春宵淫ら |
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春の宵風を心地好く感じながら倫周はプロダクション社長の粟津帝斗と臨海公園の遊歩道を歩いていた。
今日は珍しく外でデートだなどと洒落込んでいる。
いつもならばプロダクションの地下室で、専務である一之宮紫月を混じえて排他的で淫らな秘密のときを
過ごしているのが通常というのに・・・
その専務の紫月の姿も今日は無かった。
そして、普段ならプロダクションにいるときでもキッチリとスーツを決め込んでいる帝斗の格好も今宵は随分とラフだ。
木綿のシャツの襟にネクタイは無く、かなりの深い位置にまで外されたボタンが視線のやり場を泳がせる。
しかもあまりしているのを見たことのない派手めのアクセサリーまでが肌蹴た胸元にぶら下がっていて、
そんなふうに普段からはおよそ想像できない雰囲気に倫周はフワフワと足元が浮いているような感じさえしていた。
「な、倫。アレ乗ろうか?紫月さんとの待ち合わせまでまだ時間が余ってるし」
そう言ってクイと向けられた顎先を見上げれば宵の空に溶け込みそうに観覧車がそびえていた。
◇ ◇ ◇
「すごーい・・・・・・俺、観覧車って初めて乗った・・・・・・うはぁ・・・何かヘンな気分・・・目が回りそうー」
大きな瞳を目いっぱい見開いてキョロキョロと眼下の街並みを見下ろしている、
そんな様子に帝斗はクスリと瞳を細めていた。
先程までの蒼い宵の空に墨色が深くなるのは早く、まばゆいくらいの街の灯りを携えた地平線のすぐ上には
東の空から顔を出したばかりの巨大な朧月が妖艶さをかもし出していた。
一通りの感動が治まると倫周は目の前に座っている帝斗に今宵の予定と疑問を投げ掛けた。
「ねぇ帝斗ー、今日は珍しいんだね?外出なんて滅多にないのに・・・それに紫月と待ち合わせって、
紫月まだ仕事なのかな?後で合流するの?」
一生懸命な感じの問い掛けに帝斗は又もクスッと笑みを漏らすと、
「ふふ、そうー。紫月さんはちょっと外せない仕事があってね、後でこの近くのホテルで待ち合わせさ。
でもいいだろ?たまにはこういうのも・・・さ?
ちょっとデート気分で新鮮だろうが?」
軽く脚を組んでやわらかな笑みを浮かべながらチラリと悪戯そうに見つめられて倫周は思わず頬を染めた。
何だかやっぱりいつもと雰囲気が違う気がする・・・
余裕の微笑といい、流し目といい、それに言葉使いのふしぶしまでがいつもの帝斗ではないような錯覚に陥らせる。
何故だろう?
どちらかといえば穏やかでやさしい雰囲気の帝斗が妙に男らしく、というか男臭く感じられて
そんな違和感にも自然と胸が早くなるのを感じていた。
雰囲気に呑まれるようにふと目をやった先に肌蹴た胸元の白さが脳裏に焼きついて、心拍数は更に加速していった。
そういえば帝斗と二人っきりで何処かへ出掛けるなんて初めてなのかも知れない。
高鳴る心臓の音を気づかれまいと視線をそらせて街並みを見下ろせば、観覧車の密室がその狭さを
より一層強調して感じさせた。
横目に感じる帝斗の視線が気になって仕方ない---
何となく自分をじっと見つめているようにも感じられる---
格別には会話のネタもないことに気づく---
突然に襲い来た窮屈な感覚に倫周は呼吸さえも苦しくなるのを感じ始めていた。
あれ・・・この匂い・・・・・・?
