蒼の国回想編-Dead or Alive Recollection/Free- |
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こうして倫周と麗が愛し合うようになった頃、このところのあまりの麗の明るい様子にまわりの人々は
少々戸惑いながらもそれぞれの思いを胸にしていた。
それはある日の公園で、久し振りに僚一の家族と麗の家族とでピクニックに出掛けたときの
ことであった。
広い芝生の上で楽しそうにボールを追い掛ける僚一と麗、そして息子たちの姿を遠目に見ながら
美枝と佐知子はおしゃべりをしていた。いつものようにたわいのない会話がふっと途切れたとき。
少し寂しそうな瞳で麗を追い掛けるように視線を送りながら美枝は言った。
「ホントに楽しそう・・・
ふふ・・麗ってね、本当に倫周のことが可愛くて仕方ないのよ。」
「え・・?」
「だっていつもそう、私のことなんか触りもしないくせにああして倫周のことになると夢中になって・・・」
「美枝ちゃん・・・」
少し切なそうに心配そうな顔をした佐知子を気使うように
「でもいいの。私、今はとっても幸せだから・・・
あのね佐知子、麗がNYから帰って来た頃、私たち地獄だったのよ。ほんの一年離れてただけなのに
すごく大きな溝が出来ちゃったみたいでね。もう会話なんて全然無くって。すごく気まずかった。
帰って来ても私を抱こうともしない麗が怖いくらいだったわ・・・ホントにもう死にたいとか思ったことも
あったの。でもね、こっち(香港)に来て倫周が生まれて、ああやって麗が倫周を可愛がってくれるなんて
思いもしなかった・・・子供つくろうって言われたときなんか、もうこのまま死んじゃってもいいと思った位よ。
でも生まれてみたら麗はあんなに子供を可愛がって。すごく明るくなって。倫周のお陰で会話も
増えたし・・・今なんか毎日一緒に寝るのよ、麗と倫周・・・すごく仲よくって、時々焼けちゃうくらい・・・
でもいいの、あの頃に比べたら私、嘘みたいに穏やかでいられるもの・・・だから今は幸せなのよ・・・・」
そんなことを言う美枝に佐知子は少し辛そうな切ない瞳を向けた。
「美枝ちゃん・・・
私もそうよ・・・同じ。僚一がNYから帰って来たとき、やっぱり同じだった。なんかすごく会話がぎくしゃく
してて。私がこんなに焦がれて待ってたのに僚一の方はそうでもなくってね。よく喧嘩になってた・・・
私も気が強いから・・・ふふ、毎日何か言い争いしてたな。で、すぐに香港行きが決まった時にね、
すごいうれしそうな顔したのよ?何かそんな態度見てたら私と離れるのがうれしい、みたいにとれちゃって
悔しいから一緒に行くって言ってやったの。そうしたら慌てちゃってさ・・・ふふ、、
だからウチも一緒。美枝ちゃんとこと同じよ。」
「そうなの・・・なんかこの稼業の人って難しいヒト多いのかしらね?」
「そうね、きっとそうだよ!だからオトコ連中に負けないでこれからもがんばっていこうよね?
何てったって女は私たち2人だけなんだからっ・・・ねっ!」
「うふふ、、、そうね。」
2人は微笑んで。
遠くに瞳をやるとまだ4人のオトコ連中は無邪気にボールを追いかけていた。
それから少しして僚一の妻、佐知子が久し振りに日本の実家に里帰りすることになった。
特にこれといった用事があるわけではなかったが、香港に来て以来もう7年以上も会っていない
両親に会うのと、やはりたまには祖国の空気を吸いたいといったような懐かしい気持ちとで
一週間程帰国することになったのだった。
それを聞いて美枝も自分の両親が心配になったのか、思えば7年以上も会っていないことに
佐知子と共に里帰りをすることになった。
「ね、倫くんも一緒に行こう。おじいちゃんとおばあちゃんに会えるわよ。それに日本は倫くんの
国だもん、一度行って見ようよ。ママと一緒に行こう。」
美枝は当然倫周は自分に付いて来るものだと思ってそう言ったのだけれど。
だが意外にも倫周は家でパパとお留守番をしている、と言ったのである。
麗のシャツの裾にぎゅうっとつかまりながら半分隠れるようにして頑なに倫周は言った。
「倫くん行かないよ・・・パパとお家にいるもん・・・・」
そのあまりにも強情な様子に美枝は半ば呆れながらも少々済まなさそうに麗に留守を
頼んで出掛けることを決めたのだった。
「じゃあごめんなさい麗。すぐに帰るから・・・倫くん、パパの言うことよ〜く聴くのよ。
お仕事の邪魔しちゃだめよ?」
「うん、大丈夫。ちゃんと言うこと聴くもん。」
「そう、いい子ね。じゃ、麗・・お願いね。」
「ああ、ゆっくりしておいで。」
そう言いながら麗と倫周はにこやかに微笑んだ。
佐知子のところも又、息子の遼二が同じようにパパとお留守番している、と言ったらしいので
この女性たち2人は久し振りに独身気分に戻って一週間の旅を楽しむこととなったのである。 |
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