Christmas Night 2003
ミスター・バーテンダー・・・・

何時の日かそう呼ばれるようになりてーよなぁ・・・

それまで一緒にがんばろうぜ!

バーテンダーを目指す者なら誰もが憧れるその称号、ミスター・バーテンダー

俺とお前が共に夢見て目指したものだ。

やわらかな巻き毛を色白の頬に揺らしながら、ダウンライトに褐色の瞳が照らし出されれば

女たちは決まってその容姿に心を乱される。

お前がシェイカーを振ればそのカクテルを口にする前からほろ酔いを誘われて、今宵もまたカウンターには

うっとりとお前を見つめる瞳がいくつ・・・・・?

肘をつき、溜息を漏らし、頬を染める。

そんな女たちがこの瞳に映し出されるたびに俺の心は締め付けられて、、、どうしようもない感情に駆られる、、、

紫月−−−−

ただひとりの俺の相棒。

学生時代からずっと一緒で、同じ夢をも目指していて、住んでる部屋も一緒。

仕事も・・・・・

対置するカウンターの中にいつもその姿を映してる。

そして毎度同じような感情が俺を締め付けるのも心地よくさえ感じられるようになったのはこの頃・・・・





仕事が終ると俺は疲れて、、、、

けれどもお前は必ずシェイカーを振る。

閉店後のその時間に、客の為にではなく今度は自分の為に振るんだ。

何時の日か、作り出したいと夢見ている世界にたったひとつのその酒に巡りあう為に重ねられる努力にさえ

嫉妬してしまう俺って何なんだろうっていつも思う。

お前が一生懸命努力して、仕事の後で疲れているのに必死で編み出そうとしているカクテルにさえ

焦がれる程の妬きもちが痛くって・・・・・





そうして疲れ果てて部屋に帰って来たお前は必ずこうしてソファーに身を沈める。

ほうーっと深く息を吸い込んで、気に入りのジタンを3くちも吸い込めば気がついたときには深い眠りに

ついている。そんなお前が愛しくて・・・・・・

俺はいつもその脇に腰掛けて、こうしてお前のすべてを見下ろしているんだ。

形のいい唇、やわらかな巻き毛、長い睫毛、、、、

そのすべてが心を締め付ける、、、、

ふと気を許せば、ひとつ残らず奪い取ってしまいそうで、怖くなるんだ、、、、



紫月−−−−

お前はこんな俺の気持ちになんかこれっぽっちも気付いていないのだろう?

そういう俺も心のうちをお前に伝えることなど出来ないでいるけれど・・・・・







今夜も又カウンターでシェイカーを振るお前はいつにも増して忙しそうで。

だってそうだ、今日はクリスマスだもんな、、、、

心なしか胸の疼きがいつもより少ない気がして店内を見渡せば、ああそうなんだと納得がいった。

クリスマスで賑わう今宵は恋人だらけで・・・・

だから感じないんだ。

いつもの視線、女たちがうっとりとお前を見詰めるアノ視線が今宵はまったくオーラが無くって

そんな光景に気付いたとき、俺はひとり微笑んでいた。

今日は誰も紫月を見てる奴はいない、、、、そう思ったらうれしくて。

お前を見詰めてるのは俺だけだから。

今宵のお前は俺だけのもののような気がして、、、、



こんなに忙しくても、いつもより疲れていても、変わらずにお前は自分の為にシェイカーを振る時間を

諦めはしない・・・・

真面目に夢に向かって突っ走ってる・・・・

だから疲れもひとしおなんだぜ?

忙しかった今日くらい、ゆっくり休めばいいのに無理するから・・・・・

こんなに疲れてお前はいつにもなくぐっすりと眠り込んでしまってる・・・・

もうダメだぜ紫月・・・・

こんなお前見たら俺だって我慢の限界・・・・

無防備な寝顔、

肌蹴たままのシャツもそのままに眠り込んじまって・・・・・

何されたって文句なんか言えねえぜ・・・・





「紫、、、月、、」

そっと形のいい唇に指を這わせれば我慢が出来なくなって、、、、そのまま自分の唇を押し付けた。

触れてしまえばそこから先はこんなにも簡単に堰を切ってしまうのかと正直怖くなるくらいで。

想像してたよりもやわらかな唇の感覚と、夢うつつに何かされているのを感じるのだろうか?