未だ視線を帝斗の方へと向き直れないまま、ふと掠めた慣れた香りにピクリと鼻をならした。
嗅ぎ慣れた帝斗の香水の香りだ。
プロダクションのベッドの中で抱かれるときに感じる香り、
間違いない、この香りだ。
いつもは紫月もいて半ば強引に盛り上げるので特には気に掛けたことのなかった香り。
だがこうして狭い空間に2人きりでいると異様な程に鼻につく、
そうと気づいたら何だかむせかえるくらいにその香りを感じるようで次第にゾワゾワと背筋を這い上がってくる
むずがゆい感覚に倫周は火がついたように頬の染まるのを感じていた。
「ああ、少し暑いな。窓開かないのかい、ココ?」
ククイと窓の淵を確かめながら身を捩った帝斗の膝がコツリと当たって倫周はビクリと腰を浮かせた。
懸命に閂(かんぬき)のあちこちを調べているふうな様子に機会を得て、やっとのことで帝斗へと視線を向けられたのも
束の間、その仕草のひとつひとつが更なる心拍数の増加を煽ってしまうようだった。
ボタンが上から4つも外されたシャツが酷な程だ。
鎖骨のくぼみに喉が鳴る・・・
サラリと額に掛かる髪はやわらかで、質感までもがリアルに伝わってくるようだ・・・
気づけば熱く存在を増した自身の身体の変化に倫周は慌てて上着の裾で覆い隠した。
ヤダ・・・どうしよ・・・・・・ヤバイよこんなとこで・・・・・・
下を見ればまだまだ着地点が程遠いことを思い知らされた。
時間にしてあとどのくらいなのか?
一周するのに20分くらいなどと誰かに聞いたことがある。
観覧車に乗ってからまだ3分と経ってはいないだろう、
そんなことを考えながらパンパンに膨らみを増してしまった厄介物を必死でなだめようと深呼吸をしてみたけれど
そんな思惑はかえって焼け石に水であった。
ああそうだ、
だが冷静になってよくよく考えてみれば帝斗の方からムードに乗って誘ってくれるかも知れない。
いや、そうだ。
そうに違いない。
もうちょっとしたら帝斗からエロティックな誘いがあってもおかしくはない。
むしろそれが当然だろう。
いつもだってずっとそうしているのだし、そうなればしめたもので誘いに乗って自然と欲情したようにも見せ掛けられる。
これは好都合だとばかりに倫周はしばしおとなしく自身の股間をなだめながら帝斗からの誘いを待つことにした。
「ああ、おかしいな、開かないじゃないかい?この窓・・・壊れてるのか?
それとも元から開かないように出来てるとか?」
だがしかしブツブツと首を傾げながら延々と窓いじりをやめそうもない。
あっちを向いたりこっちに首をひねったり、はたまた下から覗き込んだりする度に肌蹴た胸元がチラチラと
視界をよぎっては、股間の熱も冷めやらぬといったところだった。
それどころか動く度に揺れるネックレスが素肌を撫でるのが妙に色気を伴ってはっきり言って目の毒といったらこの上ない。
パサリと髪が揺れるごとにむせかえる香水が目眩をも誘う・・・
極めつけはあれこれ試しても一向に開かない窓に業を煮やして帝斗がしゃがみ込んだ拍子に
シャツからすっぽりと胸板が覗き、倫周は思わず小さな悲鳴のようなものをあげてしまった。
当然の如く目に入った胸板の突起に鼻の奥がチクリと痛み、鼻血でも出たのかと慌てて上を向いたくらいだ。
「ああ嫌だね、開かないみたいだよコレ、
せっかくお前に直で街の景色を見せてやろうと思ったのにねえ・・・残念だよ」
軽い諦めの溜息と共にようやく窓弄りをやめた帝斗の言葉にもすぐには反応出来ない程に倫周の欲望は
のぼりつめていた。
ああ・・・早く・・・・・・帝斗・・・そろそろ俺を誘ってよ・・・・・・
こっちの席に来てくれるかな?それとも俺を自分の側に引き寄せるのか?
どっちでもいいから・・・何でもいいから早くして・・・・・・
もう張り裂けそうだよ・・・・・・ってココが・・・・・・!
自身の股間をまだ上着の裾で覆い隠しながら倫周は必死に心の中でそう叫んでいた。
ああ・・・もう限界・・・・・・ッ
早く早く・・・とにかく早く・・・・・・
触れ合いたい・・・・・・目の前の肌蹴た胸元に抱えられたい・・・・・・
そして多分やさしげに撫でるようなキスをして・・・
帝斗ってキスめちゃめちゃ上手いんだよー・・・それだけで気が遠くなるもん、いつも。
そしたらその後は・・・・・・帝斗のちょっと冷たい指先が俺の上着の中へ
進入してきて・・・それで・・・・・・その指がスルスルと下へ向かって下りてって・・・・・・
ああ帝斗っ・・・・・・・・・・・もう我慢が出来ないよっ・・・・・・・・・
これ以上張り詰めようのないくらいパンパンに勃ちあがった股間は思春期の如く痛いくらいだった。
じんわりと感じる生温かさは恐らく限界に溢れ出した蜜が下着を濡らしているからだろうか?
