阿修羅の小船
そっと檜の引き戸を滑らせて白い足が鴬張りの廊下を踏みしめる、

脱がれた高下駄は揃えられることもなく無造作に放り出されたままだった。

何の仕切りもないその部屋は窓などあろうはずもないのに薄明りが漏れ出して、まるで月光が差し込んでいるかのような

蒼い闇に包まれていた。

一見、50畳はあろうかという道場のようなその和室の中央に掛けられた御簾の影にゆらりとうごめく妖しげな雰囲気に

倫周の白い足元はほんの一瞬ためらいを見せた。





「立ち止まってないで早くおいで。」





自分の行動のひとつひとつを、その心中までをも知り尽くしているような言葉が御簾の影から囁かれ。

僅かに震える指先が見事な御簾を引き上げた瞬間に、そこに広がる光景に大きな瞳は驚いたように見開かれた。





そこにはまるで異世界のような蒼白い闇の空間が広がっていて・・・

珍しい褐色の瞳がこちらを振り返ると同時に倫周は思わず息を呑んだ。

まるで本物の月明かりが差し込んでいるような格子にもたれ掛かって、墨色の浴衣を羽織った

一之宮紫月の姿が普段とは別人のように感じられて。

自分を振り返る、そんないつもの仕草までもが緩やかに流れるような感覚に囚われるようで・・・





紫・・月・・・・





最初のひと言を発して以来、無言のままただじっと自分を見つめる褐色の瞳に心臓が高鳴ってくるのを感じて

倫周は戸惑った。



なん・・で・・・・紫月にどきどきするなんて・・・・

こんなの、何か変だ・・・・



予期もしなかった突然の感情に乱されながら倫周の色白の頬は僅かに彩を増しているようで。



「思った通りだ。やっぱりお前は着物も似合うね。」

そう言われた声も心なしか色香が漂って感じられ・・・



どきどきと胸が早くなる、いつも自分を呼びつけてはいやらしい行為を繰り返す、この紫月に対して

突然の如く降って湧いたような感情に倫周は翻弄されていくのが解った。





何をされてもいい・・・





そんな感覚が全身を包み込み・・・・





違う、もっと何かをされたい・・・

いつものように、いつも以上にうんといやらしいことをされてみたい、何でもいいから・・・・

どんなことでも・・・・気が違うくらい愛されてみたい・・・・・





瞬時に湧き出した感情は既にもう自制がきかない程にこぼれ出してきていて。

心臓を打つ脈の音が早くなる。

どんどん押し流されるように高鳴って、どきどきという音が がくがくと聞こえる程になって。





「紫月っ・・・・!」





思わず倫周は紫月の胸に飛び込んだ。墨色の浴衣の広い胸元に縋りつくようにして瞳を閉じて、

僅かに着崩れている襟元からは青真珠のような光る肌が見え隠れしている、そんなすべてがたまらなく

意識を高揚させて・・・

倫周は無意識に本能のままを言葉にした。



「何でもいい・・・紫月・・・・ねぇ・・・・・

紫月・・・・何でもいい・・・何してもいいから・・・・・ああお願い・・・っ・・」



すぐ側の墨色の袖が自分を抱き寄せようとした瞬間に、倫周は自分の全てを差し出すように

大きく仰け反ると、絽の着物の胸元を突き出すように紫月に向けた。



紫月・・・あぁ紫月・・・・何でもして、早くこの襟を開いて・・・・

そうしていつもみたいに乳首にキスして・・・・・舐めて・・・撫で回して・・・・・あぁっ・・・

何でもいいからっ・・・・今夜はあなたに何されてもいいって思う・・・

何でもして欲しいって思う・・・・

早く、早く・・いつもみたいにいやらしいことしてよ・・・・・もっともっと・・・気が狂うくらいっ・・・





「お願いっ・・・側にいて・・っ・・・・・」





どっさりと勢いよく青真珠の胸元にもたれ掛かると、浴衣が破けるくらいに強い力で縋りついた。



「何だ、今日は随分積極的なんだな?どうかしたのか?」

そんなふうに頭上で囁かれた言葉でさえ、すべてが意識を高揚させて。





どうしたんだろう、本当に今日は変だよ・・・紫月にめちゃめちゃにされたいなんて・・・

いつもは嫌でたまらない時もあるのにどうして・・・・?

