触発の扉
愛し、愛されてると思ってたヒトの知らない一面を垣間見たとしたら?

そしてそれが想像を絶するような残酷なものだったとしたら?

一枚の扉の向こうに聞いたあなたの言葉が俺を傷つけて・・・・・

壊した−−−−−







大好きなヒトの指先が背筋を撫でるこの瞬間が好き・・・・・

ゆるくやさしく、繰り返し行き来していたその動きがふいとまわり込んで胸元の花びらを捉えれば、

耐え切れずに小さな叫び声が漏れた。





「ん・・・・・ふっ・・・・・・・・・・帝斗・・・・っ」





形のいい指先の感覚は目にしなくても感じてとれる−−−−−

軽やかだった撫で方が早さを増す頃、花びらは尖り、まるで見えない蜜液が分泌しているかの如く

湿り気を伴っていた。





「くふふ、、、、倫周、、、、もう湿ってきた、、、、、

ちょっと弄っただけなのにいやらしいな、お前の乳首は。」

僅かな笑みと共に低い声がそう囁きながら耳元を舐め上げられて欲望は最高潮に達した。

「くはっ・・・・・・・・ああ・・・・・・んっ・・・・・・帝斗ー・・・・っ」

「何だよ、、、、?そんなにいいか?いやらしい声出して。この、、、、淫乱、、、、、!」

「あ・・・・・・っん・・・・・だって・・・・・・だっ・・・・・・・・・て・・・」





ああ・・・・・・もっと・・・・・・もっと・・・・・・して・・・・・

何してもいいよ・・・・・・

どんなことでも・・・・・

この瞬間にどうなってしまっていいと思う。

いつもそう思う。

大好きな帝斗に抱かれるこの瞬間が、ずっと終らなければいい・・・っ・・・・





囁かれる言葉は甘くやさしく俺を満たす。

軽く這う指先も、熱く絡まる舌先も、次第に激しくなる肌と肌との触れ合いも、

すべてが欲しくて、失くしたくなくて。

なのに・・・・・・

それなのにこんな仕打ちって無いだろう・・・・・・・・?

あまりにも酷いその会話が俺の中の甘やかな想いを一瞬で打ち砕いたその午後−−−−−











「知ってるぜ帝斗。お前、最近浮気してるだろ?」

低いハスキーボイスが溜息混じりに扉の向こうでそう囁いた。

「ふふふふ・・・・・浮気だって?倫周のことだろ?」

「倫周っていうのか?お前のオモチャ、、、、」

「オモチャ?

くふふふ・・・・そう・・・・・まさにそう言う言葉がぴったりだね。

そう・・・・僕のオモチャさ、倫周は。」

「へえ?随分じゃねえか帝斗。はっきり浮気を認めるなんてよ?

俺を怒らせたいわけ?」

「違うよ。」

「じゃあ何でそんなヤツを相手にしてる?お前には俺がいるのにさ?

それとも俺じゃ満足出来ねえ?」

「それも違う。」

「じゃ何だよ?」

「だってさ、あいつエロいんだよ。」

「エロい?」

「そう・・・・・すごい感度よくってね、たまらないの。

ちょっと触れてやるだけでもうどろどろ。だから苛め甲斐があるんだよ。すごく楽しめる。」

「へえ、、、、?どんなふうに?」

逸る吐息と共にそんな会話を交わしながら、合間に唇を奪い合うような濡れた音が時折耳に痛かった。

信じられず、気に入らず、勇気を振り絞って覗いた扉のその奥に目の前が真っ白になるような光景が

広がっていた。





ヘーゼル色の髪をした見知らぬ男に抱き竦められて、自分のものだと思っていた唯ひとりの人が微笑んでいた。

きゅっと顰められた眉が次の行為を促し待ち望み、微笑まれたその表情は欲望を愉しんでいるのを

示唆しているようで。

男の唇が首筋を捉えて、

男の指先が肩先を撫でて、

男の舌先が鎖骨を這えば、

愛する帝斗の唇からは聞きたくもない嬌声が漏れだした。

「ば・・・・か・・・・・・紫月・・・・・・・・そんなことしたら・・・・・もう・・・・」

「待てねえだろ?」

「あ・・・・・・・ふっ・・・・・・」

「俺が欲しくてたまんねえだろ?」

「ああ・・・・・そう・・・・・・欲しいよ・・・・・・」

「欲しい?

ふふふ、、、、、挿れて欲しい?それとも舐めて欲しい?」

「あは・・・・・・・どっちも・・・・・・・」

絡み合う2つのシルエットが途方も無い程の嫌悪感を生み出して、それは次第に激しい嫉妬と憎しみの

気持ちへと変わっていった。

何故あんな男と・・・・・?

あれは誰?帝斗の何?