帝斗に触れられ撫でられることを想像している胸元の花びらはほころびを通り越しツンツンと固くとがっているのも
ハッキリとわかった。
目の前の帝斗は又脚を組み替えた・・・
既にいやらしい妄想で薄れゆく意識の中で、彼の長い指先が目前に迫ってくるような感じがしていた。
だが最高潮の期待を裏切ってか、帝斗の口から発せられたのは勘違いも甚だしいものであった。
「倫?何だいお前?顔真っ赤じゃないかい?
ああ、やっぱり暑いんだね!どうしよう、窓が開けば少しは楽だよね。待っておいで、もう一度見てみるから!」
真剣な面持ちでそんなことを言っている。
あまりの予測はずれに倫周は一瞬腫れ上がった欲望もすっ飛んでしまうようなショックを受けた。
信じられない・・・・・・!
こんな密室で、しかも珍しくも外でのデート、
春のほろ宵にロマンチックな眼下の風景。
これだけの条件が揃いも揃っていながら帝斗のこの飄々(ひょうひょう)とした態度はどうだ?
いつもはロマンの欠片もない程に即行で押し倒されるというのに、今日に限って欲望の1ミリも見せやしない。
こんなことがあっていいのかと倫周にしてみれば逆に根拠のない怒りが込み上げる程だった。
何なんだよ、帝斗ったら!
どうして今日に限って欲情しないわけー???
マジで何とも思ってないんだろうか?
そもそも何だよ、そういうこと(えっちなこと)がしたくて観覧車なんかに乗ったんじゃないのー?
だってコレ、そーゆーことにはうってつけだろ?恋人同士、誰にも邪魔されずにってさ・・・
それとも純粋に俺に夜景を見せてくれる為だけにコレに乗ったとでもいうのか?
信じられないよ、そんなのー・・・
自分ひとりだけが欲情してしまっているのかと思うと、怒りは更に倍増した。
目の前では相も変わらず閂(かんぬき)を弄りながらまるでこちらには興味もないような男の姿が映り込み・・・
チラチラと肌蹴た胸はわざとじゃないかと思うくらい大胆で、言うまでも無く欲情を煽ってきた。
◇ ◇ ◇
「こっちへおいで倫、キスしてもいいかい?」
色っぽいロウボイスでそう囁かれながら頬を撫でられ遠慮がちに肩に手を回され---
たっぷりと包み込むように唇を重ね合わされた後は発情した雄(オス)の言葉がいやらしく耳元を犯す。
「倫、ほら---」
短い言葉で導かれた先には硬く逸った彼のイチモツが肌触りのいいスーツのズボンを盛り上げている。
「ここじゃ不安定だけど・・・どう?舐めてくれるかい?」
そんな言葉が耳元を掠める頃には自分から跪いて彼の股間に顔を埋めているだろうか、
普段は大人な彼が逸るように自らのファスナーを下ろせば、そこには口中に収まりきらないくらい立派な象徴が・・・!
少し可愛いな、などと余裕の微笑みで咥えれば意外にもあふれ出した蜜の量に背筋をゾクリと欲情が走る。
次第に彼は奉仕する自分の髪を掴みあげるように撫でまわし、きっと天を仰ぐように歯を食いしばるのだろう。
顎が外れるんじゃないかという寸前になって彼が勢いよく自分を突き放したと思ったら、同時に生温かい液が
瞳をめがけて飛んできた。
「わっ・・・・・・!」
額にかかった液体は案外濃いのだろうという感覚が背筋の欲情を促進させる・・・
彼は荒々しく自分を抱きかかえると、少し乱暴に欲望を剥き出しといった感じでズボンのベルトを解いた・・・・・・!
「ああ・・・ん、待って・・・・・・待ってよー・・・・・・」
「うるさいな、何を可愛い子ぶってるんだ。お前だってこんなになってるくせして!
