままの嬌声が広いリビングに木魂して、それに答えるように放たれた
絢葉の言葉に洸一は目の前が真っ白になった。
「ほら、ここから先は自分でするんだ。ちゃんと持って、ほら自分で、できるだろう?
そう、いい子だな蓮。そのまま、そうこっち向いて。」
木蓮の周りを立ったり座ったりしながら先日と同じように絢葉は鉛筆を走らせているようだったが。
その後に続けられた一連の会話は洸一にとって立っていられなくなる程の衝撃的なものだった。
部屋の中に飾られたパキラの隙間から絢葉の背中が見え隠れする、
鉛筆が紙の上を走る音と木蓮の荒い吐息とが入り混じって
目の前の床が曲がるような、目眩のような感覚に陥った。
「あ、絢・・も、だめ我慢できな・・・い・・・・」
木蓮の掠れた声が聴こえてきて、、、
「だめっ、まだだめだよ。もうちょっとだから。そのまま、、、」
「だ・・・め・・絢ぁ・・・」
掠れた声がすすり泣きに変わる。絢葉の低いハスキーボイスがほんの少し強色を帯びて、言った。
「まだいっちゃだめだよ、もう少し我慢して!」
、、、、、、、、!?
いったい?何をさせてるっていうんだ、、、?まだいっちゃだめ、って、、、一体、、、?
「あっ・・ああ・・っ・・・」
声にならないような高く潰れた嬌声が響いて木蓮は絢葉の方に倒れ込んだ。その細い身体を
支えながら溜息混じりに絢葉の声がした。
「蓮、、我慢しろって言ったろうが、、、折角の表情が台無しじゃないか、、、」
まだ荒い吐息と共に涙に滲んだ声が弱々しく反撃の言葉を返す。
「だ・・って、だって・・・」
絢葉はスケッチブックを置くと木蓮の細い身体を引き寄せた。
「あ、あ・・絢、絢ぁ・・・・」
「どうしてくれるんだ?蓮、また一からやり直しだぜ、まったく、、、」
深い溜息をつくと床に屈んだのか絢葉の姿が一瞬見えなくなってその隙間から木蓮の姿が
垣間見えた。
木蓮は、、、先日見たままの陶器のような肌に何も纏っていなかった。そしてパキラの隙間に
絢葉の背中が再び姿を現したとき。
絢葉も又一糸纏わぬ背を見せて、、、それらが合わさるように再び下方にゆっくりと沈んでいった。
「ふ・・ぁ・・絢、絢・・・」
高く掠れる嬌声と濡れたような音が混じり合って、時折ちらりちらりと垣間見える人の肌のような
色が洸一の意識を遠ざけていった。それはもう疑いようのない性の行為に他ならなくて。
ずるずると重い足を引きずって、それでも身体は宙に浮いているように感覚が薄く、ともすれば
倒れそうになりながらようやくと洸一はマンションを後にした。
いったい何時からあんなことを、、、?あんなこと、もうずっと前からしていたっていうのか、、、?
どう見たって木蓮はまだ16〜17歳の少年であった。
学校にも行っていないっていうのか?こんな平日のこんな時間に、、、絢葉さんは何を考えて
いるんだ、あんなことしてたら絶対にいいわけない、、、
洸一は一生懸命自分を正当化しようとしたが、夜になっても昼間に垣間見た光景が頭の中から
消えてくれなくて眠れぬ一夜を過ごした。
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