めらめらと燃え上がる激情に心臓の中心をぐちゃぐちゃに掻き乱されて、周りなどもう見えなかった。

ともすれば今すぐにでもこの扉を叩き開けて帝斗を奪い返したい。

我が物顔で愛する人を好き放題にしているこの男を殴り飛ばしてやりたい。

いいや、殴るだけでは気が済まない・・・・・・いっそのこと・・・・・・・

そんな妄想が頭の中を駆け巡る自身の耳がふいと拾ったひとこと、自分の名を口にした男の声で

倫周は はっと我に返った。



「倫周ってヤツともこんなことするのか?」

相も変わらずべたべたと愛撫らしき行為を繰り返しながら男がそう尋ねる。

「こんな・・・こと・・・・・?あ・・・はは・・・・するよ、勿論・・・・・・・」

そして帝斗も又、嬌声交じりでそんな返答を返すのが聞えた。

「するよ・・・・こんなこと・・・より・・・・もっとすごいこと・・・・・」

「もっとすごいことー?、、、、、って何だよそれ?」

「ふ・・・・ふふ・・・・・使うんだよ、オモチャ・・・・・」

「オモチャー?」

「オ・ト・ナのオモチャ・・・・・・・」

「はっ、、、ばかばかしいっ!お前ってそういう趣味だったわけ?」

「ばっか・・・・倫周が初めてさ・・・・・あいつホントにいやらしくってさぁー・・・・すごいんだよ・・・・

アレ、挿れてやるともうぐちゃぐちゃ。乱れちゃって手が付けらんないくらい・・・・・」

「そんなに?」

「そう・・・・・あーゆーのをさ・・・・淫乱っていうんだよー・・・・・あっ・・・・・紫っ・・・月そこいい・・・・」

「ヘンタイ!お前だって変わんねーじゃん?こんなに反応じちゃってよー、、、、、あ、、、俺もう

我慢出来ねーぜ、、、、そろそろさ、、、、」

「ああ・・・いいよ・・・・挿れて・・・・・・」





「くっ、、、そ、、、、畜生っ、、、、すげえ締まるっ、、、、、

帝斗、、、、お前今日すげーよ、、、、まさか倫周ってヤツのこととか想像してたりする?」

「え・・・・・・・?」

「そいつのこと考えながらだといつもよか感じちゃうわけだ?」

「べ、別に・・・・・そんなこと考えてなんか・・・・ない・・・・よ・・・」

「嘘付け、、、、、こんなに濡らしやがって、、、、、これじゃ、、、、お前もそいつに負けじ劣らじってトコだぜ?」

「ば・・・か・・・・・・・紫月だって・・・・・・いつもより・・・・・・」

「何だよ、、、、、、」

「いつもより・・・・・大・・・きい・・・・・・・気がする・・・・・・!」

「ふっ、、、、ん、、、、だってよ、、、、お前がオトナのオモチャとか言うから、、、、

俺も最高潮だぜ、、、、ヘンな想像しちまった、、、、、なあ帝斗さあ、、、、今度、、、」

「今度?」

「そいつ貸してくれよ?お前の倫周、、、、」

「ふふふ・・・・好きだなぁー紫月も・・・・・

いいよ貸してあげる。何してもいいよ。あいつホントにエロいからヘンタイ的なことしてやれば

してやるだけ喜ぶよきっと・・・・・いっそのこと・・・・・」

「いっそのこと、、、、?」

「2人でしちゃおうか?」

「俺とお前で?」

「そう・・・・犯しちゃうの。」

「はっ、、、、やべえんじゃねえの?そーゆーのは。輪姦しちゃうってこと?」

「ふ・・・ふふ・・・・いやらしい言い方するなよ・・・・・その気になってきちゃう・・・・・・」

「あ、、、ああ、、、、俺も、、、、何だかすげえ楽しみンなってきた、、、、、」

「じゃあさ、監禁とかしちゃう?」

「監禁?」

「そう・・・・捉えて裸にして此処の地下にでも縛りつけて置くの。で、心ゆくまで嬲っちゃう。」

「信じらんねえ、、、、帝斗、お前ってそーゆー奴だっけ?そこまでいくと危ねえぜ?」

「でも興味あるだろ?それにさ・・・・・ホントはあいつもそんなふうに望んでるかも知れないし?」

「ああー?望んでるー?」

「そう、意外と苛めてくれるの期待してたりしてさ?だってホントにすごいんだ倫周って。

僕が挿れてやるときだって自分から四つん這いになって腰使うんだぜ?

お陰でこっちは楽して気持ちよくなれる。

とにかく一度見てみれば解るさ。あいつがどんなに淫乱かってことがさ。」

「へえ、、、、そいつは楽しみ、、、、、」



「あ・・・っ・・・・・紫月・・・・・もう・・・・」

「俺、、、、、も、、、、、、、、っ」





頂点を向かえ、汗が飛び散り、天を仰ぐ2人のシルエットが真っ白になった瞳の中に溶け込んだ。

信じられない・・・・・・・

愛していたのに・・・・・

好きだからこそ、愛しているからこそ、抱かれれば気持ちよくて安心して欲望を解放してこれたと

いうのに・・・・・・

そんなふうに思っていただなんて・・・・・・

帝斗が自分をそんなふうに見ていたなんて・・・・・・

甘い囁きも、やさしい愛撫も、激しく求められたことも、みんな嘘だったというのか?

帝斗にとって自分はただの欲望解放の為の玩具に過ぎなかったと?

そんな・・・・・酷い・・・・・・・





床が歪み、立っているのがやっとだった倫周の傷心の心を打ち砕くひと言が帝斗の口から

漏れ出したのはそれから間もなくのことだった。





「愛してるよ紫月・・・・僕にはあなただけだ・・・・・・・

倫周なんて所詮はマスターベーションの代わりに過ぎない・・・・・

ふふふふ・・・・・・自分でやるよりはマシだろう?

淫らで、浅はかで、幼稚な、僕の玩具・・・・・

これからは2人で分け合おう・・・・・・」





その言葉を耳にしたとき、傷心に揺れていた倫周の魂は一瞬で形を失くした。

まるで強風に煽られて姿を替えた砂の城のように、跡には臓腑を引き裂かれるような哀しみの

感情が触発し、いつしかそれは憎しみの感情へととって替わった。

愛する者に裏切られた衝撃は大き過ぎて・・・・・・

いや、裏切られたのではない・・・・

最初から・・・・

愛されてなどなかったのだという事実を突きつけられただけで・・・・・

知り得なかった他人というものの恐ろしさを手中にしたとき、

驚愕に震える美しい瞳の中にはゆらゆらと漂う蒼白い触発の炎が燃えていた。








                                              〜FIN〜