僕のをしゃぶってそんなに感じちゃったのかい?」
息を切らせて意地の悪い言葉で煽ってくる---
こんなときの彼の目つきは別人のようにワルっぽいのだ。
ああ・・・このまま少し乱暴に服を剥かれて意地悪く肌を弄られて・・・そしてアノ大きな凶器で自分を犯すんだ・・・
「ああ、やめてっ・・・・・・嫌ぁ・・・帝斗ぉー・・・・・・」
◇ ◇ ◇
そんな妄想に鼻息を荒げてでもいたのだろうか?
「どうしたんだい倫?風邪なのか?それともひょっとして花粉症かいお前?」
的外れな問い掛けで我に返れば、目の前にくっつきそうなくらい近くに覗き込まれた帝斗の瞳があって、
倫周は思わず仰け反った。
「う・・・わぁーーーーーっ!」
「なっ、何だいそんな大声出して・・・マジでどっか具合でも悪いのか?まさか高所恐怖症とかかい?」
未だくっつく程に顔を寄せ、覗き込みながらそんなことを言っている。
倫周はそんな帝斗の様子に怒り半分、恥ずかしさ半分で色白の頬を真っ赤に染めあげた。
「怖いんなら側へ来るかい?下を見ないように僕に寄り掛かってるといい」
腕を伸ばして抱きかかえてあげるといったような仕草をされて、倫周は思わずブンブンと首を横に振った。
もう的外れに脳みそがブチ切れそうだ。
愛しさ余って何とやらで、目の前できょとんとしている帝斗が憎たらしくさえ思えた。
「な、何でもないってば!こ、高所恐怖症なんかじゃないしッ、俺ッ・・・・・・
それに具合も悪くないからっ・・・・・・」
思わず癪に障ったように飛び出してしまった言葉にもバツの悪い思いがして、倫周はプイと横を向くと、
ブツブツと聞こえるか聞こえないかのような文句を口づさみながら更に頬を染めた。
そんな様子に帝斗はふと何か悪巧みを思いついたようにハッとすると、まだ横を向いたまま膨れっ面をしている
倫周を横目に薄ら笑いを浮かべた。
「ふーん、じゃあ何を怒ってるんだい?僕、何かしたかなぁ?」
ポリポリと顎をかきながらわざとすっとぼけたようにそんなことを言った帝斗の様子に、
「何かしたどころかッ・・・全然しないじゃんっ!さっきから窓なんかいじってばっかでさー・・・
何もしないんなら何でこんなの(観覧車なんか)に乗ったわけよ!??
普段はあんなにえっちなのに・・・今日に限ってッ・・・・・・」
と、怒りのままにとんでもない本心をぶちまけてしまったのだった。
我に返ったときは遅かった---
目の前にはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら余裕たっぷりに脚を組み替えている帝斗の姿が映り込み、
倫周は瞬時に絶句した。
何てこった・・・!
帝斗の口車に乗って本心そのままぶちまけちまうなんて・・・・・・
まるで『さっきから欲情していました』と白状してしまったようにも思えて、
恥ずかしさと半分嵌められたような不本意な感覚に倫周は顔から火を噴きそうになっていた。
「ふうん、もしかしてさっきからずっとそんなこと考えたんだー?えっちだなぁ倫は〜」
舐めるような笑み混じりにそんなことを言われ、倫周はまさに茹蛸(ゆでだこ)状態と化していた。
「で、何考えてたの?もしかしてココでえっちするんだと思った?」
余裕たっぷりにクスリと鼻先で笑った帝斗に倫周は返答さえも出来ずにいた。
悪いことをして先生に説教をされている小学生のような気分だ。
身体は硬直し、頬は熟れて落ちるんじゃないかというくらい真っ赤で熱い。
まさにヘビに睨まれた蛙のような状態だったが、それでも口を尖らせながら気丈に反抗と否定の言葉を言ってのけた。
「だっ、誰が・・・えっち、え、えっちなんてっ・・・・・・嫌だなぁ帝斗ったら・・・俺そんなことちっとも思ってないし・・・・・・」
しどろもどろに言葉は絡み、視線はキョロキョロと眼下をさまよい本当に酔いが回りそうになる。
「じゃあしようか?」
「へ・・・・・・?」
「だからえっち。でもココ揺れるから激しくはムリだな?」
「な、な・・・ななな、何言ってんの急に・・・・・・っ」
「ねえ倫、やっぱりココじゃ狭いし実際にえっちは厳しいよなぁ・・・?」
「だ、だからえっち・・・なんて別にしなくってもいいってば・・・」
「そうね、だから会話セックスにしないか?」
「---はあ!???」
