Delirious
「お帰り、待ってたよ」

穏やかな声で優しげに微笑んだ、仕事を終えてプロダクションに帰って来た自分を迎える同じ言葉を聴くようになって

もうどれくらい経つだろう?

デビューして半年、今や人気絶頂のロックバンド”Fairy”のドラムスを担当する柊倫周は、今宵も

仕事を終えるといつもの部屋へ帰って来た。

そう、所属するプロダクションの最上階の右端の部屋の 大きな椅子にゆったりと腰を掛けながら

自分の 帰りを待っている若き社長、粟津帝斗の元へ。





「疲れたろう?今日の生(歌番組)、すごくよかったよ。ここで見てた」

そう言いながら細い肩を包み込むようにして帝斗は倫周を抱き締めた。

「さ、行こうか?」

こっくりと、何も言わずに倫周は頷くと帝斗に促されるままに社長室の奥にある帝斗の私室へと入って行った。





分厚いカーテンに隠された重い扉を開けるとその空間が、ほんの一瞬疲れた神経をぴりりと高揚させる。

これから訪れるその部屋へ通じる狭く四角い空間、地下から上がってくるエレベーターを待っている

この僅かな時間に倫周は決まって足元が歪むような錯覚に陥るのだった。

ピンポン、と品のいい軽やかな音と共にエレベーターの扉が開く。

すっと、ドアが閉まるとまるで身体の真ん中から掬われていくようないつもの感覚が全身を包み込んだ。








いい香りと共に既に湯気が立ち込めている大きな洋風のバスルームの入り口で 倫周は下着を取ると

白いタオルをぎゅっと握り締めた。

「まだ?倫周・・・?早くおいでよ」

湯気の向こうからは甘やかな帝斗の呼ぶ声が広いバスルームに木魂している、僅かにためらう指先が

曇りガラスの扉を開けた瞬間にぐいと強く掴まれて大きな胸元に抱き竦められた。





あっ・・・・・・・





「遅いよ、倫・・・もう待ちくたびれちゃった」

そう言うか言わないうちに帝斗は倫周の唇に軽く自分の唇を重ねた。

ほんの軽く何箇所にもキスをして唇が触れるか触れないかの微妙な距離感を保ちながら帝斗は倫周に囁いた。

「どう?倫・・・・僕の・・・わかるかい?」

ぴったりと身体を合わせられたままぎゅうっと抱き締められてそんなことを囁かれて・・・・

自分よりも背の高い帝斗のそれは倫周の下腹の辺りで僅かに存在感を増していた。



や・・・・・・・・・・・・・・・・っ!



