蒼の国-Destiny2-
何かに追いたてられるような夢にうなされて、遼二は目を覚ました。

はっと、起き上がると辺りを見渡して、、、



ここは何処だ、、、?見慣れない部屋、俺の部屋じゃない、、、倫、

そうだ、倫はっ、、?



遼二は狂ったように周りを見渡すと、隣りのベッドに愛しい人の姿を見つけて。

ほっとしたように遼二の瞳が緩んだのは束の間、突然何かに駆り立てられるように倫周の側へ

駆け寄った。

柔らかな掛け布団の中には体中に真っ白な包帯を巻かれた倫周が眠っていた。



「り、、ん、、、?倫、、、!

どうしたというのだ、こんなもの巻かれて、、!ああ、だめだよ、真っ白じゃないか、

お前の白い肌を隠してやろうと思ってさっき俺が紅く染めてあげたのに、

また白い綺麗な肌をさらして、、!

おまけにこんな白いもの巻きつけてちゃ又誰かに連れて行かれちゃうぜ、、、

全く、だめだな、俺が付いていないと、心配だよ、、、しょうがないなあ、、、

ねえ、倫、又染めてあげるな、待ってて!今すぐ染めてあげるから、、、」



遼二は何かにとり憑かれたようになって当りを見渡した。大きい立派な机の上をがさがさと探る。

引き出しの中に何かを見つけると遼二の顔がぱあーっと華やいだ。



待ってて倫!ほら、見つけたよ、これなら倫を紅く染めてあげられる、、、!



遼二は倫周の上に座ると手に持ったそれをうれしそうに見つめた。うっとりと、

まるで酔っているかのように。

遼二の手には帝斗の引き出しに入っていたペーパーナイフが握られていて。

倫周の首筋に一筋の線を引く。

みるみると紅い滴が滲み出て胸元まで真っ赤に染めて流れた。



「ああ、倫、これでもう安全だよ。もうお前の綺麗な白い肌が見えなくなった。

そうだ、これじゃ足りないかな、、?

ああ、いいことを思いついた!俺のも足してあげような、そうすればもっと紅くなって、

もっと見えなくなるよ。

待ってて、今すぐ、、、」



うれしそうにそう言うと遼二はペーパーナイフを自分の首筋にあてて引いた。

とたんに鮮血が滲み出てぽたぽたと真っ白な包帯を染めていく。遼二はうれしそうにして

その量をもっと増やそうときょろきょろと自分の身体中を見渡しながら自分の手や腕など

視界に入るところを次々と切り裂いて、愛する人を真っ赤に染めていった。



体中にじっとりと濡れわたる嫌な感覚で倫周は目を覚ました。

うっすらと瞳を開けると。



うれしそうな、遼二の、顔・・・?何か光るものを持って・・紅い・・周りが

紅い・・・!!!?



倫周は、はっと我に返った。

遼・・・!?

倫周の視界に血だらけで微笑む遼二の姿が飛び込んできて、、、じっとりと濡れた嫌な感覚は、、、

血に染まった包帯、、!

先程の記憶が蘇る。

何・・・?一体、何が起こっている・・・?



目の前に起こる全てを把握した時、倫周は又しても絶叫した。



その叫びにリビングを出て行こうとする帝斗の足が凍りついた。一同がその気配に真っ青になり

慌てて寝室の方へ駆け付けてみると。

寝室で繰り広げられるその光景にさすがに皆が絶句し、誰もがその場に凍り付いたように

足が微動だに出来なくなってしまった。信一などは耐え切れずに悲鳴をあげながら

ふらふらと倒れ掛かって剛に支えられたが、剛とて足ががくがくと震えてしまっていた。

ずっと一緒にバンドを組んできた最高のメンバーのこの2人が一体どうなってしまったのかと驚愕

せずにはいられなかった。



ビルと京が急いで遼二を取り押さえ、帝斗が倫周を抱きとめた瞬間、倫周は又気を失ってしまった。

暴れる遼二に潤が側へ付いて落ち着けようと一生懸命話し掛ける。

遼二の意識が潤を確認出来たのを見計らって、潤はその手からナイフを取り上げた。



「遼二さん、だめです、だめですよ。あなたの大切な人なんでしょう?大好きな人なんでしょう?

大好きな人にこんなことしちゃ駄目です。もっとやさしくしてあげようね。」



まるで子供をなだめるように潤はやさしく遼二を抱きとめてそう言った。

遼二はそんな潤の存在に安心したのか、少し落ち着きを取り戻すと我を失ったように泣き出した。

潤にしがみ付いておいおいと泣き出して。

「だって、だってね、守ってあげなくちゃいけないんだ。あいつが来るから、あいつがりっ君に

ひどいことするんだ、だから助けてあげなきゃいけないんだよ。僕が助けてあげなきゃ、りっ君が

可哀そうだ、、、ねえお願い、、、りっ君を助けなきゃ、、、早く行ってあげなきゃ、、、!」

潤にすがり付いて必死に訴える遼二に一同は驚愕の表情を浮かべた。



錯乱している、、、?



皆が困惑する中、潤だけは落ち着いて遼二の話を聞いてやった。側でしっかりと支えながら、

遼二を包み込むようにしてやさしく問いかけた。

「あいつ?あいつって誰?もっとよくお話、してごらん?」

そう言われて遼二は訴えるような瞳をして潤を見上げた。

まるで子供の瞳を潤に向けて。

「あいつがりっ君を苛めるんだ、ひどいことして苛めるんだ、だからあいつをやっつけてやるんだ、

僕がりっ君を守ってあげなきゃ、、、」

そうして遼二はひたすら同じ言葉を繰り返した。潤は遼二をぎゅっと抱きしめると手元の救急道具から

注射器を取り出して。

「わかったよ、じゃありっ君を助けに行こうね。」

がっくりと、遼二の身体から力が抜け落ちて、遼二はそのまま深い眠りについた。



「精神安定剤です。しばらく休ませてあげましょう。」

静かに言うと潤は視線を落として何か考え事を始めたようで頬に手をやりながらぶつぶつと呟いた。

皆はこの異様な事態にその場に立ち尽くすだけで誰ひとり、言葉も出なかった。

とりあえず2人を薬で眠らせるとリビングへ戻った。皆、何をどうしていいのかわからず言葉も少なげで。



潤は糸を手繰り寄せるかのように話しはじめた。

「精神状態が子供に戻っています。恐らくは香港にいた頃のまだ幼少の頃でしょう。りっ君、と

呼んでいる所をみると5〜6歳くらいでしょうか、あるいはもっと幼いくらいか、、、

”あいつがりっ君を苛める”これがキーワードです、”あいつ”とは誰のことなのか、香港にいた頃の

近所の友達か、あるいは全く想像に反する誰か。

つまり”あいつがりっ君を苛める”これが今回のことを引き起こした原因と考えていいかと思います、

遼二さんを幼少の頃の精神状態に引き戻した原因、、、

遼二さんの心に強く影響を与えていると思われるのですが、これが一体何を意味しているのかが

つかみかねますね。

”あいつ、、あいつが、苛める、、か、、、」

潤はぶつぶつと言いながら又 考え事をし始めたとき、突然に紫月は立ち上がると突飛なことを言った。



「なあ、帝斗、、お前倫を抱いたことがあるか?」



あまりにも突飛な質問に帝斗はじめ、皆が面食らった顔をした。

が、紫月は真剣に帝斗を見つめた。