蒼の国-玄武と朱雀-
安曇は先程約束していた絶版になった”龍の古文書”を借りに倫周の部屋を訪れた。

蘇芳と飲んでいて予定よりも大分遅くなってしまった為、息せき切らしてやって来たのだ。

「柊、もう寝ちゃったかなあ、、、」

そう思いながら倫周の部屋のドアをノックしたが返事はない。

やっぱりもう寝ちゃったのか、、、そう思って諦めかけたところ、僅かにドアが開いているのに気付いた。

あれ?と思いながら部屋に入って声を掛けた。

部屋の灯りはついていて居間のTVがつけっぱなしになっているが、倫周の姿は見えなかった。

他人の部屋だし黙って入って来て驚かせてはいけないと思いながら恐る恐る洗面室の方だの

ベランダの方だのを覗いたが見当たらない。

しかし部屋の鍵も掛かっていないので無用心だと思い倫周が戻ってくるまで留守番がてら

待っていようかなどと思っていた。と、寝室の方から微かな話し声がするようで

安曇は、なんだ寝室にいるのかと思ってそちらの方へ歩いていった。



側まで来るとやはり話し声がするので誰か来ているのかとそっと中を覗いた。

「柊」

そう声を掛けようとして安曇は一瞬ためらった。ぼそぼそと小さな話し声が聴こえる。

訪問者は遼二のようだった。

僅かに開いていたドアから恐る恐る部屋の中を窺うようにそっと顔を出して、、、

ベッド脇に置かれたベンジャミンの隙間から2人の姿がぼんやりと映し出された。

窓の外に目をやりながら2人は並んで佇んでいて何か話をしているようだが内容までは聞き取れない。

そっと遼二の腕が倫周の肩を包み込むように回されて、、、

「倫、、、」

茶色の長い髪を掻きあげながら倫周の頬に自分の頬を摺り寄せた。



うわっ、、、



そんな様子に安曇は思わず真っ赤になった。

やだ、変なとこに来ちゃった、、、、

どうしよう、と思ったけれど音をたてるわけにもいかずドアにつかまりながら何よりその場に釘付けに

なってしまったのだった。

「なあ倫、、、いい、、?」

低い声がそう訊いた。

「そういう、、、気分なの?」

静かに倫周の声がして遼二の方を向いたのが見えた。遼二はその顔を両手で包み込むと

そのままぎゅっと細い肩を抱き締めた。

「そう、そういう気分、、、お前を、、、抱きたいんだ、、、、」

そう言われた声がいつもの遼二の活発な感じとは随分違って感じられ、安曇は膝に力が

入らなくなってしまい、がくがくと震えるのを必死で抑えようとした。

すっと倫周の細い指先が遼二の唇に寄せられて、、、

「いいよ、、、抱いて、、、」

そう言って瞳を閉じると今度は倫周の方から遼二の肩に手を回して抱きついた。

しばらくそうしていてからお互いに身体を少し離すと遼二が倫周を見つめた。

その瞳が熱く潤んだようになっていて頬がほんの少し紅く染まっている。

いつもの遼二からは想像も出来ずに安曇はまるで自分が見つめられているようなぞわぞわとした

感覚に包まれていった。



遼二ってこんなんだったっけ、、?