ツラツラとよくしゃべる、と思うくらい呆れる程軽快なノリで帝斗は意外な提案を投げ掛けてきた。
倫周にしてみればこの豹変振りにも面食らい、それより何より『えっち』だの『セックス』だのといった名詞を
恥ずかしげもなく堂々と当たり前のように言ってのける帝斗の大雑把加減にも眉のヒクつく思いだった。
そう、それはまるで食事をするとか眠るとかといったような、いわゆるごく生理的なものと一緒くたといった感覚なのか、
とにかくいとも当たり前のように飄々(ひょうひょう)と恥ずかしい言葉を口にする様子に
何だか大人の図々しさのようなものまで感じられてしまい、倫周はしばし硬直してしまった。
外見は白馬の騎士のようなのに妙に人間くさいというか、もう少しロマンとかムードとかいったものは持ち合わせて
いないのだろうか?と、ちょっと頭にくるくらいでもある。
「なあ、お前したことあるかい?想像のセックスっていうの。
まあ解りやすく言えばテレフォンセックスみたいなものかな?ルールは相手に触れないこと、それだけ。
その代わりベッドの中じゃ言えないくらい恥ずかしい言葉を言い合うんだ。
嵌(はま)るとね〜、結構イケるんだぜ?」
当の帝斗はそんな思惑などそっちのけの様子で既にエロティックモードに入りかけているその様子に
倫周は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、じっと正面から見つめられればその外見(だけ)の麗しさに
ちょっと背筋がゾワリとしてしまい、今度はそんな自分に癪に障るのか少々悔しげに眉を吊り上げる。
けれども耳を撫でる声がいつもよりも僅かに低く、何となく波長が合うのか帝斗が何かを言葉にする度に
ゾクリゾクリと背筋を這う欲望が大きくなっていった。
『普段は恥ずかしくて言えないようなことをわざと言うんだ』という説明の通りに、帝斗から飛び出す言葉が又
若い欲望を満潮にするには充分過ぎる程だった。
「で、さっきは何を考えてたの?なんなら当てて見せようか?
僕がお前をこっちの席に引き寄せて?肩を抱いてキスをするんだろう?
お前はちょっと恥ずかしそうに僕から逃れるような仕草をする。でも僕は逃さない。
もう一度抱き寄せてお前の肩を掴んで拘束して、そして再びキスにトライする」
空を描くように長くしなやかな指先がゼスチャーするさまも視神経を刺激する。
「どんなキス?最初は重ねているだけだった唇を僕の舌で舐めまわしてあげるとお前はそれに逆らえなくって
気が付いたらその可愛い唇は半開きになってる。
僕はそれを見逃さずにもっと深くお前を奪っただろう?
どう?そんなとこだろう?さっきお前が考えてたことって」
「な、なな・・・何・・・・・・言って・・・・・・」
「で、その後どうした?我慢できなくなった僕はお前のシャツのボタンを外して胸の花びらを吸いとるんだろう?
吸うだけ?それともソコも舐めてあげた?
どんなふうに舐めた?
まわりを円を描くように舐めてから中心のとんがりを舌で突っつくの、アレお前好きだよなあ?」
それだけ言われただけでも又ゾワリと背筋に寒気のような快感が走った。
向き合って座っているだけなのに確かにベッドの上よりも心拍数が激増しているのは間違いない。
ドキドキしてしまって呼吸も儘ならないのか鼻息を荒げ、唇も乾きだしているようだ。
目の前でヒクヒクと顔面をひきつらせながらも確実にいやらしい言葉じりに反応している様子を面白可笑しく見つめながら、
帝斗は更に意地悪く言葉を連打していった。
「胸を舐めるうちにだんだんお前も気持ちよくなってくれてときどき可愛い声なんか聞かせてくれちゃったりして?」
言葉に合わせて又長い指先がクルリと円を描いたのを見た途端、倫周は胸元を隠すようにビクリと椅子の上で
跳ね上がってしまった。
「や・・・・・・・・・っん・・・!」
みっともないくらい甘い声までが飛び出す始末にも容赦なく帝斗は先を続ける。
「でもってソレを聞いた僕はもっと我慢できなくなって狭いシートにお前を押し倒すんだ。
腹にもヘソにもキスをしながらズボンを開けばお前の分身が下着の中で硬くなって僕を誘ってる。
窮屈そうだから僕はそれを下着から解放してあげる。
そしたらお前はもうすっかり濡れて光って僕を誘うもんだから、僕はもっと欲情してソレを舐めるんだろ?
