蒼の国-満月- |
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遼二・・・ねえ・・遼二・・・お願い・・遼・・・
辛いよ・・・ねえ・・・助けてよ・・遼・・・ああ・・誰・・・か・・!
月明かりだけが差し込む青白い部屋で倫周は1人ワインのグラスを
握りしめていた。
大きなソファーに、腰掛けもしないで床に座り込んで。
目の前には大理石のテーブルに開けっ放しの赤ワインの瓶が空に近くなっている。
、、、こんこん、、、
と ドアをノックする音が聴こえて倫周はワインでだるくなった頭を持ち上げた。
「倫周さん、入りますよ?居ないんですか?」
居間の入り口に置いてあるスタンドの灯りが点けられて
はっきりとした利発そうな声が聴こえてきた。
ああ、潤か、、、
倫周はぼんやりとする頭を覚ますように髪を掻きあげた。
潤は何やらコピー用紙のような物をかかえながら部屋の中へ入って来ると
「倫周さん、明日からの予定を、」 そういい掛けて、、、!!
「なっ、何やってるんですか!?倫周さん!!」
潤はびっくりして倫周に駆け寄った。
その手には握りしめていたワイングラスが割れて、血が流れて出していた。
グラスの破片とワインが床に散らばり、それでも尚、割れたグラスがまだ
握りしめられている。
「何やってるんですか!?ほら!危ないから離して!」
夢中でその手からグラスを取り上げた。
耳元で騒がれて気がついたのか、倫周ははっとして自分の手のひらを見ると
「わっ、、いけねえ!」
慌てて床から立ち上がろうと膝を立てた。
「どうしたんですか、一体?こんな、灯りも点けないで、、、」
淡々と片付けをしながら潤が尋ねた。
「ああ、いや、別に、、ちょっと飲みすぎちまって、、、」
酔いが回っているのか、まだぼやぼやとした感じで答える、
その顔は真っ赤に染まっていた。
おぼろ気に割れたグラスの破片をみつめながて瞳は視点が定まらないまま
頬を真っ赤に染めている。
そんな様子に潤は不可思議そうに首を傾げた。
?
あれ、おかしいな。倫周さんはいつも飲んでも顔にでないのに、
もしくは青くなる方だったけどどうしたんだろう?、、、
医者の息子で、合格した医大にも進まずにミュージシャンの道を選んだ潤としては
その体調の様子に敏感だった。潤は両手で倫周の頬を包み込むと
脈を触ったりしながらその感触を確かめていた。
「あれ? 熱はないようだけど、、、」
そう言った瞬間に突然にぎゅっとしがみ付かれて思わずふらりとよろけそうになった。
「抱いて・・・・・・」
!!? なっ、、、!?
吸い寄せられるように唇が触れられて。
慌てる潤の中にあたたかいものが滑り込んできて、、、やわらかく、深く、熱い、
息も詰まる程のくちつ゛けをされた。
???り、倫周さん、、、??
潤は突然のことにびっくりして目を白黒させてしまった。
倫周は潤から離れると、どっとソファーに身体を預けて深くため息をついた。
そんな様子に潤は目を細めると落ち着いた感じで静かに尋ねた。
「どうしたんですか、あなたらしくない、、こんなに飲んでしまってるし。」
永い付き合いで潤もよく理解しているらしく短い言葉でもよく的を得ているようで、
倫周はそんな潤に目をやると苦笑いしながら答えた。
「ああ、今日は俺、満月なんだ。そう、身体が、、熱くて、、、
でも今日は遼二も出掛けて、、、」
ああ、なんだ、そうなのか、
そんなことを思いながら潤は落ち着いた様子で瞳を閉じた。
「では少し、ここに居ます。でも、僕ではたいしたお役にたちませんよ?