無意識に紫月が身を捩る。

その度に漏れ出す吐息ごと呑み込んでしまいたくって、、、、



「紫月、、、、紫っ、、、、、、」

頬が熱を持ってくる・・・・

触れ合わせるだけでは満足できない俺の欲望がどんどん渦を巻いて巨大になって。

「好きだ、、、、紫月、、、、っ、、お前が、、、、、好きだぜ、、、、、」

「う・・・・・・んっ・・・・・・」

寝返りを打つたびに不自由そうに繭を顰めながら眠ってるお前の、

肌蹴たシャツの下から見え隠れしてるもの・・・・

まるで蒼白く光る真珠のような滑らかな肌に俺が愛した証をつけてしまいたい・・・・・

咲き零れるような胸元の花びらを絡め取って色白の肩先に紅い痕を残したならその先は−−−−−





◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇






「んっ・・・・・・・?遼二・・・・・・?」

「紫月、、、、、、」

「何っ・・・!?・・・?」



え・・・・・・・・!!?



「遼二っ・・・・・てっめえー何してやがるっ・・・・」

「黙れよ、、、、、ちょっと静かにしてろ、、、」

自分の肌蹴たシャツと開きかけたズボンのファスナー、そんな様を確認して紫月は慌てたように

俺の髪の毛を掴んだ。

「おい遼二ーっ・・・・てめえ俺に何しやがったっ!?

ひっ、人が寝てる間にヘンなことしてんじゃねーよっ・・・・」

がばりと起き上がると褐色の瞳を大きく見開きながらそう言った。

「うるせー、、、そんな格好で無防備に寝こけたお前がいけねえんだぜ?

急になんか俺、とまれねえ、、、」

「ばかやろうっ・・・・・ふざけてねえでっ・・・・どけよバカッ・・・・」

「やだね、どかねえぜ、、、それにお前だって、、、、ほら、ココ、、、、

満更でもねえみてーじゃん?寝てても本能には逆らえねえってか?」

散々に舐めつくされた胸元の花びらは硬く尖って絡めた唾液でぬらぬらと光り、

ふと触れられた身体の中心は存在を増し始めた熱いものが張り詰めていた。

「バカッ・・・・てめえのせいだろうがっ・・・・・いつからこんなっ・・」

紫月は驚き呆れたようにそう怒鳴って・・・・けれども瞬時に染まった頬の熱を俺は見逃さなかった。



「俺、お前が欲しいんだ紫月、、、、ずっと、、、もうずっと前から、、、、、お前のことが、、、、」

「なっ・・・に言って・・・・・っ」

「それに、、、、お前だって嫌じゃねえだろ?」

「ばかやろうっ・・・・ワケわかんねえこと言ってねえでっ・・・・遼二っ・・・いい加減にっ・・・」

うだうだと同じようなことを繰り返している紫月の身体を奪い取るように抱き締めた。

きつくきつく抱き締めて・・・・・



「だってそうだろ?こんなクリスマスの晩に独りでいるなんて、、、

何処にも出掛けねえで、お前に寄ってくる女だって片っ端から振り払ってよ?

