有り付けなかったモーニング |
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「ふざけんなって、、、!誰がこんな狭いトコに7人も座れるってんだよっ!?
しかも大のオトコが揃いも揃ってよー、、、、」
徹夜で喫茶室の棚卸し作業を終えて朝食を食べに寄ったファミリーレストランで、若手ウェイターの遼二が
ふてくされた声をあげた。
「しゃーねえーっしょ?団体席ココしかねえんだからー」
ぽんぽんとなだめるように肩を叩きながら同じくウェイター仲間の紅月がポケットから煙草を取り出している。
「あ゛〜、文句言ってねえで早く詰めろよー。いい加減座って休みてぇー」
新入りの剛が情けない声を出せば、
「同じく〜〜〜」
古株の白夜が剛に抱きつきながら寄り掛かる。
そんな所へ後から来た紫月が
「あ、俺 便所行ってくる!」
そう言って荷物だけ置くと、
「あ〜、俺も〜。待ってよ紫月ィ〜」
紫月の双子である紅月は銜えていた煙草を慌てて消すと、彼の後を追い掛けて行った。
「けっ、気持ち悪ィ双子!イイ歳こいて連れションかよ?」
2人を遠目に追い掛けながら未だふてくされている遼二の様子に、喫茶室の責任者でもある帝斗は
にっこりと品よく微笑み掛けると、
「まあまあ、いいじゃないか。それより早く座れよ、何か頼もう。腹減っちゃった僕〜・・・」
うれしそうにメニューをめくる様子を尻目に呆れ顔で遼二も席に着いた。
(こいつも充分ヘンだぜ、三十路前だっつーのに『僕』だって!気持ち悪ィ〜の!)
ぶつぶつと遼二はそんなことを口籠りながら、それでも仕方なくメニューを開いたりしていた。
「しっかし狭えなー、やっぱ席、別っこでもいいんじゃねえーの?」
自販機で煙草を買い終えた剛が戻って来てはそんなことを言っている。
化粧室に行った紅月紫月の双子が戻り全員が揃うと、帝斗はにっこりと微笑みながら皆を見渡した。
「大丈夫、もう少し詰められるから^^」
そう言うと隣りに腰掛けていた常連客の倫周の肩に手を回し、くいと自分の側へと引き寄せた。
「わっ・・・・帝斗・・・何っ!?」
慌てる倫周に帝斗は又も慈愛の微笑を向けると、
「倫は細いから僕の膝の上に半分乗って?そうすれば少しは広くなるだろう?」
にこにこと満面の笑みの中に見え見えの下心を察知して、皆はいっせいに呆れ顔で肩を竦めて見せた。
「やっ・・・・やだぁー・・・帝斗・・・・こんなの恥ずかしいよー・・・・・」
もじもじと身を捩る倫周の頬はほんのりと紅く染まっている。
「ちぇ〜、役得でやんの、帝斗さん」
ドリンクバーのストローを振り回しながら剛が口を尖らせれば
「てめえっ、ヘンなことしたらただじゃおかねえからなっ!」
不機嫌の最高潮といった調子で遼二が繭を吊り上げた。
この喫茶室の連中はいつもこんな感じである。
女顔の華奢な常連客、倫周を囲んでは絶えずこうして仲間同士で競り合っているわけで・・・・
誰とデートだの食事だのと倫周は毎日のように誰かしらに連れまわされていたが、ひとつ問題を抱えていた。
それはとってもヤバイこと・・・・
もともと男世帯の上に揃いも揃って異性に興味の薄い連中ばかりが集まってしまったこのウェイターたちに
とって女顔の倫周は云わばステディの代名詞のようなものであった。
つまりはデートとなれば当然えっちはつきもので、中には只の快楽に遊びと割り切れる者もいたが、
ヤリタイ盛りの連中にとってはえっちの回数をも賭けて彼を独占したいという思いの強い者ばかりだったから、
この倫周をめぐっての争い事は日常茶飯事だったというわけである。
そこへもって来て当の倫周がこれまた欲求が淡白な品行方正というわけではなかったから、
事態はよりややこしかった。
日毎に替わる相手をものともせずに爆発的絶倫フェロモンをぶち撒いてのデート三昧、エロ三昧。
貞操観念とか罪悪感とかを持ち合わせていない性質なのか、素直に誰とでも没頭出来る健康優良児であった為、
ウェイター連中も又、オトコの名誉を賭けてのドタバタ勝負と相成るわけである。
傍から見れば子供の喧嘩か犬の小便のかけ合いといったふうだろうか、エロを賭けての猿山のボス争いは
耐えることなく勃発というのがお決まりのパターンだった。
そんなふうにしてエロエロステディなこの常連客を巡っての些細な争いは今日も又繰り返される。
