哀欲蜜月
ずっとこのときを待っていた

気の遠くなるような永い時間を

お前を穢すこのときだけを待って待って待ち焦がれて、気が違う程−−−−−










今は使われていない邸の離れの屋根裏部屋を月の灯りだけが映し出す鈍い闇の中で、クロロホルムで眠らせた

一之宮紅月の姿を見下ろしながら氷川白夜はにやりと瞳を細めた。

軋むような床板に横たえた身体からは小さな寝息が漏れている、

流れる雲が差し込んでいた僅かな灯りを遮れば、彼の真っ白なシャツが痛いくらいに瞳に反射した。





「ふ、、、ふふふ、、、、、やっと手に入れた、、、、、紅月、、、、、

俺がどんなにこのときを待ち焦がれてたかなんて、、、、解らねえだろう?」

つうと長い指先で頬を撫でながら白夜は独り言のように呟いた。





そう、、、このときを待ってた、、、、

気が狂う程の永い年月を経てお前がオトナになるこのときを、、、、、





「なあ紅月、、、、、お美しいお坊ちゃまー、、、、

何の苦労もなく大切に育てられたが故に明るくてやさしいお前がさ、俺は大好きだったぜ?

小さい頃から、、、、お前はいつも俺にやさしく接してくれたっけな? こんな、、、、使用人の子供なんかの俺を、、、

まるで大切な友達みたいに扱ってくれて。剣玉もビー玉もみんなみんな貸してくれて、、、さ?

身分なんて気にしねえってな感じで。

素直で明るくて幸せそうなお前が、、、、俺は本当に好きだったぜ?、、、、マジで、、、、惚れちまいそうなくらい、、、、」



白夜は眠っている紅月に話し掛けるようにベラベラとそんなことを並べ立てると、ふいと笑みを漏らした。



「くっ、、、、はははっ、、、、やさしい俺のお坊ちゃん、、、、紅月さまー、、、、

オトナになった今もあんたは全然変わらなくって、純情で素直で慈愛に満ちていて?

ふふふ、、、逆に言えば単なる鈍感なバカだってことに気付きもしねえ、、、、

けどよ紅月、そんなお前も俺は好きだぜ?

好き過ぎてどうしようもねえくらい、、、、、

毎晩あんたを想ってどれだけ悶えたか教えてやろうか?いやらしい姿を想像して、興奮して高まって、自分で抜くんだぜ?

お前の可哀想な顔、、、、俺に穢されて嫌がって泣いて、叫んで、、、、壊れてくお前の姿をさー、、、、

想像しながらずっと耐えてきた俺の気持ちなんかっ、、、鈍感なお前には解らねえよなあー?」

僅かづつだが強まっていく語尾が、天窓から吹き抜ける風に揺らされて掻き消された。







雲が早い−−−−−−







頻繁に見え隠れする月光に翻弄されるように長い指先が色白の頬を撫でて。

白夜は床に投げ出してあった果物ナイフで白く反射しているシャツのボタンをブツリとひとつ切り取ると、

床を転がる小さなそれを目で追って、うれしそうに口元を緩めた。

「はっ、、、、たまんねえ、、、、、たったコレだけでもう勃っちまったぜ、、、、、、

く、、ふふふふ、、、、、紅月ー、、、、お楽しみはこれからだってのになあー、、、、ふははは、、、、、」



逸ったようにブチブチと続けてボタンを引き千切ると紅月の色白の肌を露にした。



「綺麗だぜ紅月? ココ、、、、オンナみてえな桃色しやがって、、、、俺を誘ってやがる、、、、、

まだ、、、穢れなんて知らねえお前の身体はさ、、、、ホントに綺麗だよなー紅月ー、、、、、」

そう言って綻んだ胸元の花びらを濡れた舌先が絡め取れば小さな寝息が無意識に嬌声へと変わった。



「う・・・・・・・ん・・・・っ・・・・・・・・・」



何かされている違和感でも感じるのだろうか?切なそうに繭をひそめながら身を捩る。

力なく開いた唇から漏れ出した嬌声に白夜はとびきりうれしそうに瞳を細めると、

「はっ、、、気持ちいいのか紅月? お前、、、、意識ねえのに敏感なんだなー?

案外酷え淫乱だったりして?」



そう言い掛けて白夜は急激に瞳を翳らせた。



乳首を弄くりまわしていた指先も止めて、冷たい表情でじっと見下ろして。

「そりゃそうだよなー、、、、、あいつの子供なんだから、、、、淫乱で当たり前か、、、、、っ」

無感情のような冷たい表情のままでそう言うと、次の瞬間にはまるで憎しみをぶつけるように瞳をしかめた。





そう、、、、あいつの子供なんだからっ、、、、、

あいつの、、、、

お前の母親のせいで俺が、、、、俺たち親子がどんなに苦しんだかなんてっ、、、

お前は知る由もねえってか?