この・・着物のせいだ・・・・・この黒い着物が・・・紫月が紫月じゃないみたいに見せるから・・・・





くっと閉じられた瞳と火照った紅の頬を包み込むようにしながら紫月は言った。





「今日はそんなにしたいんだ?ふふふ、、、うれしいよ倫。もうすぐ帝斗も来るからね、

そしたらうんとエッチなことしてあげるよ。ふふ、、、、

可愛いね倫、ときどきそんな表情するんだよね?お前のそういう顔、大好きだよ。」


「ね、帝斗そっち押さえてて」



そう言われて帝斗は倫周の背中から包み込むように抱き締めるかたちをとりながら、

その両の腕を後ろ手にまとめるように支えあげた。

「うん、そうしてて、、、今日はさ、倫がすごくして欲しいんだって。何だか欲求が激しくってさ、だよな?倫。」

「や・・やだぁ・・・・だって・・だっ・・・・て・・・」

倫周は頬を真っ赤に染めると恥ずかしそうに下を向いてしまった。

「ふふふ、、、ほんとだ、いつもならちょっと嫌そうに抵抗するのにねぇ?こんなに素直だなんてどうしたんだ?」

甘やかにそう囁かれた帝斗の声も今夜はものすごく自分を掻き乱す。

紫月とは相反する生成り色の浴衣姿は先程からの熱い想いに更に拍車をかけたのは言うまでもなく。





純和風の、御簾までが揃えられているこの部屋で、普段とは掛け離れたような異世界の雰囲気が全身を包み込む。

見慣れない着物姿の大人の男の色気が、そんなすべてがすっかりと意識を離脱させてしまっているようで、

普段からは考えもつかない程に倫周はこの帝斗と紫月に心を奪われてしまっているのを感じていた。





少し冷んやりとした紫月の長い指先が着物の裾を分けて忍び込む・・・・

「ほら、脚開いてごらん?」

そう言ってくいっとふくらはぎを持ち上げられた。





・・っ・・・・あっ・・・・・・・・・・





僅かに震えながらも紫月の手に促されるより若干早く脚が開く、自らの意思で倫周は身体を開いては

その全てを目の前の大人の男たちに差し出すかのように瞳を閉じた。



「ほんとに珍しいね、お前が自分から身体を開くなんてさ?ほんとに、、、どうしたんだ?」

そう言いながらすうーっと長い指先が色白な太股に這わされて・・・・

乱れた絽の着物から大きく覗いた太股は僅かに蒼白い闇色を反射して、この上もなく淫らに輝いていた。



「もうこんなに、、、すごいなあ、、、これじゃ痛いくらいだろう?違うか?」

そっと軽く触れられた指先に全身の神経が尖り立つ。

あまりにも高揚し過ぎて、紫月の言うように倫周の熱く逸ったものは痛みを伴う程に登りつめていた。



「待ってろ、今 楽にしてやるから。」

「・・うっ・・・・ぁ・ぁ・・ああぁっ・・・・・」



熱く、最高に登りつめている硬いものを紫月が口に含もうとした瞬間に・・・







「うわっ、すげえなあ、、、、もうこんなにあふれてきてる、、、、ほら見ろよ帝斗、こいつったらもうこんなに濡れちゃって、、、、」

「ああ、ほんとだ・・・うわあ、いやらしいなぁ・・・これって普通こんなに出るもんですかね?」

「さあねぇ、、?何かさ、、、ここまでされるとこっちも正気じゃいられなくなりそうだぜ?

ほんとに、、、失神するまで犯ってみたくなるよな、、、、そう、まさに、、、めちゃくちゃにしてやりたいって、このことだよな?」

「・・・・そうですね・・じゃ、めちゃめちゃにしちゃおうか?」

「ああ、、、、いいね。」







そう合い槌を言った瞬間に、帝斗はにやりと微笑むと押さえていた細い上半身の襟を開いて、勢いよく

まるで引き裂くかのように引き剥がした。





「あぁああぁ・・っ・・・・いやぁ・・・・」





穏やかだった微笑みが次第に鋭さを増していく。やさしく撫で回されていた指先もどんどん乱暴になっていく。

終いには言葉さえもが開放されて・・・



「お前が悪いんだぜ?お前が俺たちを誘うから、、、お前のココがさ、俺たちにいけないことしてって訴えてるからさぁー。

なあ倫?」

「やっ・・・い・・や・・・・嫌ぁ・・・」

「何が、、、?ほんとに嫌なの?ココはそうは言ってないぜ?もっとしてって言ってるぜ?」





・・・・・・・・・・・・・





「ほらぁ、言ってみろよ、もっとして、って。もっともっといやらしいことして欲しいんだろ?

