蒼の国-熱情の一夜3-
はあはあと荒い息使いが交差する。

遼二と倫周の2人の、息使いが部屋の中に木魂して。窓からは月明かりが差し込んだり隠れたり

していた。



「ごめん倫、、悪かった、、、俺が、、、」

くっと繭をひそめながら遼二は倫周を見下ろした。

切なそうな、哀しそうな瞳が時折差し込んでくる月の灯りに照らし出されては、消えて。

そっと、倫周の手が遼二の頬に伸ばされて、触れた。

倫周の頬は涙でぐっしょり濡れながらも手元は自然と遼二の頬に伸ばされて、

掠れた声で遼二を呼んだ。

「遼・・・」

そう呼ばれて、、、

狂ったようにくちつ゛けた胸元の真っ赤になった花びらを見つめながら切なそうに瞳を細めた。

「こんなに腫れてる、、、まだ痛むか、、、ごめん倫、、、」

哀しそうに言う。その瞳は今にも泣き出しそうな辛そうな色を帯びてていて。

そっと肩に手を廻して、倫周は遼二を抱き寄せた。

、、、倫、、、?

「遼・・・何かあったのか?何か辛いこととか?」

耳元でそう訊いてくるその声があまりにも純粋で遼二は胸が痛んだ。



こいつは本気で俺を心配してるんだ、、!そう思ったら自分がしたことがとても辛く感じられた。



遼二は強く、首を横に振りながら何も言葉にできないままで。

ただ言えるのは「ごめん」のひとことだけで。後は言葉が詰まって出なかった。

ただ黙ってそうしているだけで、倫周はそれ以上何も訊いてこなかった。ただ、ただ、2人、

抱き合っていただけ。

遼二はそんな中でふと呉に行ったときのことを思い出していた。



呉に行ったとき。孫伯符は倫を愛したんだ。初めて倫を愛した男。そのすべてをかけて倫を

受け止めた、初めての、、、

孫策はどういう気持ちだったのだろう、倫をその腕に抱きながら、不安はなかったのだろうか?

今の俺のように。こいつを信じていたのだろうか、信じるって?俺だって信じてる、倫とは孫策よりも

ずっと永いつき合いだし。でも、、、孫策はあんなに短い間にあんなに見事に倫を愛したんだ。

何の迷いもなかったのだろうか?何の不安もなかったのだろうか?

こいつは綺麗すぎるんだ、何もかも、そう、そのすべてが。こいつは純粋すぎるんだ、今だって。

俺にこんなに酷いことされても心配そうな顔しやがる。そんな倫がっ、、、俺は愛しいだけなのに。

どうしても云えないっ、、そのひとこと。



倫、、、!



遼二は思いのたけを込めて倫周を抱き締めた。その腕は微かに震えているようで。

「遼が辛いのなら。いいよ、もう一回。一緒に辛い思い、してもいい。」

ふと囁かれた言葉に遼二は耳を疑った。

どんな表情で、どんな思いでそんなことを言っているんだお前は、、、?あんなことしたのに、、、

俺はお前をあんな辛い目に合わせたってのに、、、どうしてそんなことが言えるんだ、、、!?

遼二は込み上げた涙を見られまいとして必死に唇を噛み締めながら倫周の方を向いた。

「でも、、今度はも少し、手加減してくれよな。じゃないと俺だってもたねえよ、、、」

そう言うとそっと遼二に唇を重ねた。軽く、そして深く、唇を合わせて、、、掠れる声で言った。

「じゃないと俺、へんになっちまう・・・だって、だって、あんまり遼が激しいから・・俺だって

自分が抑えられなくなりそうで・・・」

甘い声が遼二を求めているようで。遼二は瞬間的に身動きできなかった。



どうして?倫は怒っていないのか?あんなことしたのに、、、なんでこいつは、、?



遼二の瞳が倫周を見つめる。とろけるような瞳を向けられて・・・

遼二はたまらなくなってその白い首筋に顔を埋めた、縋るようにくちつ゛けて。

聴こえてくる微かな吐息、それらが次第に熱を帯びて、掠れた声に変わる。

倫、お前は、、あんなことされてもまだ俺を求めてくれるっていうのか?まだこんな声を聞かせて

くれるっていうのか?どうして、、、どうしてお前はそんなに、、、悪いのは俺なのに、痛いこと

したのは俺なのに、どうして、、、!