ふいと紅に染めながら下を向いてしまった倫周の やわらかい頬を覗き込むようにしながら帝斗はやさしく微笑んだ。

「可愛い、倫・・・今からきれいにしてあげるからね。そのままにしてて?」

帝斗はスポンジにたっぷりのボディーソープを含ませるときゅっとそれを泡立てた。

まずは腕から、そして肩先へ、そして首筋、背中、太股、ふくらはぎ。

いつもと同じ順番で帝斗の持つスポンジが泡立つ、タイルの床に立ったままの状態で 

倫周は帝斗の されるが儘になっていた。

帝斗は一旦スポンジを放すと今度はボディーソープを掌いっぱいに取りながら くいと腰を屈めた。





「・・・・っあ・・・・」





小さな小さな嬌声が広いバスルームに反射して・・・



「て・・いと・・・いい、そこ・・・自分で洗うから・・・・・や・・・やめ・・て・・・・」

「何で・・?だめだよ、倫は今日歌番組がんばったんだから・・・僕が洗ってあげるよ・・これはね、僕の仕事・・・・!」

「でっ・・・でもっ・・・・・」

「いいの。ちゃんときれいにしてあげるから、ほら動かないでよ?」



・・・っ・・・・・・・



丁寧に包み込むようにたっぷりの泡と共に品のいい手に撫でられて。

がくがくと膝が震える、たまらずに倫周は帝斗の肩につかまるように手を掛けた。





「・・・っあ・・・帝斗・・・もういい・・・もうやめ・・・て・・・」

「うふふ、だめだよもうちょっと、、、、」

「・・・・・・・・・う・・・・・・んっ・・・」

「倫・・・ねえ、ほら大きくなってきたよ?どうしてかなあ・・・?」

「や・・・やだ・・・・・・そんなこと・・・」

帝斗はとてもうれしそうな笑みを浮かべると、たっぷりの泡に包まれて存在感を増した目の前の

熱いものにシャワーの湯を注いだ。







シャワー室から上がると帝斗はそこでも倫周の白い身体を丁寧に拭きながら 髪まで乾かしてやると

真っ白な西洋の人形が着るようなブラウスを差し出した。

「さ、今日はこれを着るんだ」

湯上りの素肌の上にそれを一枚だけ羽織らされると同時に耳元ぎりぎりに囁かれた。

「今日は一番左の部屋だからね?いいかい?僕もすぐ行くから、、、さ、早くお行き?」

「うん・・・」

小さくそう返事をすると倫周はぽつりぽつりと薄暗い長い廊下を歩き出した。







この大きなプロダクションの中のごく僅かの限られた人間しか知らない地下室には立派な造りの部屋が

5つ6つ用意されていて・・・

一番左の部屋、それは中世の城の一室をイメージしたような洋室だった。

この他に平安時代を思わせるような純和風の部屋や、中庭付きの回廊までがある中国風の部屋、

それに避暑地を思わせるような南国風の部屋などそれぞれに凝った造りの部屋がずらりと並んでいた。





言葉少なげに彫りの見事なその扉を開けた瞬間に部屋の奥から又しても自分を待ち焦がれたような

浮き足立った声を倫周は聞いた。





「待ってたよ倫・・・!」





そう言って微笑んだ、見事な程の褐色の瞳の後ろに用意された光景に倫周の大きな瞳は驚きとも

嘆きともつかないような小さな翳りを見せた。





「紫・・月・・・・それ・・・・何・・・・・」





帝斗と同じように逸るような感じで倫周を待っていたのはプロダクションの専務で、実質上のFairyの

プロデュースを手掛けている一之宮紫月であった。

この紫月と帝斗は大学時代からの親友で、このプロダクションを立ち上げたときから今の地位に

するまでをずっと2人で運営してきた、故にその仲は鋼よりも固いと言われていたのだった。






「なんて顔してるんだ?早くここへおいで」

ゆっくりと品のいい仕草で手招きをされて恐る恐る倫周は歩を進めた。

だが紫月の前まで来ると更にはっきりと瞳に焼き付いたその光景に思わずびくりと肩を竦めてしまい。

紫月が軽く脚を組んで腰掛けていた大きな西洋風の天蓋の付いたベッドには 左右からロープのような

ものが括り付けられており、その縄の先には手錠のようなものが取り付けられてあった。



「ここへおいで」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「何してるんだ?早く来なさい」



「あ・・あの・・・・紫月・・・?それ、なに・・・・・?」

びくびくと小さな声が問い掛ける、そんな様子に紫月は軽く微笑むと腰掛けていたベッドから立ち上がって

ぐいと倫周の細い腕を引き寄せた。





「やっ・・・紫月!?」





くすくすと紫月は楽しそうに微笑んで・・・・