何で此処にいる?この部屋に、、、、俺と一緒のリビングに、、、、

寝るんだったら自分のベッドへ行けばいいのに、、、、わざわざ此処で寝る必要なんかねえじゃねえか?」

「ばっ・・・・・それはっ・・・疲れてっから寝ちまっただけで・・・・っ・・・」

「本当はっ、、、」

「え・・・・?」

「本当はお前もこんなふうになりてえって望んでたんじゃねえか?俺と、、、、

だから、、、、、」

「ばかっ・・・・違うって・・・・何をっ・・・・遼二っ・・・・・!」

「うるせーよ紫月、、、、少し、、、黙ってろ、、、、

黙って俺に、、、、、、」



溺れちまえよっ、、、、、



「よ・・・せ・・・・遼二・・・・」



あっ・・・・・・・・・・・・・



もぞもぞと身を捩る自分より僅かに華奢な身体を抱き締めて、さっきの続き。

青真珠のようなお前の肌に俺を刻み付けてみる。

キスをして、舌を絡めて、尖りかけた乳首を吸い込めば、、、、

お前の分身は硬く天をめざしていた。



「はっ・・・・・・や、やだっ・・・・遼二・・・っ・・・・よせって・・・・・・」



けれども抗うそんな言葉とは裏腹に紫月の身体は最高に登りつめているようで。



「素直になれよ、紫月、、、、」

「・・・くっ・・・・・・・・・・・・・・」

「素直になって、、、、、」



溶け合おう、、、、、



「っ・・・ああっ・・・・・遼二っ・・・・・遼っ・・・・!」

好きだよ紫月、、、誰よりも。

何よりもお前だけが、、、

お前こそが俺の夢だ、、、、、

お前こそが俺の−−−−−

ミスター・バーテンダーだ、、、、、





「ばか遼二っ・・・・・何でこんなっ・・・・・・

こんなことしたかったわけじゃねえのに・・・・・っ・・・・」

「え、、、、、、?」

漏れ出す吐息と共に混じった嬌声に俺は耳を疑った。

「黙っていようと思ったのにっ・・・・・・・・」

「、、、、、、、、、?」

「いつか・・・・っ・・・・いつかお前と一緒にあの称号を手にするときまでっ・・・・・・

ずっと・・・・この胸にしまっておこうと・・・思ったの・・に・・・・・」

とぎれとぎれに囁かれる紫月の言葉の意味がすぐには解らなくって。そのまま俺は腰を揺らし続けた。

ゆるやかにお前のすべてを確認するように揺らして−−−−



好きだったんだ・・・・遼二・・・・・お前のことが・・・・・

俺もお前のことだけを見てきた・・・・・

対置するカウンターの中で女たちに微笑みながらシェイカーを振るお前のことをずっと・・・・・






「ずっと・・・もうずっと・・・・・お前が思うよりもずっとずっと前から・・・・」






好きだったよ遼二−−−−






信じられないようなその言葉は幻なのか、、、

気がつけば無言のまま俺に揺らされているお前の姿が映り込んで、、、、



甘くとろけるような舌先の感覚が肌をなぞる・・・・

ゆるやかに秘めやかに、けれども酷く熱くって・・・・・

漏れ出す吐息が、

時折混じる嬌声が、

俺の欲望を暴走させるようで・・・・・

こんなときがくるなんて

お前とひとつになれるこの瞬間

夢のような・・・・・





何時の日かそう呼ばれるようになりてーよなぁ・・・・・

ミスター・バーテンダー

皆が憧れ夢見るその称号よりも、

俺が手に入れたいと夢見ていたのはお前の肌だ、、、、

シェイカーを振るこの指先を、

女たちを夢中にさせるその甘い顔立ちを、

存在するお前のすべてを奪い取りたいと夢見てきた、、、、

紫月−−−−

俺のすべて

何よりも、誰よりも、俺の心を締め付けて放さない唯ひとりの。

そんな夢を今腕に抱いているというのか?

本当に俺のものに?

だとしたら今日は本当に神が舞い降りた日に他ならない−−−−

神聖なるこの夜に心からの想いを込めて

Merry Christmas・・・・・・・!







◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・◇







「うっ、、、、、アタマ痛ってぇー、、、、、」

降り注ぐ夕陽が憎らしい程に眩しく瞳に映り込んで、ふと目をやればテーブルの上にリカーの瓶が

空に近くなっていた。

側にはグラスが2つと煙草の吸殻を乗せた灰皿と、やはり空になって握り潰された煙草の箱が

無造作に置かれていて・・・・

ソファーの上に寝転んだ俺の肩先にはブランケットとクッションが2つ・・・・

静か過ぎる違和感に辺りを探すように目をやれば、見慣れたリビングに俺はひとりだった。



紫月、、、、?



昨夜散々愛し合って溶け合った愛しいお前の姿はなくって

何が何だかわからねー・・・

紫月は何処へ行ったのだろう?

俺はどうしてこんなトコで寝ているんだろう?

ぼうっとそんなことを考えながらふと腕に目をやれば、その針の差す時刻に飛び上がった。

「やべっ、、、、もうこんな時間っ!?遅刻しちまうーっ、、、、」

支度を整えて店に入れば向かいのいつもカウンターにお前は居た。

今宵も又目の前に、その華麗な姿にうっとりと頬を染める女たちをずらりと並べて。

そんな姿を瞳にした瞬間に途端に湧き上がる嫉妬の感情に俺は苦笑してしまう・・・・

昨夜お前は俺の腕の中にいた

熱く、甘く、燃えて・・・・

今お前を見詰めているその女たちの誰よりも近くにお前を感じていて・・・・

あの瞬間、確かにお前は俺だけのものだったけれど。

けれども同時に一つの疑問が浮かび上がる−−−−

あれは本当に現実だったのかと、、、、

だってそうじゃないか?

あまりにも出来すぎてないか?

紫月が自分から俺を求めたなんてこうして正気に戻ってみれば信じられねえことだぜ。

じゃあやっぱり夢だったのか?

考えれば考える程解らなくなった。

もしかしたら夢だったのかも・・・・

一夜限りの夢−−−−

クリスマスの甘いプレゼント。

夢だったとしても・・・・

あんな幸せな夜は無かったから、

どんなものより欲しかったものだから、

夢でもいい・・・・・

紫月、お前を腕に抱いて見た夢を俺は忘れない

来年のクリスマスまできっと覚えておくさ・・・・・







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ふと寂しげに黒曜石のような瞳を翳らせた瞬間に、対置するカウンターの向こうから褐色の瞳が

自分を見詰めてはくすりと微笑んでいたことを、気付かないまま遼二はいつものようにシェイカーを手に取った。








                                          〜FIN〜