蒼の国-回顧(遠い日の紫月の記憶から)-
「失礼します。」

綺麗に通る声が聴こえて。T−Sプロの専務でプロデューサーである

一之宮紫月の私室のドアが開いた。

「よく来たね。」

そう言うと紫月はうれしそうに大きな机から立ち上がった。

プロダクションの中に構えられた紫月専用の私室は内部も豪華で重厚感があり

倫周はくるくると部屋を見渡した。

「もうすぐだな、デビュー。調子はどう?」

穏やかにそう聞かれて倫周はなんだか少し緊張していた。社長である粟津帝斗とは

よく食事に行ったり買い物に行ったりとしょっちゅう一緒に過ごしていたが、

紫月とはレッスンの時やスタジオ内でしか

接触が無かったので少々気を使っていたのだった。多少緊張気味に大丈夫ですと答えると

紫月はやわらかな微笑みを見せた。その微笑みに倫周の表情もやわらいで。



業界最高峰を誇るレーベルの専務でプロデューサーの紫月はいつも洒落たスーツを粋に着こなしていて、

そんな容貌からしてもまだ18歳の倫周らにとっては常に憧れの存在であった。

紫月は穏やかに倫周をリビングへと案内した。

先程の大きな机のあった事務室とは違ってここからは全くのプライベート・ルームになる。

常に忙しい紫月や帝斗はこのように会社の中に自宅をも兼用していた。

甘いハスキーボイスでワインを勧めてくれた、そんな仕草のひとつひとつが何だか非常に

大人に感じられ、慣れないせいもあってか倫周はまだ どきどきと鼓動が早かった。

「まだ未成年だからね、一応内緒ってことでね。」

ゆったりとしたソファーに腰掛けて紫月は微笑んだ。

それにしても一体今日の用事は何だろうと倫周が考えていた時、その心中を見透かしたように

紫月の声が聞こえてきた。



「どうしてここに呼んだと思う?」

大きな褐色の瞳を節目がちにしてそう言うと、紫月はすっと立ち上り、絹のスーツの上着を

ソファーの上にぱさりと放り投げて 品のいいネクタイを緩めた。

「ここへおいで。」

紫月は倫周を自分の側へ呼び寄せると ふっとその肩に手を掛けた。

「昨日は楽しかった?」

いきなりそう聞かれて倫周はすぐに返事が出来なかった。

何のことを言っているんだろう?

「帝斗と出掛けたろう?」

ああそのことか、と倫周はにこっりしながら答えた。

「あ、はい。新しいレコーディング・スタジオを見に行ってきました。」

「そうっだったの、それはよかった、、、でもね、、、」

ふわり、と何かを掛けられた感じがして倫周が振り向いた瞬間。ぐい、と強い刺激を首筋に感じた。



え、、、!?



紫月は先程緩めたネクタイで倫周の首をくい、っと締め付けた。

なっ、、、何を、、、

そんなに強い力ではなかったが突然のことに倫周は非常に驚いた様子だった。

わけのわからないまま立ち尽くす倫周の胸元にす、っと紫月の手が滑り込んできて。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!?

なっ・・今度は何をっ・・・・・!?

ますますわけがわからなくなって倫周は慌てる暇もなかった。

ただびっくりするだけで。



突然の出来事に呆然とする倫周の腕をつかんで捻り上げると紫月は首筋のネクタイで

その両腕を縛り上げ、そのまま勢いをつけて倫周をソファーに尽き飛ばした。

うわっ、、!?

突然の想像も出来得ないような非現実的なことに倫周はただ驚いて呆然としたままだった。

紫月は倫周に覆いかぶさると縛り上げた両腕をソファーの肘掛けに括り付けその自由を奪った。



「なっ、、一之宮さん、何を、、、?」

さすがに慌てて問われた言葉に紫月はにっこりと微笑みながら言った。 

「紫月って呼べよ。一之宮さん、じゃなくてさ。帝斗のことはそうやって呼んでるんだろ?」

その声が先程までと違って棘を帯びている。紫月は更に続けた。

「何でこんなことされるかって思ってんだろ?ふふ、、、教えてやろうか?俺はね倫、お前に

すっごく頭にきてるんだ、お前が俺の気に障ることするからね、お前がいけないんだぜ、、、」

そう言うと又うれしそうに微笑んだ。

微笑みながらその瞳に殺気ともとれるような色が浮かんでいるのが感じられて

理由がわからずに倫周は戸惑った。

「な、何で、、俺、何かしまし、、た、、」

やっとのことでそこまで訊きかけた瞬間に、、、

ぐっと、唇を塞がれた。

、、、!!?

乱暴に唇を奪われて。

紫月の手が倫周の白いシャツに掛かって。うれしそうに笑うと紫月はひとつひとつボタンを外していった。



うっすらと微笑みながら楽しそうに外していく、その瞳には笑みとは逆の恐ろしい程の憎しみが

感じられるようで倫周はとっさにその腕から逃れようと もがき始めた。

「い、一之宮さんっ、、止めて下さいっ、、、!」

「覚えの悪い子だな、紫月って呼べと言ったろ?」そう言うと。

「やっ、、やだ、、嫌だっ、、一之み、、、」

紫月は倫周の胸元に唇を這わせた。

、、、!!

や、、やだ、、やだ、、どうして、、、何で、、俺が、、

両腕を頭の上で縛られて自由の利かない倫周の白い胸元が露にされて。

紫月はまだ経験の浅いであろう18歳の身体には酷な程の甘く強い刺激を与えた。

「帝斗もこうしてくれたんだろ?なあ、倫、言ってみろよ。帝斗はやさしかったか?」

何を言われているのか意味がわからずに倫周はただ、ただ、首を横に振った。

「何でこんなことするか、教えてやろっか?お前はね、倫、俺に何されても文句なんか言えないんだぜ?