だったら言えよ、ちゃんと言葉で言わないと何にもしてやらねえぜ?」



「・・・・っ・・・・・」



「早く・・・どうして欲しいか言いなさい倫」

後ろからは威厳のある声が服従しろと言わんばかりに煽り立てる、前からは獣のような瞳で視姦されているようで。

だがそんな、普通では逃げたくなるような、普段なら間違っても望まない状況も今宵の倫周にとっては

極上の至福を促す道筋のように思われて。

身体が反応する。言葉までもが無意識に発せられて。







「何・・・してもいい・・・・何してもいいから・・・・もっともっと・・・」



「もっと、何だよ?」



「もっと・・・・・そこ、弄って・・・・お願い・・・」







「ふふふ、、、いいぜ。可愛いなぁ倫、今夜は素直ですげえ可愛いぜお前、、、」

紫月は溶け出した熱いものに舌を這わせると根元から先端へと舐め上げて、もうとろとろに溢れ出している

甘い蜜を吸い取るように舌先で絡め取った。





「う・・・っ・・・・ぁぁあああぁ・・・っ・・・」





くちゅくちゅと淫らな音と共に蒼い闇の中に濃密な香りが充満していく、半ば遠退いた意識のままに

後ろに預けていた背中が急に起こされて・・・





「そんなにいいのか?ふふ・・・じゃあこうしたらもっといいかな?」

後ろ側から腕を拘束していた帝斗のそんな囁きが耳に入ってきたと同時に敏感な胸元に唇を押し当てられた。

生温かくやわらかい舌で舐めまわされて・・・・

「やっ・・・いやいやっ・・・・ぁあああぁ・・っ・」

後ろからは帝斗に支えられながら弱点の胸元を温かい舌先で弄られて、前からは紫月に両脚を拘束されながら

硬く逸ったものを舐めまわされて、倫周は気が違う程にのぼりつめていった。





「・・・・・・・・ぅう・・ん・・・っ・・・ぅんっ・・・・」





もう座ってもいられなくなり、帝斗に寄り掛かっていた身体はずるずると畳の床に崩れ落ち、美しい絽の浴衣は

帯のみを残してすべて肌蹴てしまっていた。

がくがくと身体が震える。開いた脚からはどんどん力が奪われていって。



「やっ・・・紫月っ・・・紫っ・・・だめ・・・・もう・・・」



「紫月ぃ・・・・もう・・・出ちゃうっ・・よ・・・・・ぁあああっ・・・」



「ふふ、、、だめ!まだだめだぜ?もうちょっと我慢しろよ。」

そう言うと紫月は頭上の帝斗にちらりと目配せをして、一瞬にやりと微笑んだ。

そんな様子に帝斗の方もにやりと笑い返して・・・・





「ひっ・・・ぁああっ・・・・やめっ・・・やだ・・やっ・・・あっ・・あっ・・・」





上と下と同時に走った強い刺激にほんの一瞬で倫周は意識を手放した。



「わっ、、、、」



勢いよく飛び散った乳白色の甘い蜜がぺったりと頬に張り付いて紫月は思わず苦笑いをした。

「やってくれるじゃん、、、この俺の顔に飛ばしてくれるなんてさ?ふふ、、、」

紫月は自分の頬に飛んだその蜜を掌ですくい取るとそのまま帝斗の方に大きく腕を伸ばした。

「ほら、見ろよこれ、どう?味見してみる?」

「うふふ・・・いいよ、貸して。」

にやりと微笑むと帝斗はがっくりと自分にもたれ掛かっている熱い身体ごと上体を起こしながら

差し出された紫月の指先に唇を這わせた。

ぺろりと舐めて、大きな褐色の瞳を見つめる。一瞬瞳と瞳が合わさったと同時に更に深く指先を舐めあげて・・・・

帝斗は紫月の瞳から視線を外すことなくぺろぺろと指先に舌を絡めていった。







「何だよ、、、そんな瞳してんなよ、、、」

じっと、誘うような瞳を重ね合わせたまま紫月の指先を舐め上げていた帝斗は、くっと繭を顰めると

ふと紫月の胸元に倒れ込んだ。



「だめ・・・我慢できない・・・紫月・・・・僕も抱いて欲しくなっちゃった・・・」

「何言って、、、倫はどうすんだよ?おいっ、、、帝斗っ、、、!?」

「我慢できない・・・って言ってんだ・・・・」

帝斗は紫月の着物の裾を開くと熱い根元に顔を埋めた。

「紫月・・・ほらぁ・・どんどん成長してくるよ?ね、いいだろ?倫なら大丈夫だよ。しばらくは余韻に浸りきってるさ・・・

だからそのあいだに・・・」

既に大きく存在を増した熱いものをねっとりと舐めあげながら帝斗は紫月を誘う言葉を連射した。





「ちょっとだけ・・・挿れてよ紫月・・・・」

とろけたような瞳をゆったりと預けてくるそんな様子に紫月はくすりと微笑んで。

「ああ、いいぜ。じゃ そっち向けよ、後ろっから挿れてやる、、、」

「紫月・・・うれしいよ・・これ済んだら・・・・又一緒に倫でたのしも・・・う・・・・」

「あ、、ぁああ、、、そうだ、、、な」



慣れた手つきで紫月は自分よりもほんの僅かに細い腰を持ち上げるとぐい、と勢いよく引き寄せた。





「っあ・・・・はっ・・ああっ・・・・紫月っ・・・・」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「紫・・月・・・?てい・・・と・・・・・?」



