蒼の国回想編-Dead or Alive Recollection/泥- |
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「ねえ麗、今日は一緒に買い物に行ってくれる?」
小さな声で心細気にそう尋ねた、柊 美枝は一年振りの夫との再会以来ギクシャクとしたその関係に
心を痛めていた。
新婚で、それも一年も離れていたのに関わらず、胸を高鳴らせて久し振りに再会した夫はまるで
魂の抜けたような表情をしていた。
自分はこの再会の日をあれ程までに待ち焦がれていたのに夫の方はそんな様子は微塵も見られずに。
帰国して以来、もうひと月にもなろうというのに一度も自分に触れようとしない夫のどこか遠くを
見ているような瞳に美枝の心も又張り裂けそうに痛んでいた。
「買い物・・?いいよ・・・」
瞳を合わせようともしないで乾いた言葉だけがそう言った、そんな様子に美枝は激しく首を振ると
「いいわ、、、やっぱり私独りで行くからっ、、、」
「ああ・・・そう・・・?」
ぼうっと窓辺に腰掛けながら又も気の無いような返事を麗はした。
そんな麗を喜ばせる良報が届いたのはそれから間もなくしてのことだった。
ある麻薬密売組織を追って香港へ飛べ、とのその知らせに久し振りに麗の瞳は輝いた。
もうそれは別人のようにうれしくてうれしくて仕方ないといった感じで。
帰国して以来、美枝との会話の中で笑うこともなくなっていた柊家の食卓に久し振りの明るい
会話が戻ってきて。
「ねっ美枝、悪いな。又留守番頼むようになるけどさっ、宜しくなっ!」
だがそんな態度も言葉も全てが美枝の心を傷付けて。
浮かれた麗の心に一瞬にして翳りが落ちるのはそう遠いことではなかった。
うす曇りの新宿御園を歩きながら重たい声で麗は言った。
「なあ僚・・・俺さ、お前に言わなきゃならねえことがあって・・・・」
香港行きを一週間後に控えて暗い口調で麗は言った。
「今回さ、美枝も来るっていうんだ香港・・・・ちょっと長い滞在になるだろうからって言ったらさ・・・
ふっ・・可笑しいよな、あいつ外出んのなんか嫌いなくせにさ・・こんなときばっかり・・・・」
麗の瞳は重たくて今にも崩れてしまいそうな位切なく揺れていた。
俺も、、、、
「・・・・・・え?」
「俺もそう、佐知子、一緒に行きたいって言い出して、、、、危ねえからやめろって言ったんだが。」
僚一と麗の瞳が重なり合って。
ときがとまった・・・・・・・・・・・・ |
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