どう?そんな想像してたろ?当たりだろ?」
普通ならそんなこと訊かれたって『ハイ、その通りです』なんて答えられるわけがない。
けれどもどちらかいえばへりくだったような言い方が心地好く、つまりは『僕は我慢できなくなって』とか、
『僕はもっと欲情して』とかいったふうな、いわば自分を優位に立たせてくれるようなものの言い方に
何だか心が躍るようでもあって、挙句波長のいいロウボイスにクラクラと脳波を刺激されてか
倫周は思ったままを素直に言葉にしてしまうのだった。
「ち・・・がう・・・・・・帝斗がしてくれたんじゃなくって・・・・・・」
「え?違うのかい?じゃあどうしたの?」
「ん・・・・・・あの・・・俺が・・・・・・帝斗の・・・を舐め・・・舐めて・・・・・・」
モジモジと言いづらそうではあったが頬を染め、俯き加減に言う様が可愛かったのか、
帝斗は更に面白がって若き欲望を煽るように猫撫で声で誘惑を続けた。
「舐めて?---僕のモノをかい?お前が舐めてくれたの?」
「ん・・・・・・」
「そう、うれしいな。それでどうだった?僕のはどんなふうになってた?きっと興奮してたろう?」
「ヤダ・・・な、帝斗ったら・・・・・・・・・そんな・・・興奮だなんて・・・・・・」
「どうして?だって興奮するだろう?お前のその小さい口で僕のを咥えてくれたなんて想像するだけで至極だよ?
どんなふうに舐めてくれたのかな?聞きたいな僕・・・」
興奮、咥える、舐める、下着、硬い、想像するだけで---
そんな単語が耳をくすぐれば、背中を這うように駆け上るゾワリとした感覚がどんどん大きくなっていくのを感じていた。
その後は巧みな帝斗のいやらしい問い掛けに引き出されて、気づけば自分でも信じられないような大胆な言葉を
口にしていた。
たまに耐え切れなくなって嬌声混じりになってしまったり、それを慌てて抑えるのが又可愛いのか
帝斗の意地悪な質問は更に加速する。
仕舞いには自慰を催促されて、さすがにそれだけは恥ずかし過ぎると頬染めながらも抵抗し、じっと耐えた。
本当はすぐにでも弄ってしまいたくて仕方なかったのだけれど・・・
それらの歯がゆさを埋めるかのように益々大胆な発言を交わしては、倫周は狭い観覧車の座席で身を捩っていた。
張り詰めてバクハツ寸前の自分の分身が気の毒な程だ。
ああ、あと何分でこの観覧車は終点に着くのかな?
観覧車を降りたら近くのホテルで紫月と待ち合わせてるとか言ってたっけ?
じゃあその後はいつものように紫月も交えて3人でベッドにダイブインするのだろう。
ベッドの中ではいつもよりも大胆に振舞いたい気がする・・・
帝斗と紫月の2人に攻めたてられることを想像すると、プツリと音を立てて蜜液が分身から溢れ出すのを感じた。
「ん・・・ッ・・・・・・・・・やぁー・・・・・・あっ・・・・・・あっ・・・・・・・・・・・んんーっ・・・!」
椅子の背もたれに身をなすりつけるように仰け反って、ヘンな声を出してしまったことが無性に恥ずかしかった。
けれどもとめられもしなかった。
我慢も限界だ。
狭かろうが揺れようがそんなことはどうでもいいっ・・・・
いい加減意地悪はよして早く触ってくれよ!