帝斗と同じく倫周よりも上背のある紫月の大きな胸にきついくらいに抱き締められて思わず窒息しそうな程苦しくなった。

「う・・・んっ・・・紫月っ・・・・紫っ・・・苦し・・・・」

一生懸命そう訴えたけれどしばらくはそうしたまま何ひとつ自由にさせてもらえず顔さえも動かせなくて。





・・・・あ・・・・嫌・・・くる・・・し・・・・・・い・・





呼吸さえも儘ならず、ようやくと細い身体を抱き締めていた腕が緩められた頃には既に意識は

ぼうっとなってしまっていた。

「うっ・・・・・ぐふっ・・・・・・・」

ごほごほと堰までが止まらなくなって・・・・



「大丈夫かい?倫・・・・」



やさしく甘い、自分を呼ぶ言葉、頭上から自分を見つめる褐色の瞳をはっきりと確認したときには

倫周の細い腕は既に自由を奪われた後だった。







「やっ・・・紫月っ・・・・!?」

がちゃがちゃと手錠に繋がれて完全に自由を奪われた両の手首を動かしながら倫周は叫んだ。

「紫月っ、何これっ・・・・やだ・・こんなの・・・・・・とってよ・・・・」

そんなことを言ったところで外してなんてもらえるわけもなく自分を見下ろす紫月の褐色の瞳はうれしそうに、

そしてとびきり優しげに微笑んでいた。





「愛してるよ倫・・・・今日はね、おまえが耐えられないっていうくらい気持ちいいことしてあげる・・・・

気が狂うくらい・・・・めちゃめちゃにしてあげるよ・・・・・」





・・・・・・・・・・・・・・・・・





ゆったりと甘い声色で紫月はそう囁くと、整った形の細い指先をアンティークドールのような

倫周のブラウスの上に這わせた。

ゆっくりとまるで蚕の繭を扱うかのように緩やかに撫で回されて・・・・



「・・・ぁあ・・・んっ・・・・・・紫っ・・・」



耐え切れずに小さな嬌声が漏れだす、そんな様子に紫月は更にうれしそうに褐色の大きな瞳を細めると、

紅く染まった色白の頬に唇を持っていき、耳元で吐息混じりに囁いた。



「いい声だね倫、どう・・・?気持ちいいかい?」



「・・・・・・ぁっ・・・・」



「ふふふ、、、もうすぐ帝斗も来るからね。そしたらもっとよくしてあげるよ、、、、

もう正気でなんていられないくらい愛してあげるから、、、、」





やだ・・・やめて・・そんなこと平気で言わないで・・・・・・

そんな言葉、聞いてるだけで変になりそうだ・・・・・・





「あ・・・あぁっ・・・・」




がちゃりと重厚な扉の開く音がして。



「紫月さん?ああ、なんだもうお楽しみなの?」

にこやかに、やさしく微笑みながら帝斗が部屋にやって来た。だがこの2人の先程からの一見穏やかそうに

見える微笑みがあまりにも出来過ぎているようで、倫周はいつもそれに怯えていた。

驚愕のような戸惑いの色を濃く映し出した大きな瞳に、紫月は又もくすりと微笑むと帝斗を自分の隣りに呼び寄せた。



「な、今日はどんなことする?お前何かしてみたいことある?」

「そうですね・・・そういう紫月さんは?」

「ふふ、、、そうだな、、折角こうして鎖につないであげたんだから普段はできないようなことがいいかな?」

「普段はできないことって?」



低いトーンの僅かに笑みを帯びたそんな会話を頭上に聞きながら倫周の瞳は益々驚愕の色で翳っていった。



ふと紫月の細い指先がブラウスの胸元に這わされて・・・



「ね、帝斗・・・倫ってさ、ココ敏感だよね?じゃあさ・・ココだけでいけるかどうか賭けない?」

そんな言葉と同時に胸元の突起をくりくりと撫でられた。



「はっ・・・・や・・やだ・・・・・」



くいと繭を顰めた綺麗な顔立ちは瞬時に湧き上がってきた快楽の波にさらわれるように淫らな表情を

浮かび上がらせていて。

「ほら・・・もうこれだもん・・・ぜーったいココだけでいけるって!

ふふふ・・・俺”いける”方に賭けたーっと」

「そんな、、、ずるいですよ。それじゃ僕は”いけない”方しかえらべないじゃない?」

「あはは、、、、そうだな。でもいいじゃん、どっちにしたって楽しいに変わりはないんだからさ?」

「ええ、、、そうですけどね」

2人はふいと微笑みあって。



「じゃ、お楽しみだな?」

それを合図のように紫月の細い指先がブラウス越しに胸元の突起物に這わされた。

緩やかに、じらすように触れられて・・・・・



「あ・・・立ってきた・・・ほら、もうこんなにコリコリしてる・・・・」

「どれ?僕にも触らせて?」



・・・・・・・・・・・!!!