いつも明るくてともすれば冗談ばっかり言って人を笑わせているような遼二がこんな表情をするなんて

何だか信じられなくてますます視線は2人に釘付けになってしまう。

この2人がこんなことをしているのは三国志の時代へ行った時に聞いたから分かってはいたし、

実際に遼二が倫周を抱いているところを目の当たりにしたこともあったから、今更初めてでもなかったが

だがあのときは自分の軽はずみな行動のせいで倫周の精神状態をおかしくしてしまい、安曇自身も

普通の状態ではなかった為、錯乱していて殆んど何も覚えていないのだった。

だからこんなふうにして2人の逢瀬を目の当たりに、しかも直視するなんてことは事実上

初めてのことになるわけだ。まだ年若く経験の無い安曇には刺激の強すぎるそんな光景にどうしたものやら

戸惑いの心で揺れていた。どきどきと不安な気持ちと、そして安曇自身は自覚出来ていなかったかも

知れないが覗いてみたいという期待の気持ちが入り混じって心臓はどくどくと脈打っていた。

そんな安曇の様子などおかまいなしに目の前の2人は熱さを増していき・・・



茶色の長い髪を乱しながら遼二は夢中で倫周の唇を奪っていった。時折左右に顔を動かしながら

長い長いくちつ゛けを繰り返して。

「う、、、ん、、、っ」

倫周の口元から甘く溜息が漏れる。瞳はすでにとろけているようで、、、

「遼、、っ、、、」

紅くなった頬を遼二の胸元に押し付けるようにしながら倫周は顔を埋めた。

「服、、脱いで、、、」

遼二の低い声がして。

その様子に少々驚いたような倫周の声がした。

「何で、、、いつもは遼がしてくれるのに、、、」

不思議そうに覗き込む瞳に遼二は甘く低い声でもう一度同じことを要求した。

「いいから、脱いで、、、」

「うん、、、」

ゆっくりと倫周は自分のシャツのボタンに細い指を掛けるとひとつひとつ外していった。

「脱いだよ。」

そう言って遼二の方を見つめたとたん、、、

遼二はいきなり倫周の身体をベッドに押し倒した。

「遼っ、、?」

倫周は慌てた声を上げたがそんな戸惑いの様子にもおかまいなしに遼二はその細い身体を熱く

抱擁していった。

指と指を深く絡ませて倫周の白い胸元に顔を埋めると頬刷りをしながらその名を呼んだ。

「倫・・・倫・・・・」

その後に続く言葉を必死に抑えようとしているようで遼二の普段は男らしい顔が憂いを帯びてくる。

切なそうな瞳は何かを求めるように閉じられて、ひたすらに熱く頬を摺り寄せた。

それはまるで恋人の胸に縋るようにも感じられて安曇は視線が外せなかった。

まるで恋人を自分だけのものにするような、決して自分のもとから離したくないような熱い想いが

伝わってくるようだった。



変だな、遼二は柊のことを特別に好きだったとは言ってなかったはずなのにまるで恋をしている

みたいな表情だ、、、



ふっとそんなことが頭に浮かんだ瞬間、、、

「ぁあ・・ん・・っ・・・」

倫周の耐え切れないといった感じの声が漏れて、安曇ははっと我に返った。

「ああ・・っ・・遼二・・・遼・・っ・・・」

ベンジャミンの隙間から激しく揺れ動く影が見え隠れして、、、

熱い吐息が部屋中に響き渡る。ベッドの軋む音が一定のリズムを作り出して、、、

「ぁっ・・あ・・・っ・・」

そんなものを聴いているだけで安曇は腰が砕けそうになった。

まだ幼かった安曇にはもちろんのことそういった経験などあるはずも無く突然の強い刺激に

身体中ががくがくと震えた。



いやだ、もう帰ろう、、、帰ろう、、、ああだけど、、、

身体が動かないよ、、、どうしよう、、、



がたんっ・・・

と音をたてて安曇はドアにつまずいた。

、、、!?

その様子に遼二の視線がはっとこちらに向けられて、、、



「誰か、、、いるのか、、、?」



低い声がそう言ったけれど。

ドアの側に倒れこんだまま安曇は微動だに出来なかった。

どきどきと心臓の脈打つ音が響くようで安曇はぎゅっと瞳を閉じた。

どうか見つかりませんように、、、!

必死で祈るような気持ちでじっとしていた。

「遼・・・やめないで・・・ねえ遼・・・」

倫周の甘い声が遼二を呼び寄せて、ドア越しに向けられた視線をさえぎるようにその首筋を

つかんでは自身の胸元に引き寄せた。

「うん、、ごめん、何か音がしたようだったからよ。」

そう言って又熱い瞳を倫周に向けた。

「何にも聴こえないよ、、?別のこと考えないで・・・今は俺だけをみて・・・・」

とろけたような瞳でそんなことを言われて遼二は更に熱く目の前の細い身体を抱き締めた。

「ぁああ・・・っ・・・遼っ・・・遼・・っ・・・」

熱く抱き締められて漏れ出した甘いその声に遼二も又高まりを必死で押さえ込むようにしながら

言った。

「ば、ばかやろ、、そんな声出してっと、、誰かに聞かれちまうぜ、、、?」

そう言う自身も荒い吐息が漏れ出して。

「いい・・んだ・・遼と一緒なら誰に聴かれたって・・・俺はいいよ・・・」

ぁ・・・あ・・・っ・・・

そんなことを言われて遼二は倫周の細い身体を覆うように包み込んだ。

ぎゅうっと抱き締めて。

「ばか、、、そんなこと平気な顔して言うなよ、、、倫、、、だめだ、もう押さえがきかねえ、、、、!」

ああっ、、、!

最後の至福の瞬間に、、、



安曇はすでに立てなくなっていた足腰に更に激しい震えが来るのを感じていた。

その日、安曇にとって最も幸いだったのはこの後2人がそのまま寝付いてしまったことだった。

安曇にとっては、、、

究極の驚きと高鳴りを伴う悲惨な課外授業となってしまったのだった。