熱い想いが更に倫周を溶かして、、、

「だ・・だめ、遼・・・」

微かに聞こえた言葉に遼二は はっとして手を止めた。

ごめん、倫やっぱり辛いよな、ほんとに俺って加減がわからなくて、ほんとに悪い、、!

そんなことを思ったとき。

「違う・・ん、だ・・ぁあ・・そんなにされたら・・こ・・声が、抑えられな・・・あぁ・・・」

そんな言葉に。

遼二は心臓をもぎ取られるような感じがした。

身体が熱い、燃えるように、熱い、、!



「いいっ!出せよ、思いっきり、、、お前の声、聴きたい、、っ、、、!」

遼二は自分のすべてを与えるように倫周を愛撫した。頭の先から爪先まで倫周のすべてを愛しんだ。



孫策!あんたもこうして倫を愛したのか?倫はあんたにもこんなことを言ったのか?

ああ、俺は、、、どうしようもないんだ、倫を、こいつをどうしようもなく好きで、、、

もう誰にも触れさせたくない、誰にも渡したくない、、っ!

「遼二・・・遼・・っ・・りょう・・・・!」

甘く、切ない声が響く、遼二の耳元で。

お願いだから、もうこれからはそんな声を他の誰にも聞かせないでくれ!



倫っ、俺だけに、、、倫、、、っ、、!





あんなにも純粋に、あんなにも素直に、倫は俺を求めてくれた。俺がどんなに酷いことをしても、

何の疑いも持たずに倫は俺を許して、求めてくれた。それなのに、何故拭い切れない?

どうしてこんなに不安が付き纏うんだ?いつでも俺の腕の中にいて、他の誰よりも近くにいるのに、

ふっと消えてしまいそうで怖くなる。あいつのどんな言葉を聞いてもどんな態度をとってみても

不安なんてこれっぽちも無いはずなのに。どうしても拭い切れない。目にみえない不安が俺を襲って。

倫、こんなにもお前が好きでたまらない。そんな自分が時々怖くなる。お前を愛しいと想うあまり、

何をしてしまうかわからない自分が、怖くなる。






「遼二、、」

しばらくの休暇の間、皆各々に自分の時間を楽しんでいた。思いつめたようなその声に呼び

止められて、遼二は振り返った。

「よお!安曇じゃねえか?何か用か?」

いつものように明るく答えたけれど。安曇の表情は辛そうに歪んでいて、遼二は一瞬言葉を失った。



「何であんなことしたんだ、、このまえ、、」

そう言われた言葉に遼二はとっさに顔色が蒼ざめた。

「おまえ、、見たのか、、?」

鋭い視線が遼二を射るように飛んできて、

「なんであんなことしたんだっ!お前は柊がどうなってもいいのかよっ?あんな、、あんなこと、、

もうしないでくれっ、、俺は、俺は柊が好きなんだ、、だから、、、」

顔を真っ赤に染めながら辛そうに俯いて、その後は言葉が繋がらなかった。

遼二はしばらく辛そうな表情を浮かべていたが、静かに瞳を閉じると呟くように言った。

「なあ、安曇、お前の気持ちはわからねえじゃねえけどよ、倫は、、、

倫を好きになるってことはああいうことなんだぜ。倫を愛するってことは、そのすべてを受け止めるって

ことなんだ。つまり、あいつが望むときに抱いてやる、いつでもそれを与えてやる、どんな方法でも、

だから俺は、、、」

そう言って、遼二も言葉に詰まってしまった。



ああ、だって安曇も倫を好きなんだ、、、

好きな気持ちは同じだ。こんなこと言って、安曇を諦めさせようなんて出来っこない。俺だって

倫を好きなんだから、その気持ちは同じなんだから。ああだけど、、、



「お前は純粋だから、倫みたいなのはきっと手にあまる、だからもっと別の、」

そう言い掛けて遼二はぐっと、唇を噛み締めた。

ああ、なんて俺は汚いんだ、、、!

こんなこと言って安曇を遠ざけようとしている自分がいる、、どんな汚い手を使ってでも倫を

独り占めしたい自分がいるなんて、嫌だ、、安曇だって同じ想いだろうに、、  

汚い、俺は、、、!

「悪い、安曇、、今のは気にしないでくれ、、っ、、、」

くるりと背を向けると遼二は足早にその場を後にした。その顔色は蒼ざめて、辛そうに歪んでいた。



遼二、、、?もしかしてお前も、、?

安曇はその姿に胸が早くなるのを感じた。