「げーっ、やらしいなあ、帝斗ったら倫のケツに手まわしてるー」
案の定、膝に抱えるようにしていた倫周の太股辺りを撫で回す帝斗の仕草を隣りの席にいた紅月が
見つけると大声をあげてその有様を暴露した。
と途端に遼二が立ち上がって怒鳴りつけ、側にいた白夜はうるさいと耳を塞ぐ。
紫月は素知らぬ振りでメニューを選んでいるし、新入りの剛はきょろきょろと行く末を興味有り気に伺いながら
煙草を吹かす。血の気の多い遼二が開口一番、本日の争いの火蓋を切って落とした。
「てっめぇー、ヘンなことしたらただ置かねえって言ったろうがっ、このエロオヤジっ!」
「うっるせーなあー、もちっと静かにやってくれよー」
「そうー、帝斗も帝斗だぜ、大人げねーの。何もこんなファミレスなんかでケツ撫でなくたってさぁ〜」
「お前らオーダー決まったのかよ?」
「あ、俺ドリンク持って来る」
「あー、んじゃ俺のも頼むー。コーヒーね〜」
「ざけんな、てめえ、んなモンてめえで行けよ」
「ケッチくせー、だからモテねえんだって!」
「誰がモテねえってよ!?」
「あーもう、ケンカなら外でやれよ、バカ」
「バカとは何だよっ、クソ白夜ー!」
「何だ てめえー、誰がクソだってよー!?」
「わあ〜った!分かりましたー。俺取って来ますからー!皆さん座っててくださいよ(^^;)」
「おー、気がきくじゃね〜?新人クン。んじゃあ〜、俺コーヒーね〜」
「あ〜、俺メロンソ〜ダ」
「はいー、紅月さんコーヒーで遼二さんがメロンソーダっすね?白夜さんは何がいいッスか?」
「んー、俺、かるぴす」
「ぶはっ・・・・・・!」
「んだよーっ、汚ねえなーっ!何噴いてんだバカ双子!」
「俺の弟に向かってバカはねーだろっ!謝れよークソバカ遼二!」
「だってこいつが急に噴くからよーっ、一張羅にかかっちまったじゃねーかよー!」
「ご、ごめっ・・・・・・」
ごほごほっ・・・ケホッ・・・・・・
「だって白夜が ”かるぴす” とか言うからつい・・・」
「あ〜っ、紫月さ〜ん、もしかや〜らしいコトとか想像しました〜?」
「ち、違うってよ・・・ゲホッ、コホッ」
「大丈夫か〜、紫月ィ〜?ほらぁ背中叩いてやるな。可哀そうに〜」
「ん、サンキュ紅ー・・・」
「はっ、バカバカしいっ!」
「はい〜、じゃあコーヒーにメロンソーダにかるぴすでいいっスね?」
「んー、よろぴくぅ〜」
「おわーっ・・・・・・!!!」
「んだよっ、、帝斗っうるせー」
(・ ・) (・ ・) (・ ・)
「で、出ちゃうって・・・もう、かるぴすっ・・・」
「はあーっ!!!?????」
「り、倫がっ・・・」
「ああ・・・・んっ・・・・だって・・も・・・・我慢・・・出来な・・・・・っ」
「ちょ、ちょ、ちょっとっ!待て待て待てーっ!こんなトコで出すなーーー倫っ( ̄[] ̄;)!ホエー!!」
「ひゃあああ〜〜〜〜!!!!!」
「あぁぁっ〜〜〜〜んっ・・・・・・んっ・・・んっーーーーー」
(・ ・) (・ ・) (・ ・)
「てっ、てめえーっ、倫に何しやがったっ!??」
「うわぁぁー、バカバカッ!おしぼりっ、おしぼりよこせって早くっ!」
「うぉりゃぁぁぁあああーーーーっ、何したんだこのエロオヤジーッ!」
大焦りする帝斗と大騒ぎの一同を横目に見ながら冷めた顔で白夜は言った。
「こんなトコでちんこなんか弄るからだバーカ」
「ちっ、ちん、っ、、、ってお前っ!」
「マジでンなことしやがったのかっ!?帝斗ーっ!?」
「だ、だって・・・倫が・・・・・・」
「ああ〜〜〜ん、帝斗ぉ〜〜〜・・・・」
「だってじゃねえーこのウマシカやろうっー!!!!」
「ヘンタイッ、ドスケベーッ、エロオヤジーーーッ」
「うるせー・・・な」
大騒ぎの連中に埋もれながらうっとうしそうに耳を塞ぐ白夜の側で、ブチ切れ顔の店長が額に十文字を
浮かべて立っていた。
「すみません・・・お客様・・・申し訳ないんですが・・・・・・」
出て行っていただけませんでしょうか(-゛-メ)
「え゛・・・・・・・・・・・・・( ̄ー ̄)?」
燦々と昇り来る太陽に照らされながら、今日もまた喫茶室の前途多難な一日が始まりを告げるのであった。
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