蒼の国-純愛- |
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真っ暗な廊下。古いビルの、あれは何処?あれは、、、
九龍、、、!
倫、倫、、行くなっ、そっちに行くなっ!そいつはだめだ、そいつに付いて行っちゃだめだっ!
お前は俺がっ、、、!倫っ、倫っ、倫ーっ、、、!行くなあーっ、、、
夢・・・・?
全身にじっとりと冷や汗が纏わり付いて、遼二は目を覚ました。
心臓を押さえて、息が苦しい・・・ふと自分の腕や手に巻かれた包帯に気付く。
はっとすると遼二は我に返った。
先刻のことが頭の中にとぎれとぎれに蘇る。
自分のしたことが。
一つ一つ鮮明に蘇って。
遼二は隣に眠っている倫周を見つけた。
蒼白い顔。美しかった茶色の長い髪が短く切りとられて。
遼二は自分のしたことの重さを痛いほど感じていた。
涙がこみあげてくる。自分のしたこと。倫周に酷いことをしてしまった。身体中切りつけて、
髪もこんなにしてしまって。
我慢できなかったんだ。あいつが、お前の親父が許せなかった、
お前をそんな目に合わせたあいつが。けど・・・
俺だって同じだ、俺だって倫を自分だけのものにしたくて。守ってやるなんて
正当な理由つけて。本当は自分だけがお前を独占したかっただけなのに。
俺だってお前を自分だけのものしておきたかっただけなんだ、
汚い・・・同じだ、あいつと・・・
あいつのことをどうこう言えた義理じゃねえのに。汚い、俺はっ・・・!
止め処なく涙がこぼれ落ちる。
気持ちが抑えきれなくなって嗚咽に変わる。
遼二は必死で声を殺しながら嗚咽した。
誰かが哀しそうに泣く声が聴こえて。
倫周は目を覚ました。
ここは、何処?
霞がかかって、、、
うっすらと目を開けると、、、
そこには見慣れた姿が、、、!
泣いている?
遼二?
遼二が、こんなに悲しそうに、こんなに辛そうに泣いている、、、?何故、、?
遼、どうかしたのか?
はっと、倫周は我に返ると、、、
全てを思い出した。
遼二が、さっき、俺を切って、、、
こんなに泣いてる、、、遼、、、
倫周はそっと起き上がると遼二の側へ歩いた。まだ切り傷が少し痛む身体に
少し繭を顰めながらもベッドの上に伏せて泣き続ける遼二の肩にそっと手を掛けると。
「遼・・・」
遼二ははっとして顔をあげると真っ赤に潤んだ瞳が倫周を真っ直ぐに見上げた。
まるでその瞳には倫周以外入っていないといったふうだったがすぐに遼二は下を向いてしまった。
倫ごめんっ、、、謝りたいけど。謝ったって許してもらえるなんて思ってないけど。でも、、、
謝りたいのに。何か言わなきゃいけないのに。言葉が、、でない、、、!倫っ、、、
遼二は小さく肩を震わせながらぎゅっと瞼を閉じたまま顔を上げられないでいた。
そんな遼二の側をすっと離れると倫周はどこかへ歩いて行った。
倫、、やっぱり許してなんかくれないよな。俺は、ひどいことしたんだから、、、
ああ、だけど、、、
お前が好きだ、どうしようもない程、お前が好き、、、好きで好きでたまらない
こんなにも俺は、、、
倫、辛いな、これからきっと。俺はお前にこれからどうやって接していけばいいんだ。
何もかも壊れてしまったようで。そうしてしまったのは俺自身なのに。だから、、、
これはっ、、罰、だ、、、
ぎゅっと拳を握り締めて遼二は唇を噛んだ。
、、、倫、、、!
ふわり、と側にやわらかい気配を感じて。
遼二はふいと顔をあげた。その瞳にはもう何も映そうとしていないようだったが、
そのやわらかい存在を捉えるとはっと瞳を見開いた。
「り、ん、、?」
信じられないといった表情で遼二は倫周を見つめた。
倫周はやわらかに微笑むとやはりやわらかな声で訊いた。
「遼は俺が好き、、、?」
何でそんなことを訊くんだ?俺はお前にあんな酷いことをしたんだぞ?