お前の母親、、、、、

あいつが親父を嵌めたりしなかったらこんなことになりはしなかったっ、、、、、、!











頃は大正末期、激動のその時代に白夜の一家は住み込みで富豪の商人である一之宮家に仕えていた。

早くに伴侶を亡くしていた白夜の父は、まだ幼かった彼を抱え住み込みで勤めさせてくれるというこの邸の

使用人として働いていたのだ。

当時白夜は6歳。まだほんの子供であったが、父親を助けるように、共に邸の掃除などの出来得る限りの

仕事を手伝っていたりしたものだった。

細々としてはいたが、それでも白夜は幸せだった。大好きな父親と一日中一緒にいられる喜びは

幼い彼にとってひときわ幸せなことだったからだ。けれどもそんな幸せが一瞬にして打ち砕かれる出来事が

白夜親子を襲ったのはそれから間もなくしてのことだった。

一之宮の邸の主は高齢のわりには若い妻を娶っていて、それは再婚だったにしろ主は若きその婦人をこの上なく

大切に愛しんでいた。けれども婦人の方にしてみれば、歳の離れ過ぎた主に物足りなさを感じていたのか、

主の部下と密かに逢引を楽しむという秘密を抱えていた。

まだ年若かった婦人は やはり若さみなぎる部下の青年と恋を楽しみ愛欲に溺れていった。

社交と仕事に振り回され留守がちの主の目を盗んでは淫らな密会を繰り返す日々が続いていたのだが、

或るときそんな様が主に気付かれてしまい、窮地に立たされた婦人は自分に非が及ぶことを恐れた。

最悪は離縁などという事態に成りかねない暗雲に、彼女が考えた苦肉の策、それが使用人だった白夜の父親を

陥れるということであった。

当時、妻を亡くして独り身だった父親は邸の夫人とは歳の頃も近かった。

婦人は色香を利用して白夜の父親を誘惑し男女の関係を作り上げると、わざと主に知られるように工作を

施したわけだった。

そして成るべくして成った、つまりは密会が主に見つかるようお膳立てをすると土壇場で掌を翻したように

白夜の父親を裏切ったのである。

使用人に無理矢理手篭めにされたと泣きついては主の懐へ飛び込んだ。

それまで婦人に部下との不義の疑いを抱いていた一之宮の主は、そのことで逆に疑惑が晴れたとでもいうように

妻の言うことを鵜呑みにし、若き婦人を抱き締めたのである。

それからは絵に描いたような酷い毎日が待っていた。

父親は手荒な拷問を繰り返し受けたことが原因で僅かの後に他界してしまう。その後残された白夜は

途方に暮れそうになったが、一之宮が子供に罪は無いと かばったことから、引き続き使用人として

邸で働くことになったわけだが。

まだ子供だった白夜に与えられた仕事は庭掃除やらの簡単な労働の他、邸の一人息子である「紅月」の

お守り役というものであった。年下の彼の遊び相手をしながら兄のように守ってやれというのが、一之宮の主から

差し出された仕事であって、そうして白夜はまだ幼い紅月の面倒を見ながら父親亡き後も邸での生活を

続けて来たわけだった。

紅月は一之宮が再婚してからの、つまりは大分歳の経ってから初めて授かった息子であった為、

主はそれは大切に彼を育てたわけで、それ故少々内弁慶ではあったが、おっとりとしたやさしい子供に

育っていった。

白夜のことも本当の兄のように慕い、年月が経って使用人という立場を理解出来る年頃になっても

紅月の態度は変わらなかった。威張ることもせず、どちらかいえば白夜に何でも相談し、頼っては

2人は仲睦まじい本物の兄弟のように暮らして来たのだった。

そして父親の他界から既に20年もの月日が過ぎようとしていた。











目の前に衣服を剥ぎ取った紅月の肌を眺めながら白夜は回想に瞳を細めていた。

「なあ紅月、教えてやろっか?

俺はお前の親父さん、つまりは此処のお館さまだが、、、、あの人には感謝してるんだぜ?

