一夜の章 其の五 |
|
「やめてっ・・・・一夜さま・・・・・・一夜っ・・・・・・・嫌ぁぁああっーっ・・・・・」
叫ぶのは痛みを和らげる為。
泣くのは苦しみを忘れたい為。
懇願し、身を屈め、無抵抗のまま逃げ惑い、
何をしてもその苦痛から逃れられないのであれば残された道はもう逃避しかなかった。
忘れてしまえ 何もかも・・・・・・
失ってしまえ すべてのことを・・・・・・
悦びも悲しみも、そしてこの痛みでさえ
忘れてしまえばそれでいい−−−−−
泣き叫び、かれつくした声が再び降る雪の静圧に押し包まれる時分、朦朧とした意識を手放そうとでもいうように
がっくりと朱華の身体から力が抜けて落ちた。
抵抗の音が止み、腕の中で重みを増した細い身体に一夜はハッと我に返ったように大きく瞳を見開いて。
「あ、、、、、、、、」
色白の肌はヒリヒリと痛みまでもが伝わってくる位に真っ赤に腫れ上がり、美しい形の唇や頬からは
うっすらと血が滲み出て・・・・・
そんな様子に一夜はくいと瞳をしかめると意識を失ってしまった重い身体を引き寄せて、膝の上へと抱えあげた。
滲んでいる血にそっと指を這わせ ふっくらとした唇を撫であげて、僅かにひくついた喉を掠めて鎖骨に触れれば
綻んだ胸元の花びらが僅かにビクリと震えたような錯覚が押し包んだ。
しかめられた表情のまま一夜は無感情のようにそこに触れ、くるりと突起を撫で回した。
細い身体のそこらじゅうに たった今自分がつけた紅い痕が目に痛い。凍えて腫れて、
悲痛なくらいの傷痕を目にしながら一夜はぼうっと腕の中の身体を見つめていた。
「このまま、、、、本当に死んでしまえばいい、、、、、、お前など、、、、、
もういらない、、、、、、」
一夜はまるで感情のないような声でそう呟いた。
そう・・・・・いっそのことこのまま・・・・・俺の目の前から消えてくれたらいい・・・・・・
綺麗な顔をした・・・・美しいお前に惹かれて連れ帰ったあの日ごと消えてしまえばいい・・・・・・
綺麗なつくりをして・・・・そのくせ淫乱なこの身体・・・・・・
誰にでも媚びへつらうことを知っている
身を低く、甘い声を出して寄り掛かるように見詰め誘い・・・・・・・欲しいものを手に入れる
そんなお前を見ていると時々ぞっとする程嫌悪感を感じるときがある・・・・・
そう・・・・
そうして欲しいものを手中にした後のお前を見たときに特に酷くそれを感じる
それは自分が抑えられなくなる程 嫌な感覚だ・・・・・
あの勝ち誇ったような瞳を満足げに閉じて悦びの余韻に浸るような仕草・・・・・・
あれを目にするたびにお前を握り潰してしまいたくなるんだ・・・・・
握り潰して叩き蹴って、いっそ殺してしまいたいとさえ思う・・・・・・
瞬時に湧き上がるこの煮え滾るような感情が怖くさえ思えるときがあるんだ
いつか−−−−−
いつか俺はお前を殺してしまうかも知れない
いつか嫌悪感を通り越したときに・・・・・
お前を憎いとさえ思ってしまうかも知れない
俺の腕の中で悶える姿を見るたびに、
いやらしく溢れさせたお前の蜜に自分を絡めるたびに、
僅かずつの憎しみもが生み出されるようで酷く嫌な感情が俺をが押し包んで止まないんだ・・・・・・
そんなことが嫌でわざとお前を突き放せば すぐに悪気もなく側用人たちに身を委ねる・・・・・
俺の代わりだとでもいうつもりなのか、まるで見せ付けるように次から次へと誘惑し手中にし・・・・
きっと俺にすると同じように甘えて媚びて、寄り掛かって・・・・・
そうして手中に堕とす、そんな手口でさえうっとうしく感じられてならない・・・・・
ことが済んだ後には又得意のあの勝ち誇ったような表情をしているのかと思うと
側用人たちに対する嫌悪感など無いに等しいが、それでも皆無というわけではない・・・・・
崇史のように朱華を侮蔑の感情を持って見ている者には左程感じずにいた嫉妬心、
こんな奴いくらでも好きに弄んでくれと思っていた
でも・・・・・・
でももしもこいつのことを真剣に想い焦がれている者がいたとしたら・・・・・?
欲望を満たす為の道具ではなく、気軽に遊ぶだけの相手ではなく、真剣に心を寄せて想っていたとしたら・・・・・
例えば・・・・・
例えばあの蕗耶のように・・・・・・
一夜は怪訝そうに瞳を歪めると腕の中で雪をかぶっている傷ついた身体を見下ろした。
そう・・・・・・その蕗耶のように・・・・・・・
あのとき蕗耶は朱華の吐き出した欲望の欠片を愛しそうに追い求めた・・・・・
頬を摺り寄せ呑み込んで・・・・・っ・・・・・・
あれは明らかにこいつに心を寄せている証拠に他ならなかった・・・・・
蕗耶は朱華に魅入られたとでもいうわけか?
とにかくあいつは真剣に朱華を想っているに違いない・・・・・・
そんな思いが胸を過ぎると一夜は何故かどうしょうもないような感覚に駆られていった。
胸の中を掻き雑ぜられるような 逸るような痛みが全身を包み込み、足元を掬われるような思いに駆られて。
一夜はそっと膝の上に抱えていた身体を引き寄せると冷たく凍った頬にふいと唇を寄せた。
まるで温めるかのようにくちづけを施して、、、、、
そうして酷く辛そうに唇を噛み締めると、朱華の身体をぎゅっと抱き締めた。
本当は・・・・・朱華など誰かにくれてしまえばいいと思っていたっ・・・・
誘惑された側用人の誰かが朱華に惚れでもして連れて逃げてくれれば一石二鳥だと・・・・・
でもそれが蕗耶であることだけは嫌だなんて・・・・・
あいつだけには盗られたくないなんてっ・・・・・
俺はいったいどうしたいというのだろう・・・・・?
こいつが大嫌いで見るのも嫌なときがある・・・・・
けれども愛しくて誰にも触らせたくないときも・・・・・
俺だけのものにしておきたくて仕方ないときもっ・・・・・・
何故こんなっ・・・・・・・
矛盾だらけだ・・・・・・
「お、、、前のせいだ朱華、、、、、、、っ
お前がいるから俺はこんなに苦しんで、、、、苦しまなくてもいいことを苦しんでっ、、、、、
こんなっ、、、
こんな穢れたお前などの為になんで俺がっ、、、、、
こんな穢れた、、、、穢、、、れた、、、、」
うっ、、、、、、くっ、、、、、
一夜は抱き締めた朱華の胸元に縋るようにしながら嗚咽を繰り返していたが、突然に険しく瞳を見開くと
抱いていた身体を引っくり返すようにして後ろ側から抱え上げた。
両腕を拘束している紐が木の枝に引っ掛かって朱華の傷ついた身体をより露なものにしていた。
「似合いだ朱華っ、、、、、
傷ついて、血を流して痛めつけられてっ、、、、、
服を剥かれて縛られて、、、、、恥ずかしい部分も剥きだしにさせられてっ、、、、、
そんなお前を見て欲情した獣に犯されて更に苦しむお前の姿を見てみたいよ、、、、
そう、、、、、酷く乱暴に犯される、、、、、こんなふうに、、、、
こんな、、、、ふうにー、、、、、っ」
|
 |
|
|