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「一緒にって・・・だって紫月や帝斗はどうする・・・」
そう言い掛けると遼二はぐっと繭を吊り上げながら少々乱暴に言い放った。
「あいつらのことなんかどうだっていいだろ!?お前にあんな酷いことを平気でさせてきたような
連中のことなんかっ、、、どうだっていいよっ、、、、
あんなことっ、、俺は絶対に許さねえぜ。お前もヒトがいいのもいい加減にして、、、
これからは自分のことだけ考えりゃいいんだよ。俺と一緒に行こう、、、幸せにしてやるから、、、
あいつらと一緒にいるよりずっとまともな生活させてやっからよ。
な?だから一緒に行こう。俺と一緒に、、、、」
「で・・でも・・・・・」
「いいから来いよっ!」
そう言って手を引かれ、大通りに出て遼二はタクシーを拾うと、そのまま何処かへと行き先を告げた。
倫周は過ぎ行く景色をはらはらと眺めながら心配そうな表情をして・・・・
「何処へ行くんだよ?なあ、遼二・・・・」
「ふふ、、、大丈夫。そんな心配そうな顔すんなって。」
にっこりと笑みと共に余裕のある遼二の様子を横目に走る車のスピードを感じて、倫周は益々
不安になっていくのを感じていた。
窓の外を飛んでいく景色が確実にテント小屋から離れて行くのを認識させて・・・
紫月・・・・帝斗・・・・・・
倫周は過ぎ行く景色をぼうっと瞳に映しながら先程からの信じがたい様々なことを
思い返していた。
客に強姦されそうになって、この遼二に助けられて、そして紫月と帝斗が駆け付けて来て、
言い争いになって・・・・
そして今自分は遼二の隣りで車に乗って、何処へ向かっているのかも解らずに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう・・・
倫周には未だに起こっている現実が受け止められないでいた。
思い浮かぶのは後にしたテント小屋のこと、永年住み慣れたボロアパートのこと。
そして紫月と帝斗の顔が浮かんで・・・・
自分を見送って立ち尽くしていた2人の顔が鮮明に思い出されて・・・・
紫月・・・・帝斗・・・・・・・
ただ黙って俺を見送ってた・・・・
行くなって、待てって、そんな言葉も無いままにただ黙って立ち尽くして・・・・
どうして・・・・・?
どうして引き留めてくれなかったんだ・・・っ・・・・・・
俺が遼二に連れられて走り出したとき・・・・
何度も振り返ったのに・・・
何度も名前を呼んだのに・・・・
2人はただ黙って立ってるだけだった・・・・
紫月・・・っ・・
帝斗・・・・
このままもう会えないの?
俺なんか何処かに行ってしまったって構わないの?
どうして何も言ってくれなかったんだ・・・っ
やっぱり俺は皆んなにとってそれだけの存在でしかなかったのか?
居ても居なくてもどっちでもいい・・っ・・・存在でしか・・・っ
どうしてこんなことになっちゃったんだ・・・・っ
どうして・・・・っ・・
短い間に起こったほんの些細な出来事がまるで今までの自分をすっかり変えてしまうようで
倫周は足元が竦むような思いに駆られながら帝斗と紫月のことを思い返しては自然と涙が滲んでくるのを
感じていた。
嫌だこんなの・・・
帰りたい・・こんな・・・・・
だけど・・・・
会って間もない遼二と、如何に危ないところを助けられたとはいえ2人だけで車に乗って、それは
まるで駆け落ちのようにも感じられて倫周はどうしようもなく不安な気持ちに駆られていった。
細い肩を震わせて、ぎゅっと瞳を閉じて、小さな声ですすり泣く、、、
そんな様子に気付いたのか、遼二はふいと倫周を抱き寄せると
「大丈夫。絶対に悪いようにはしねえよ。お前を、、、、必ず幸せにしてやっから、、、、
俺を信じろよ。もう、、、、泣くなよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
けれども、そんなやさしい言葉にも益々涙は溢れるばかりで、、、、
「倫周、着いたぜ。」
そう言われてはっと我に返り、見上げた先には立派な構えの大きな門がそびえ立っていて・・・
「何・・・ここ・・・・」
「ここ、俺の家。」
「え・・・!?」
それは驚く程の立派な造りの、見るからに金持ちといった豪華な屋敷だった。
「俺の家って・・・・・」
「うん、ここ、、、俺の家なんだ。今日からここに一緒に住もう、何にも心配はいらねえよ。」
「で、でも・・・・・」
あまりに驚いて涙もすっかりとまってしまった倫周の大きな瞳を見詰めながら、ふいと微笑むと
遼二はやさしくマロン色の髪を撫でた。
「俺さ、、、あそこにバイト行ってよかったぜ。だって、、、
こうしてお前に会えたんだからさ、、、、お前に会えて、、よかった、、、、、
俺は、、、、」
お前が好きだよ倫周・・・・
それは聞き違いだったのか。
生暖かい夜風が頬を掠めた瞬間に雲間から輝き出した月の光に照らされて、ぐいと自分を抱き寄せた
逞しい腕の中で倫周は大きな瞳を見開いた。
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