そんなに経験もないし。」
ふい、と倫周の肩に手を置くと緩やかに微笑んでそう言った。
倫周はこの潤がこんなことを言うものだからさすがに少々驚いた様子であったが、
ふっとその顔を見上げると漂うような瞳をした。
すっ、、、と細い腕が伸ばされて、倫周は潤の腰にやわらかく抱きついた。
「潤がいいなら、、、今日は俺が、ちゃんとするから、、、」
そう言って潤をソファーの上に倒した。ゆっくりとその細い身体を覆うと
もう一度くちつ゛けて。
「ほんとにいいの?ねえ潤・・・・・」
言葉ではそう尋ねながらも倫周の瞳はもうとろけ始めていて、柔らかな
長い茶色の髪が潤の胸元で揺れていた。
甘く、深く、流れるような感覚が潤を包む。
湖の底から足をつかまれて引っぱり込まれるようなゆっくりとした感覚。
経験の浅い潤にはその全てが意識を遠くして。
細い指先が潤のきちんと正された白いシャツを緩めて、まだ青い蕾を解してゆく。
頭の中に霞がかかり、全てがスローモーションになる。薄く開けられた瞳の先は
全ての時が緩やかに流れているようで。
記憶が遠くなる、まるでやわらかな羽に包まれて天に昇っていくようで。
「、、う、、、っん、、、」
無意識に出された微かな声が倫周にもっと熱いものを注ぎ込んで。
「潤、、、」
次第に強さを増してゆく。波に呑み込まれるように激しさを増して、、、
窓辺から差し込む青い月明かりが2人を甘く照らしていた。
明日の予定も聞いて、自分の部屋へ帰る途中に安曇は倫周の部屋の前で
胸が早くなるのを感じていた。
どうしても諦めきれない、忘れらない、どんなに遼二に説明されても、
自分とは違う世界を持っている人だと言い聞かせても、だめだった。
この人のことが頭から離れない。
ふと、倫周の部屋の扉がほんの少し開いているのに気が付いた。
また、この人は無用心だなあ、、と思いつつもふらふらと足が向かってしまう、
頭から離れないあの人の部屋へ。
いま、中に居るんだろうか、、?
少しでも、顔を見て、少しでも、会話して、そうしたら、、、
無意識にそんなことを考えながら安曇は部屋の中へと入っていった。
中にはスタンドの微かな灯りが照らし出す甘い闇の空間がひろがっていて。
揺れ動く影、掠れる声、、、
安曇はびくっとして足を止めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!?
いやだ、又へんなとこへきちゃった、、!!ああ、もう!帰ろう、、!
く、っと瞳を閉じて唇を噛み締めると安曇は出口に振り返った。
ああ、もう どうしてこの人はこうなんだ!いつもいつもああして
遼二に自分を預けて、、!
苛々とした感情さえ湧いてくる。
「ああぁ・・倫・・しゅう・・さ、ん・・・!」
奥から聴こえたその声に、安曇は頭の中が白くなった。
目の前に閃光が走る、真っ白で何も見えない、、?
いま、、の、、は、いったい、、、何、、、?
足が、、、
自然と来た道を引き返す、その声の聴こえる方向に向かって。
安曇は瞬きも出来ずに壁に寄り添って歩いた。
「倫、倫しゅう・・あ、あぁ・・うっ・・・ぁ・・」
はっきりと聴こえてくるその声は。
確かに倫周を呼ぶものだけれど。
震える安曇の心臓を凍りつかせたその光景は、、、!
いつもの空に漂う瞳。その瞳の中に細く白い肢体を映して。
青い闇に揺れる、髪、肩、背中、、、
細い指が白い背中にまわされて。揺らぐ白い背中、、、
それは、明らかに遼二のものではない、、、!
なぜ、、、?
いつかの遼二の言葉が安曇の頭の中に響いてくる。
ほら、あいつはどっちかっていったら、こっちの方だからよ、だから諦めろって、
そんでもって俺にしとけ、、、だってお前、倫が好きなんだろっ?
な、んで、、、?柊は、だって、、いつも、だって、、遼二に、、
空を漂うようないつもの瞳。きっとしたきつい瞳をして、いつものあなたの瞳、
決して遼二の前でみせる瞳じゃない、、あれは、
男の瞳、、、!
次の瞬間、がくがくと安曇は膝が崩れ落ちた。
「潤、、、だめだ、、もぅ、、あぁ潤、、、!」
綺麗な声が。いつものあの人の綺麗な声が、聴こえて、、、
なんで涙がでるんだ、遼二にそう聞かされていたからか、、?
柊は誰かを抱くことは無いっ!て
そう思っていたからか、、、?
だから、、なのに、どうして、、、!!
やっとの思いで歩いてきて、安曇は廊下で泣き崩れた。 頬を両手で包んで、、、! |
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