蒼の国回想編-Dead or Alive Recollection/Degrade-
その日、麗は珍しく息子の倫周と共に眠りに付こうとしていた。

昼間のお漏らしのこともあってか少々不安そうな倫周を慰めながら一緒に眠ってやろうと

やさしい思いでベッドに入った麗は少しうとうととしかけたところで隣りの倫周が小さな肩を

震わせていることに気が付いた。

「倫くん?どうしたんだ?眠れないのかい?」

掛け布団にぎゅっとしがみ付きながらかたかたと震える肩に手を掛けると重なり合った大きな瞳からは

ぽろぽろと涙が零れていた。

「なっ・・どうしたの倫くん?又お漏らししちゃったか・・?」

ぶんぶんと倫周は首を横に振って。

「ち・・がうの・・・寝るのが怖いの・・・・またおしっこ、出ちゃったらどうしよ・・・って思ったら・・・・

怖くて寝れないんだ・・・」

そう言って震える。小さな身体が本当に愛しくて、どうしようもないくらい可愛くて。

麗はぎゅうっと幼い倫周の身体を抱き締めた。

「パパ・・・?」

「倫くん、平気。大丈夫だよ。パパがこうしていてあげたら倫くんはもう怖くないだろ?

それにもしも倫くんがおしっこしちゃってもパパは絶対怒ったりなんかしないよ。

だから安心してお眠り。ねっ?ほらこうしてずっと抱いていてあげるから。」

とびきりやさしくそう言って。

「パパ・・・パパぁ・・・・」

「そうそう、いい子だね、倫くん。」

ふいと瞳を細めて。

腕の中の幼い息子が可愛くて仕方なかった。それに「ママには絶対内緒」と言った自らの言葉でさえ

何となく男同士の約束事のようでそんなことがとてもうれしく感じられて。

ああやっぱり子供つくってホントによかった・・・

麗がそんな甘い思いに浸っていたとき。

「パパぁ・・好き・・・パパが大好き・・・・・」

そう言って自分の胸にしがみ付いてくる愛しい息子の綺麗な紅の唇にふいと一瞬瞳がとまった。





倫くん・・・・・・・?





倫周は軽く瞳を閉じながら可愛い紅の唇をくいと突き出すようにして麗の方を向きながら小さな掌は

ぎゅっと胸元にしがみ付いていた。

無論幼い倫周にそんな欲望などあるはずも無かったのだが、それはほんの一瞬の出来事、

まるで探していなかったパズルのピースが偶然にもぴたりとはまってしまったような運命的な

瞬間だった。

僅かに差し出されたような倫周の小さな紅の唇に、引き寄せられるようにくちつ゛けてしまった。

それが麗と倫周にとっての慟哭の始まりであった。

麗にとって体験したことも無いような甘い感覚。まだ唇の皮と肌の境目がわからないくらいのそれは滑らかで

やわらかい不思議な感覚。新鮮なその感覚はこのところの重苦しかった麗の心を一瞬にして虜にしてしまった。





「パっ・・パパっ・・・・?」

少々慌てるように発せられた倫周の短い呼びかけさえも耳に入らない程に麗は新鮮なその感覚に

夢中になってしまい・・・



「倫、倫くん・・・ああ倫っ・・・・」



縋るように奪うようにくちつ゛けた。

それはもう小さな唇だけに留まらずに、麗の唇は次第に幼い頬に移動し、そして瞳にくちつ゛けて

更にはまだやわらかい首筋にまで及んでいって・・・

「やっ・・・やだっ・・パパっ・・・嫌っ・・・・!」



嫌だあぁっ・・・・



突然に頬を引っ掛かれて、麗は慌てたように我に返った。



はっ・・・・



「あ・・・あぁごめん・・・倫くん・・?ごめん、ごめんね?パパが悪かった・・・」

かなり動揺しながらもなだめるように謝った。けれども倫周には酷くショックだったようで

大声をあげて泣き始まってしまった。

うわあぁ・・・んっ・・・・・

「わっ・・倫っ・・・倫くん、ごめんっ悪かった、パパが悪かったよ、なっ、なっ・・・

ほらもうしないから泣かないで・・・お願いだよ倫くん・・・・」

すぐ隣りの部屋で食事の後片付けをしていた美枝にばれたらどうしよう、と麗はものすごく焦ってしまい、

だが当然の如く倫周は泣き止んでくれる筈もなく・・・

ほとほと困り果てて麗は必死で幼い息子をなだめていた。

「倫、倫くんごめんね、ごめん・・・でもねパパは倫くんを愛しているんだ。だからチュウしたんだよ?

ね、こんなことするの倫くんだけなんだから・・ママにもしたことないんだから・・・」

麗は必死になだめの言葉を繰り返した。





「ほ・・んと・・・?ホントに倫くんだけ・・?パパはママよりも倫くんが好きなの・・・?」

そう言って泣き止んだ息子にほうっと胸を撫で下ろし。

「そ、そう・・そうなんだ。ホントだよ。パパはね倫くんがいちばん好き。この世でいちばん愛してるよ。

パパには倫くんがいちばん大切なんだからっ」

「ほんとに・・・」

「うん、ほんとほんと・・・倫くんだけ!」

倫周は頬に溢れた涙を擦りながら大きな潤んだ瞳で麗を見つめるときゅっと唇を噛み締めるように

しながら言った。

「じゃあ・・・いいよ・・・・じゃあチュウしてもいい・・・・倫くんもパパのこと好きだもん・・・・」

「倫くん・・・・」

「ほんとに・・・いいよ。チュウしていい・・・・」

そう言って唇を突き出した。





倫っ・・・・・・・・・・・!





麗はもうどうしようもない気持ちに駆られてしまい。

それは幼いながらにそんなことを言った倫周が可愛くて仕方ないといった気持ちや、食べちゃいたいと

思うくらい愛しい気持ちが入り混じったような感覚。普通の親になら誰しもが同じように持ち合わせて

いるそんな感覚が麗の全身をおし包み・・・

震える唇でもう一度くちつ゛けた。

軽く、やさしく、愛しさを差し出すようにしながらくちつ゛けた。



「う・・・っ・・んっ・・・・パパ・・・パパ・・・・パっ・・・・・・・・・・・」

かくかくと慣れない行為に小さな肩を震わせながらも倫周はそれでも必死に目を瞑ってそのキスを

受け入れていた。自分がいちばんだと言ってくれた父親の言葉を大切に暖めるようにぎゅうと

目を瞑り続けて。





「好き・・好きだよ・・・倫・・・愛してるよ・・・お前だけ、お前だけ・・・・パパにはお前しかいないっ・・・」





「パパ・・・・・!」