俺の親父を死に追いやった酷え野郎だけどよ? それでも親父の亡き後、幼かった俺を捨てねえで邸に

置いてくれたんだ、、、、

現実はどうあれ俺は生活の苦労をせずに今まで生きて来れたのだから。

だからすげえ感謝してる、、、、、本当に、、、、

感謝してた、、、、、、

あの日までは、、、、、、な?」





白夜は横たえた紅月のズボンを解きながら冷めた瞳で未だ回想を追い続けていた。






「あの日、、、、

何も知らずに俺は、、、、納屋に連れて行かれて、、、、、

お館さまは俺を犯したんだ、、、、、

日増しに親父に似てきた俺の顔が気にいらねえとかで。死んじまった親父の責任をとってもらおうとか

抜かしやがって、、、、、まだ性のことなんか何も分からなかった俺のことを剥いで無理矢理、、、、、」





解いたズボンを放り投げると下着の上からついと指を這わせる。

意識はないにしろ身体中の敏感なところを撫で回された紅月の性器は半ば高揚し、存在を増し始めていた。

そんな様子をぼうっと眺めながら指だけを無意識のように動かして・・・・・





「分かるか紅月? 俺がどんな気持ちだったか、、、、、

初めて経験させられて、しかも男になんかっ、、、、怖くて怖くてどうしようもなくて、、、、

気持ち悪くて、、、、身体中痛くて、、、、死んじまうかと思ったぜ?

お前の親父は楽しそうに笑ってたよ、、、、、俺を蔑んで哀れんで、、、、もっともっと泣き叫べとかって言われたっけな?

苦しいなら助けを呼んでみろとか、、、、どうせお前には誰も助けになんか来てくれやしないんだからって、、、

マジで、、、、うれしそうだったぜ、、、、あいつ、、、、、お前の親父さんさ?

今もうくたばりかけてるけどなー、、、、

病床で起き上がることも出来ねえってな? 気の毒に、、、、、

でもあいつは倒れる直前まで俺を嬲り続けたんだぜ?

あの納屋で無理矢理犯られちまった日以来酒を呑むと俺のとこへ来てよ? 殴られたこともあったっけな、、、、

いつも酷え乱暴に俺を抱いて、、、、何度も、、、、何度も、、、、、っ」





下着を撫でていた指先が癪に障ったようにそれを引き摺り下ろし、勃ちあがりかけた性器を露にして・・・・・





「ふふふ、、、、紅月、、、、、

だから待ってたんだ、、、、俺、、、、

いつかお前を手に入れて、、、、、思いっきり穢してやれるこのときをさ?

別に復讐なんて大それたもんじゃねえが。悲惨な俺の人生の中でお前はたったひとつの救いだったから、、、、

いつもやさしくて穏やかで素直で、、、、マジでお前といれて俺どんなに救われたことかって。

お前がいなきゃ耐えて来れなかったかも知れねえぜ? 何もかも嫌んなっちまってさ?

死んだら楽かなーなんて思ったこともあったもん、、、、

でもそんなときいつもお前がやさしくしてくれたから。俺が辛そうに河辺でしゃがんでるといつもお前探しに来てくれたっけな。

何も言わねえでただ側にいてくれたよなー、、、、

うれしかったぜ紅月、、、、どんなに救われたか分かんねえ、、、、

だから、、、、、待ってた、、、、、

お前が欲しいから、、、、、

全部、、、俺のモンにしてえから、、、、

他の誰にでもなく俺に穢されて、、、愛されて、、、、、壊れてくお前を見てみてーって、、、、、

あの頃からずっとっ、、、、、

ずっと思ってた、、、、、

ずっと、、、、欲しかった、、、、、お前のココ、、、、、

撫でて、、、、舐めて、、、、弄って、、、、、、壊しちまいてえって、、、、、!」







ああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・紅月っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







興奮した吐息、

滲み出る汗の臭い、

潤みだした紅月の性器から溢れる蜜をむさぼるように口に含んで。

「ん・・・・・・・・嫌・・・・・・・・・・・・んんっ・・・・・・」

無意識に、寝言のようにうなされた声が欲望を煽り立て。

まだ開かれたことの無い紅月の蕾にそっと触れて、指先を進入させれば言いようのない感覚が全身を貫いた。





「ああっ、、、、紅っ、、、、、、

これでお前は俺のもんだぜ、、、、、俺だけのもの(奴隷)、、、、、、

誰にも渡さねえー、、、っ、、、、、、、

一生俺だけのもんだっ、、、、

一生、、、、、お前を愛してやるぜ紅月ー、、、、、」







一生・・・・・穢し続けてやる・・・・・・・・っ!







蕾の中で潤った指先を抜き取って逸った欲望を押し込めば、白夜の頬に一筋の涙が伝わった。

そして今、複雑な想いを滲ませた20年分の涙と共に、白夜と紅月にとっての捻れた愛欲の年月が

新たに幕を開けようとしていた。








                                              〜FIN〜