どうしてそんなにやわらかな表情をするんだ、、、
どうしてそんなにやさしい瞳で俺を見るんだ?
遼二は何も言葉にできないでいた。ただ倫周を見つめるだけで、
黒曜石の瞳にはうっすらと涙が滲んで、、、
「おれ、、俺も遼が好きだよ。だから」
そう言って倫周はどこから持ってきたのかナイフを差し出した。
遼二は驚いた。
倫周の行動が、言葉が、目の前で起こっていることがすぐには信じられなくて。
「遼がいいなら、俺はいいよ。遼になら何されたって、いい、、、だから、、、
俺を刺したいなら、いいよ、これで、、、」
そう言って、ナイフを差し出す。あまりに驚いて動けない遼二を見て。
倫周はそれを自分の腕にあててすうっと、引いた、、、!
遼二は はっと我に返って、、、
「倫っ!ばかっやめろっ!何するんだっ、、、!?」
慌てて倫周の手からナイフを取り上げた。はあはあと息があがる。
あまりにも驚いて遼二はがくがくと膝が崩れた。
ぽたぽたと紅い血が落ちる。
倫、、、!
遼二は傷口を押さえるように倫周を抱き止めるとたまらずにそのまま力を込めて抱き締めた。
「ばか、倫・・・何するんだ・・・」
そう言うと又涙が滲んできて。思いのたけを叫んだ。
「倫、ごめっ、、俺が、俺が悪かったっ、、!許してくれっ、、!俺がっ、俺が間違ってた、、、
お前をあんな、酷い目に合わせて、、、何て謝っていいか、、、本当に、、、っ、、」
倫周を抱き締めながら遼二の肩が震えていた。涙に濡れて・・・
静かに倫周は口を開くと。
俺は・・・
「俺は気がつかなかったんだ、遼のことは、側にいるのが当たり前で、ちゃんと考えなかった・・・
遼がそんなに俺のこと想ってくれてたことも、俺が遼のこと、どう思っているのかも、みんな
当たり前のように思ってて。
ごめん・・・俺だって、俺だって遼が居なきゃ嫌なのに。
遼が側に居ないなんて考えたことなかったんだ。いつもやさしく、してくれてたのに・・・」
倫周は遼二の広い胸に顔を埋めた。
いつもこの胸が俺を受け止めてた。どんなときでもこの大きな胸が俺を包んでくれて。
「遼が居なくなったらって、考えたんだ、そうしたら・・・
怖かった、恐ろしかった・・・自分の身体の一部がなくなるみたいで、怖くなって・・・
遼・・!どこにもいかないで。一人にしないで。おいてかないで・・・!」
倫周は遼二にしがみ付いた。茶色の、少し短くなった髪が揺れる。遼二の胸の中で。
遼二はしがみ付いてくる細い身体をしっかりと抱き締めながら黒曜石の瞳を濡らした。
こんなにも愛しい、、、!どうしようもなく愛している、、、だから俺は、、
「倫、、、俺を、俺をお前のものにしてくれないか、、、?」
・・・・・・・・・・・・・・・・え?
俺を、お前のものにして欲しい。俺を、、、抱いて、欲しい、、、
え、、、?
「だ、だって、遼、、、それは、、、」
突然の思いもかけない言葉に倫周は驚いて。それでも遼二の真剣な瞳が倫周を捉えて離さない。
しばらく2人の間に緩やかなときが流れて。
倫周は静かに言った。
「辛いぞ」
その瞳はいつもの遼二に甘えるだけの瞳ではなくて、凛とした瞳。男の、瞳。
遼二は倫周の胸に顔を埋めるとそっと瞳を閉じた。
「いいんだ。辛い方が、いい。うんと辛い方が、うんと苦しい方が、お前を感じられる。お前にだったら
何されたっていい、俺だって、そうだ。」
倫周は自分の胸の中にある遼二の頭を大切そうに抱えるとそのままゆくっりと白いシーツの中へ
おちていった。
ここからは、2人の世界。
もう誰も邪魔するものはない。2人だけの世界がひろがって、、、 |
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