こんなもんじゃ全然足りないよな、もっともっと償ってもらわないと、な、、、」

紫月は無表情で平然とそう言うとぐい、と倫周の脚を持ち上げた。



震える下肢を覆うものを取り去られて。

「やっ、、やだ、、嫌っ、、やめっ、、、」

身体を捩って必死に逃れようとするその様子が紫月の中の残酷な感情を呼びさまして。

憎しみを増す、更に酷い目に遭わせたいという気持ちが湧き上がる。

紫月は倫周の若い蕾を奪い取った。



いやああぁっ、、!



倫周は叫んで。甘く強い刺激に涙が溢れる。



その様子をうれしそうに見つめながらもっと激しくしてやる。そして教えてやるんだ、何でこんな目に

遭うのかってことを。

「帝斗はね、俺のものなんだよ。俺と帝斗はずっと前から愛し合ってて、お前はそれを盗ったんだ、

何されたって文句は言えないよなあ、そうだろ?倫?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・う、そ・・・・そんなことって・・・

必死で目を瞑っていた抵抗の瞳が大きく見開かれて、驚愕の色を映し出した。

「うそじゃないさ。お前が来るもうずっと前から帝斗は俺のものだったのに、俺だけのものだったのに、、、

お前が悪いんだ、だからお前にはこれからずっと、こうして償ってもらおうと思ってね。

ふふふっ、、哀れだな倫、俺にこんなことされてるお前見たら、何て言うかな?帝斗、、、

いっそ、見せてあげようか?なあ、倫?どう思う?、、、ふふふふっ、、、」

紫月はうれしそうに笑うと更に激しく倫周を追い込んだ。



身体中の至るところを激しく愛撫されて、さすがに倫周は逆らえなくなっていった。

身体は熱を帯びて。意識が遠くなる。目の前が霞んで。

「い、いや・・嫌だやめ・・て・・い・・ぁ・・あぁ・・」

抵抗の言葉が次第に掠れて。

「ふふっ、可愛いな、倫。どうしたの?もう、気持ちよくなっちゃったの?ふふっ、、、

帝斗じゃなくてもいいんだ?いやらしいなあ、倫は、、、ふふふ、、、」

「ち、違・・嫌だ・・い、や・・離して・・ああぁっ・・・・」

「嫌だ?離してって?こんなになっちゃってるくせに?、、、、こんなになるくらい、、、

愛してくれたわけか?帝斗はお前をこんなに感じるくらい抱いたっていうのかっ?」



紫月の中に得も言われぬような怒りが込み上げる。

ほんの少し愛撫しただけでこんなに身体が反応して、止まらなくなる程 帝斗はこいつを

抱いたっていうのか?こんな短い間に?そんなにこいつが好きだっていうわけか?

俺のことなんかどうでもよくって、こんなにこいつを愛してるとでもいうのかっ、、?

帝斗っ、、、!答えろよっ、帝斗っ、、、!

紫月の心が引き裂かれんばかりに悲しみを生み出して。それと同時に倫周への怒りは加速度を

増してゆく。



殺してやりたい、こんな奴、こいつのせいで帝斗の心は俺から離れてしまったんだ、

こんな奴のせいでっ、、、!



紫月は行き所のない思いをぶつける様に乱暴に倫周を抱いた。

「あ、あぁ、お、願い、、、一之、、みや、、お願、、い、、も、、う、」

うつろな瞳が紫月を求める。これ程の怒りも慟哭も届かないくらい、倫周の身体は波に呑まれていて。

紫月の頭の中にひとつの思いが浮かぶ。

こいつをめちゃめちゃにしてやりたい、こいつの幸せを奪ってやりたい、

そう、もう二度と幸せそうな笑顔で帝斗を見れないように、二度と笑えないように、、、

この手で、この俺の手でこいつを壊してやりたい、、、こんな奴、、、

紫月は何を思ったかふっと含み笑いを浮かべると優しい声で倫周に問いかけた。

「紫月って呼ばなきゃ、してあげないよ。何度言ったらわかるんだ?なあ、倫、、、

お前はさ、俺と帝斗のどっちが好き?どっちが好きか言ってごらん?帝斗?それとも、、、」

「や、やだ・・で、きな、い・・そんなこ、と・・」

はあはあと、乱れる吐息に視線は定まらぬままに倫周の瞳が目の前の紫月を求めて。

「素直じゃないなあ 倫、どっちが好きか言ってごらん?俺と帝斗、どっちなの?」



紫月は倫周を自在にコントロールして。



耐え切れずに倫周は紫月を求めた。

言葉にならない声出がこれ程の慟哭をも飲み込む・・・。



「お願、い・・・ああ・・紫、月・・・紫月が、好き・・好、きだから・・・」

いい子だな、倫、じゃあ約束通り、ご褒美をあげようね、、ふふふっ、、、

「んっ・・あぁっ、紫・・、紫月・・っ・!」

思いっきり背筋を仰け反らせるように腕の中の細い身体は至福の瞬間を捉えた。



自分の手の中で安心したように果ててしまったその表情を見下ろしながら

紫月は更に燃え上がるような憎悪の感情を持て余していた。

止め処なく湧いてくる激情を抑えながら表面は穏やかな声色で紫月は言った。

「倫、明日もレッスンが終わったらここに来なさい。いいな。そうすれば又気持ちよくしてあげるから。

もっとよくしてあげるよ、だから来るんだ、わかったな。

もしもお前が約束を破ったら、このことを帝斗に言っちゃうよ、、、ふふっ、、、

俺はお前が可愛いんだから、そんなことしたくないなあ、、ねえ、倫君、、ふふっ、、」


紫月は楽しそうに笑うと唇を噛み締めた。