「やっ・・だぁっ・・・・あっ・・・・・・ぁっ・・・・・ぁあ・・・・んっ・・・」



耐え切れずに声が漏れ出す、両方の乳首を2人係りで撫で回されて倫周はたまらずに身を捩った。

繋がれた両の手首が赤く痣になるくらいばたばたと暴れて・・・・

けれども押し寄せる快楽の波はどんどん大きさを増していくようで、うねるように高さを増したそのビッグウェーブに

すっぽりと包まれてしまう頃には自然と腰までが浮いてきてしまっていた。



「見ろよ、、、可愛い、、、こんなに腰持ち上げちゃってさ?無意識に俺たちを求めてるんだ」

「ほんと、どうしようもなく可愛いね。もう倫がいなきゃ楽しめなくなりそうで怖いくらいだよ」

「何で?お前は俺と2人でセックスすんのじゃ物足りないの?」

「そうじゃないですけど・・・だって倫を苛めるのってすごく神秘的なんだもの」

「まあな、わかるけど」

プロダクションで見せる外の顔とはおよそ掛け離れたような品の無い欲望だけのどうでもいいような会話を

楽しそうに繰り返す、だがそんな会話も耳に入らない程に既に倫周の意識は高揚しきっていた。

無意識に淫らに腰を浮かせながら瞳は何かを求めるように天に向けられて・・・・



「あ・・・紫月さん・・・・もういっちゃうんじゃない・・?」

「え、、、、?」



天に向けられた瞳がくっと歪む。

美しい色白の額にはほんのりと汗までが滲み出ていて・・・・



「まじかよ・・・ホントにココだけでいけちゃうわけ?すげえな・・・・・ホントこいつっていやらしいなあ・・・・」

「だから楽しいんでしょ?ほらぁ、意地悪しないでもういかせてあげたら?」

「ん・・・そだな・・・・」



そう言うと紫月は寝そべっていた身体をぐいっと起こし、と同時にひらひらの白いブラウスを勢いよくこじ開けて

真っ白な胸元を露にした。



「すげ・・・相変わらずきれいな・・・こんな桃色しちゃってさあ・・・」

「たまらないでしょ?ふふふふ、、、、」



紫月は既に遠くなっている目の前の美しい身体の意識を引き戻すかのようにその桃色の突起を深く口に含むと、

ぐりぐりと強く舌を這わせて唾液を絡めるように舐め上げた。





「・・ふっ・・・・ぁあぁああ・・・っ・・・」





潰れたような高い嬌声が広いベッドの大きな天蓋に木魂する。

ほんの一瞬で目の前の細い身体は意識を手放した。

ふわふわのブラウスの裾からは乳白色の蜜が流れ出して・・・



「ほんとにいっちゃった・・・・・」

「まじかよ、、、、、」



帝斗と紫月はお互いの顔を見合わせると、同時にくすっと微笑んだ。



「こーんなエッチな奴にはお仕置きしないとなあ・・・・?」

「そうですね」

くすくすと2人は微笑んで・・・



全身から噴出した汗と共にしっとりとした白いブラウスに包まれながら、がっくりと重たい身体は

未だ治まらない荒い吐息に大きく揺れていた。

そうして夏の短い夜が白々としてくる頃まで洋風の重い扉が開かれることはなかった。















「お帰り、今日は2番目の部屋だよ。間違えないでお行き」

いつものように大きなバスルームをあがると今夜はさらさらの絽の浴衣を羽織らされて、

しっかりと帯まで締められて、差し出された高下駄に倫周はそっと白い足を忍ばせた。

そうして歩き出した薄暗い地下室の長い廊下の突き当たりに自分を待つ紫月のいる2番目の部屋の扉が

瞳に入ってくる頃。

廊下を歩く高下駄の足取りが自然と重くなり・・・・

ためらわれるように運ばれたその先は既に逸る心を抑えたような面持ちの、いつもの褐色の瞳の待つ

妖しい香りの漏れ出した和室の入り口だった。







楽しみなんだ、僕たちは。

こうしてお前を愛することが。

愛してるよ。

誰よりも・・・・

だからおいで。

仕事が終わったら、必ず此処へ寄りなさい。

真っ直ぐお家に帰っちゃいけないよ?

必ず此処へ寄って僕らに顔をみせておくれ。

お前の美しいその顔を。

必ず俺たちに見せておくれ。







誰しもが憧れる美しく格好いい男たち、今や業界トップを誇る音楽プロダクション「T−Sプロ」の若き社長 粟津帝斗と、

美しい青真珠のような肌に珍しい褐色の瞳を輝かせて天才とうたわれる若きプロデューサー 一之宮紫月が

今宵も自分を待っている。



仕事が終わったら必ず此処へ寄りなさい・・・・



そう言われたあの日から。

ずっとずっと。

怖いくらいに優しげな笑みを讃えて・・・・