白夜の幻
恋するものは地獄の苦しみ。抜け出したいけど叶わない。叶わないからまた嵌るの。

わかっているけれど、何も見ないで終わるより思いっきり傷付いてみたいと思うのも又地獄−−−−−





近頃はそんな流行歌が街に流れていた。ぼんやりとそれらを耳にしながら洸一の心はもはや

木蓮でいっぱいになっていた。





気がつくと洸一の足は木蓮のアパートへ向かっていた。

唄の通り盲目に突き進んで、そしてその通り地獄を見ることになっても

もはや洸一の心は木蓮に触れることしか考えていなかった。

もう一度、木蓮の細い身体をこの腕に抱いてあの綸子の髪を掻き乱してみたい、

うねるような淫らな嬌声をこの耳元ぎりぎりに聞きたい、

毎夜想うのはもうそんなことばかりで。

洸一は自分が抑えられなくなっていた。





北欧風の洒落たアパートの前に立ち、唯一つの窓を見上げる。

薄明りが漏れていて・・・

洸一の心は高鳴った。

今宵はどんな思いをしてもいい、又いつかのように木蓮を泣かせることになったとて

そんなことはもうどうでもよかった。只 只この手にその身体を抱き締められさえすれば

後はもうどうなったっていい、俺にはそれ程木蓮が必要なんだと。

洸一はまるで自分が遠く光源氏の物語の世界にでも行ったような面持ちでいた。



冷静に考えればやはり普通の精神状態では決して無かったといえよう、彼は木蓮を強姦してでも

その手中にするつもりでいた。

だが、、、

そうして登ったはずの階段の、たったひとつのドアの先に垣間見えた姿、聞こえてきた声、

その全てが洸一の全身を打ち砕くのに時間は掛からなかった。





「あぁ・・絢ぁ・・絢・・好き、好きだよ・・大好き・・・」

「ん・・?愛してるよ蓮・・・俺もお前を・・・・ぁあっ・・・!」

逞しい腕が陶器のような白い肌を抱え上げ。その部屋からは甘美な香りが満ち溢れていた。





ショックだったのか、只の偶然だったのか、目の前の景色がぐるぐると回った瞬間、

身体中に鈍い痛みが走り洸一はそのまま動けなくなった。

一体どうしたのだろうと考えながら遠くなる意識の中にけたたましいサイレンのような音を

聴いたような気がした。





目の前に赤く光る何かが見える、頭の中で回ってる、春の宵闇が青くって、その先には、、、

白い大きな花、、、大輪の木蓮が揺れていた。







                                           〜 F i n 〜