ようやく意識の戻った声がすぐ側で起こっている匂香を探り当てるように囁かれたとき。

ぱたり、ぱたりという畳に何かの落ちる音と共に闇に浮かび上がった2つの影がゆっくりと離された。



「あぁ・・ちょうどよかったほら、倫が・・・気がついたよ・・・」



まだ荒い吐息を抑えるように帝斗はそう囁いた。

「ほ、、んとだ、グッドタイミング、、、だな、、」

「ふふ・・・よかった・・・これで落ち着いて倫を苛めることに集中できるよ。あのまんまじゃ僕ちょっと辛かったですから・・・・」

そう言いながら身体を起こすと帝斗はにっこりと微笑んだ。

「何言ってんだ、急にやりたくなっちゃったわけ?今日は倫といいお前といい随分積極的だなあ」

額に噴出した汗をすくいながら紫月は又も苦笑いをして見せた。

「だって倫がいけないんですよ。いきなりこんなに淫らな表情見せるから・・・

僕も欲情させられちゃった・・・だからさ、倫にはこの責任をとってもらわないとねぇ?」

「くっ、、、ふふっふ、、、お前も好きだなあ、、、そうやってかこつけて倫を苛めようっての?」

「ああ、わかっちゃいました?じゃ、どうしてあげようか?」





楽しそうに会話する、そんな様子に少々不思議そうな瞳を向けると倫周はきょとんと、2人を見つめた。





「はっ、そんな顔してるとまるでガキだな。なあんも知らないような顔しちゃってさあ、

さっきはすごかったよなあー、じゃ続き始めっか?」

「そうですね、じゃ今度は僕らに奉仕してもらおうかなあ?さっき気持ちよくさせてあげた分」

そう言うと帝斗はぐいっと倫周を引き寄せて頭を押さえつけながら自分の下腹のあたりまで持っていった。





「ほら・・・何するかわかるだろ?早く・・・」





あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・





頭をぎゅっと押さえつけられたまま倫周のまだ少年のようなやわらかい唇が帝斗の熱いものに這わされる、

小さな唇には気の毒な程のそれに必死で舌を絡めていって・・・



「はっ、、、可愛いねえ?こんな一生懸命銜えちゃってさ?どう?気持ちいい帝斗?」

「う〜ん、まあそれなり・・ですかねぇ・・・・ちょっと気合いが足りないかなあ・・・・」

「まじ?じゃ気合い入れてやろっか?」







・・・・・・・・・・!!!







「やだっ・・・紫月っ・・やめて・・・・そんな急にっ・・・・・・・・・・」

「ダイジョブだって!まださっきので濡れてっから、ほら脚開けよ?」

「やだやだぁ・・・ああっ・・・んっ・・・・」

紫月は倫周の後ろ側から抱き締めるように覆いかぶさると何の前触れもないままにいきなり硬く存在を増したものを

突き立てた。

半ば強引にぐりぐりと捻り込むように押し込んで。





「いやああぁぁっ・・・・・」





突然に拘束されてばたばたと暴れる身体をぐいと押さえ付けられて、振り向いた先にはにっこりと

微笑むやさしい瞳が見下ろしていて・・・

「ほらぁ・・顔はこっちだろ?休むんじゃないよ」

穏やかに、にこやかに発せられたのは声だけで、その優しげな様と相反する内容の言葉に

倫周の大きな瞳は驚愕を映し出すが如く急速に憂いていった。

甘く乱されたのはほんの束の間、又いつものように無理強いされる時間が戻ってきて・・・・

着物姿に惑わされたほんの一瞬の甘やかなひとときはそれらを脱ぎ捨てた今、嘘のように取り払われて・・・





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





ああ、やっぱり夢だったのか・・・今夜ここに入って来たときにほんの一瞬感じた甘い感情は。

着物姿の紫月が妙に大人に感じられて、すごく素敵に感じられて、俺はちょっとどきどきしちゃって。

だけど、、、

やっぱり夢だった、やっぱり変わんない、紫月は紫月だ。帝斗だってそうだ・・・・

こうして着物を脱いでしまったならいつもと何も変わらない、いやらしいだけのエッチな大人。







ぐんぐんと後ろから激しく揺らされながら、前では口の中に入りきらない熱いものを銜えさせられて、

倫周の試練のときは今宵もまた火蓋が切って落とされたばかりであった。