歯がゆさのままに倫周は目の前の胸に縋りつくように腕を伸ばし、キスをねだるように唇を差し出しては瞳を閉じた。
「キスして・・・・・・お願い帝斗・・・・・・キスだけでいいから・・・・・して・・・・もうヘンになりそうだよ・・・・」
「我慢できない?もう限界なんだ?何もしてないのにねぇ?」
「だって・・・だって・・・帝斗がすごくいやらしいこと言うから俺・・・・・・」
「いやらしいこと?でも感じちゃっただろ?」
「ん・・・うん・・・・・・・・・だからお願い・・・・・・セックスが無理ならキスだけでいいよ・・・お願い・・・帝斗」
「ふふ、本当にお前ってえっちな子だね。分った、じゃあキスしてあげるよ。その代わりひとつだけ質問してもいい?」
「ん・・・何でもして・・・・・・」
「じゃあ質問。これから近くのホテルで紫月さんと待ち合わせしてるんだけど---
今日は3人でどんなセックスがしたい?正直に言ってご覧?」
「どんな・・・だなんて・・・・・・・・・」
「教えて。どんなふうに”僕ら”に抱かれたい?」
僕ら、という複数語が脳ミソを激震させた。
広いベッドの上、自分はあられもない姿で組み敷かれて・・・
上からは帝斗の硬いモノを咥えさせられて下では自分の張り詰めた分身を紫月に舐めまわされて・・・
我慢できなくなって先に達すれば意地悪で大人な2人はお仕置きだなどと言って、より強引に自分を
攻めたてるのだろう・・・
それらから逃れようと抵抗しても2人は決して解放してなどくれない。
懸命に身を捩ればホテル独特の冷たいシーツの感覚が肌に心地好く、再び湧き上がった欲望に陶酔の極致へと
いざなわれるのだろう。
そんな想像が浮かび上がり、堪らずに倫周は思ったままを口にした。まるで大胆な自分に酔うように・・・・・・
「どんなことを・・・してもいい・・・・・・どんな風にされても・・・いいよ・・・・・・今夜は・・・・・・
紫月と2人で俺をめちゃめちゃにして・・・・・・」
「ホント?ホントにしちゃうぜ?」
「ん・・・・・・して・・・・・・・・めちゃめちゃにされたい・・・・帝斗と紫月に・・・・・・・・思いっきり・・・犯されたい・・・」
◇ ◇ ◇
「だって紫月!聞こえた?」
朦朧とした中にそんな言葉が耳に引っ掛かってぼんやりと瞳を開ければ、自身を抱きかかえながら携帯を小耳に
挟む姿が目に入って、倫周は呆然となった。
まさかと思って硬直し、我に返って見上げた先には携帯を手に満足この上ない笑みを浮かべた帝斗が差し出す
受話器の向こうから聞こえてきたのはそのまさか。
「まったく・・・たまんねえよなぁ、お前らエロ過ぎ!一応運転中なんだぜ俺?カンベンしてよー!」
聞き慣れたハスキーボイスは紫月のものに他ならず---
いつから聞いていたというのだろう?散々に恥ずかしい会話をブチ撒けてしまった今では後の祭りだ。
ようやくと2人の企みに気づいたところで最早とき既に遅しといったことで、まんまと悪巧みにはまった倫周は
大人のいやらしさに面食らったまま、まな板の上の鯉の如く口をパクパクとさせていた。
「お陰ですっかり準備万端だぜ。勃っちまった!ズボンのファスナーに引っ掛かっちまってさー、すげぇの!
待ってろよー倫!お望み通りめちゃめちゃにしてやるから」
受話器の向こうで輪をかけたような恥ずかしいセリフを言ってのける声を聞いた途端に全身から力が抜け落ちて、
倫周は目の前の広い胸にどっさりと崩れ落ちた。
「もうヤダー・・・帝斗のヘンタイッ!紫月のドスケベー・・・・・・ああ〜〜〜〜!!!」
深い溜息の後 そう絶叫し、と同時にうれしそうに電話を切った帝斗の胸元で抱きかかえられながら
それでもこれからのことを考えると背筋を這う若き欲望は未だ冷めやらず。
あと僅かで着地点の観覧車の窓の外をふと見上げれば、春の宵月までもが淫らに笑ったような気がした。
「ふふ、倫。ホテルまではすぐだからね。楽しみにしておいで?」
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